第270話 再会のインフェルノ伝説
私のセンシティブコスプレな人も何人かいた。
大喜びでパシャパシャ撮影させてもらいつつ、
「あ、あの、私、イカルガエンターテイメントのスタッフなんですけど、きら星はづきさんの配信でこの写真を使わせてもらっていいですか……」
「えーっ、本当ですか!? いいですよいいですよー!! はづきっちに紹介されちゃうの嬉しい~!」
こんな感じのやり取りをして許可をもらった。
その後、ツブヤキックスでアップしたら、向こうから「どええええええ!? はづきっちのツブヤキックスアカウントから直でさっきの写真が!? えっ!? じゃ、じゃあさっきの、本物のはづきっち!?」「はづきっちがはづきっちのコスプレして会場に紛れ込んでるぞ!!」
うわーっ!
どよめきが広がっている!
「やってしまったねえはづきちゃん……。さあ、素早く移動しよう」
「移動しよう移動しよう」
私はぼたんちゃんを盾にしながら移動した。
彼女は妙に嬉しそうに、私の手を握りながら誘導してくれる。
いや、この建物の構造には私のほうが詳しいんですけどね……!
でもまあ、彼女がくっついてたらはぐれないし、いいのではないか。
「それにしても、みんな不思議だよね」
「何が不思議?」
ぼたんちゃんがしみじみ呟いたので、どういうことだろうと思ったら。
「みんなさ、明後日には魔将がやって来てこの辺りが戦場になるっていうことを知ってるんだよね? なのにみんなで遊びに来て、ワーッと楽しんでさ。他の国では大きい戦いがあるぞってなったら色々なイベントを中断して立ち向かうでしょ。なのに負けて無くなっちゃった国も多いって聞くし」
「うーん、なんかね、迷宮省から『極力イベントの中止をするな』っていう通達が出てるんだって。自粛したりすると、むしろそれはダンジョンの力になるんだそうで」
「そうなんだ……。それにしたって、みんなもこんな楽しそうに参加してて、本当に不思議……」
「楽しければオッケーじゃないでしょうか! ということで、インフェルノのとこ行こう行こう」
私はぼたんちゃんをくっつけたまま移動した。
リュックから、黒い不透明な超大型エコバッグを取り出す私。
「は、はづきちゃん、それは……」
「コミックイベントに来たら、本を買わなきゃでしょ……」
ということで、インフェルノのブースに向かうまで、気になるところをぐるぐる回っていくのだ。
「あっ、読んでもいいですか」
「どうぞどうぞ」
「ははぁ、ほー、ふーん、おほー。じゃあ下さい」
「ありがとうございまーす、500円でーす」
これを不思議そうに眺めているぼたんちゃん、サークルの人に会釈して一冊手に取り、パラパラ読む。
そして、私が買ったのと同じのを一冊買った。
「不思議な文化……」
「でしょー。同人誌はいいよー。同好の士が作ってくれてるんだもん。愛120%だよね」
「そんなものなの……?」
おっと、ここから先は猛烈な人混みだ。
あちらは女子人気が凄まじい、銃剣乱舞とかスパイラルワンダーランド……通称スパステとか、ポートボールに青春を賭けた男子高校生たちの漫画とかの地域なのだ。
「ぼたんちゃん、あそこに踏み込んだら戻ってくれなくなるから私から離れないでね」
「ダンジョンの中でもはづきちゃんにそんなこと言われたこと無い! そこまでのものなの、コミベは……!」
そこまでのものなのだ!
行列は途中途中でスタッフさんが管理しているので、通過できる隙間が設けられている。
ここを走らず、落ち着いて通り過ぎる……。
「はづきちゃんはああいうゲームとかしないの?」
「私はその、可愛い女子がでるゲームの方が好きなので……」
「あ、そっちは私と同じだ」
なんかニコニコするぼたんちゃん。
そうかそうかー。
分かりあえて嬉しい。
今回みたいなコンテンツは、受付さんが大好きなやつだもんね。
ちょっと移動したら、BLコーナーに突入した。
「う、う、うわーっ」
過激なBLの数々に、免疫のないぼたんちゃんが赤面している。
私は冷静にブースを周り、
「これ、拝見していいですか」
「どうぞどうぞ」
「ほうほう、ふむ、へえ、おほー。じゃあ下さい。新刊既刊全部」
「ありがとうございます! セットで3000円です!」
「……はづきちゃん、こっちもいけるの……?」
「GLもBLもえっちなのも嗜みます……」
父からもらったパソコンで英才教育を終えてるからね。
そうやって広大なBLエリアを抜けるうちに、私のエコバッグはなかなかの重量になって来た。
これは……家まで梱包して送るべきかも知れない。
そしてついに本日のメインイベント!
インフェルノのブースだ!
「はづきちゃん、なんかあそこの一角だけ異様な雰囲気なんだけど……」
「アメコミっぽいシャツとかコスプレの人が並んでるねえ。あそこはアメコミブース」
「そうなんだ……」
ぼたんちゃんが警戒している!
だけど全然怖くないよ。
「インフェルノ~!」
私が手を振ったら、一番ムキムキな白人の男性がハッとした。
そして、満面の笑顔で手を振り返す。
「リーダー! 久しぶりだな!」
すかさずAフォンが翻訳してくれるぞ。
「インフェルノも元気だった? これ新刊? わー、本当に私が表紙になってる! うわーっ、インフェルノさすが上手い!」
「同人誌だからこそ俺が描けるが、普段はペンシラーが俺のラフを清書してるんだよ。俺は漫画家じゃなくてコミックライターだからな」
「なるほどねえ。じゃあ全部ちょうだい。配布用も入れて五部ずつ」
私は一万円札を出してたくさん買った。
「あれっ? リーダーじゃない」
そこに戻ってきたのは、なんとビクトリアだ。
「あれー? ビクトリアどうしたの?」
「今日はインフェルノのブースで売り子をしているのよ。そのついでに外に出てたくさん買ってこれるわ」
ビクトリアにとってもお祭りみたいなものだもんね。
それにインフェルノは、往復で何百万もかけて日本に来てるので、どれだけ本が売れても大赤字確定。
これはもう、彼の趣味なのだ!
私たちはここで、同窓会みたいな感じでお喋りを楽しんでしまった。
懐かしいなあ、アメリカ遠征。
「ジャパンはこれから、トップクラスのジェネラルデーモンが来るそうじゃないか。なのにこうやってコミックイベントを大々的にやってるクレイジーさ、嫌いじゃないぜ」
「うんうん。楽しいことはやっぱ絶対にやりきんないとね!」
全くだねえ、と同意し合う私とインフェルノとビクトリアなのだった。
今度はカイワレも加えてみんなで同窓会したいなあ。
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