第271話 コミベ二日目伝説

 コミックイベント二日目……。

 空が白み始めるころに私とビクトリアは目覚め、素早く朝食をとった。

 その後、おにぎりなどを作り、両親とカナンさんのお昼用のお弁当を用意して冷蔵庫に入れ、私たちの分も用意したら出発だ。


「リーダー。着替えはコスプレ更衣室でやるの?」


「表向きはそんな感じで……。でも、今回はあえてバーチャライズした姿で行こう。案外バレないし」


「なるほどね……。私、昨日は私服だったから」


 なお、ビクトリアの私服も大人しめのゴスロリなので、そんなに変わっていない。

 バーチャライズしているときよりお化粧が地味なので、印象が違っているだけだと思う。


 で、私はビクトリアからヒラヒラを抜いたみたいな、ふんわりワンピース。

 二人並ぶと姉妹みたいに見えるかも知れない。


 電車に揺られ、国際展示場駅へ。

 見えるのは、大地に突き刺さる逆三角形会議室、巨大展示場の東京ビッグトライ。


「今日も頑張るぞ!」


「おー!」


 駅で二人、気合を入れた。

 私のリュックにはドリンクホルダー用のベルトが装備されていて、ここにスポーツドリンクが三本刺してある。

 ビクトリアは細身のキャリーケースを引っ張ってきていて、そこにスポーツドリンク三本を装備していた。


 さらに日傘!!

 日焼け止め!

 汗拭きタオル!


 完璧なのだ。


 午前中から猛烈な日差しが降り注いでくる中を、アーリーチケットの列に並ぶ。

 明日は魔将が上陸し、ものすごい戦いが始まり、その中で私のハッピーバースデーイベントをやるというのに。

 みんな今日という日の戦いに全てを賭けている……!


 配信者や東京は明日が勝負。

 私たちオタクは今日が勝負なのだ!


「リーダーは連日の戦いで大変ね」


「昨日と今日はむしろご褒美だよ。めっちゃエネルギーもらってるもん」


「確かにリーダーがツヤツヤしてる」


 待機列も二人でいると、おしゃべりできて盛り上がる。

 持つべきものは同じ趣味を持つ仲間!


 今日は男性陣にとっての本戦みたいな日だったりするので、並んでいるのは男の人が多い。

 首に濡れタオルを巻いて瞑想する縦横に大きい人とか、ミリタリーっぽい格好をしていて空調服のファンをブンブン回してる人とか。


 みんな暑さ対策をしている。

 暑さに負けていては、目標のブツまで手が届かないからだ。


 半分は企業ブース狙いかなあ……?

 お喋りしつつ周囲を見回す。


 そうこうしていると列が動き始めた。

 昨日の午前組よりもずっとスムーズだなあ。

 さすがは午前チケットの三倍の価格がするアーリーチケット。


 激しい競争率の中を勝ち取っただけある。

 これはビクトリアもそう。


 そして入場前の待機です。

 本来コスプレ目的なら、更衣室の先行入場チケットでもいいんだけど。

 私たちの目的はあくまで本!


 コスプレは正午からでいい……。


「午前中はこことこことここ。私はこっちに行くからビクトリアはこっちね」


「了解! 腕が鳴るわ……!! 憧れのコミックイベントで、心強い仲間とともに回る! 私の夢だったの」


「冬は私たちでサークル参加しちゃおっか」


「いいわね! しようしよう!」


 大いに盛り上がる私たち。

 なんだか周りの男性陣が優しい笑顔になって、私たちを見つめているような。


「あ、あの、サークル参加ってことはイラストとか描かれたりしてるんですか」


 あっ!

 まんまるなおじさんが話しかけてきた。

 大変恐縮したような感じだけど、思わずといった雰囲気。


「あのあのあの、い、い、一応イラストを……。3DCGいじってアバターみたいなのも自分で作ってて」


 周囲から「オオーッ」とどよめきが上がる。

 みんな聞いてるじゃないか!


「すごい! サークル出されたら買いに行きますね!」


 おじさんがニッコリしたので、私もにっこりしておいた。


「リーダーのコミュ力上がってるわよね」


「同じ陰の者だと割といける。緊張するけど」


「成長成長」


「そうかなあ」


 褒められてニヤニヤしてしまった。

 そしてとうとうコミックイベントこと、コミベ開場です。


 ボランティアスタッフさんの誘導に従い、粛々と入場する私たち。

 みんな戦士の目になり、目標とする場所へと移動を開始する。


 私もビクトリアとアイコンタクトして、それぞれ分担したブースへ向かった。

 並んで買う。

 並んで買う。


 私は全年齢向け。

 ビクトリアは年齢制限ありのもの。


 正午までノンストップで動き回り、私たちは合流した。


「リーダーはまだ16歳だからここで本を渡すわけにはいかないわね……」


「うう、生殺しだあ」


「大手サークルがリーダーのエッチな本を描いてたわよ。ボタンが相手役ね」


「ほほー、いいですねえー」


「自分が題材になってても全然気にしない辺り、リーダーは強いわね……」


「私もぼたんちゃんも、そこはOKって出してるからね。もみじちゃんとはぎゅうちゃんがアウトなだけで」


 この辺りの二次創作の可不可は、イカルガで細かく決定しているのだ。

 もみじちゃんとはぎゅうちゃんは子どもにも人気だから、イメージ戦略でもあるね。


 そして時間になったので、私たちはコスプレ広場でお着替えなのだ。

 と言ってもバーチャライズするだけだけど。


 最近は理系方面から来た人が、バーチャライズコスプレをしたりしてるので珍しくもない。

 以前は、上にアバターを被るだけなんてコスプレとして邪道だ、みたいな意見が出てたんだよね。


「あれ!? はづきっち!?」「ビクトリアもいる!」「あ、コスプレかあ」「バーチャライズタイプのコスプレね」「二人で合わせてるんだ?」「いいなー」「それにしても異常に似過ぎじゃない? 確かイカルガ、必ず相違点を作るようにっていうルールがあったはずだけど」


 あったあった。

 あれはですねー。

 私そっくりのコスプレしてると、本人と間違えられた時に被害に遭ったり、周囲が混乱するからなんですね。


 でも私たちは大丈夫!

 だって本人だから!!


「じゃあ行くよビクトリア! コスプレ広場でちょっと撮影したら、他のサークルさんをぐるっと回ろう! 14時撤退で」


「了解したわ! レッツゴー!!」


 二人でコスプレ広場へと飛び出すのだった。


 ビクトリアはいつものゴス衣装で、そのバージョン3。

 体にフィットしたスレンダーなやつ。


 私は去年のハロウィンで見せた、チベットスナギツネのやつ。


 すぐに撮影したいっていうカメラの人が集まってきて、ローアングルから撮ろうとする人はAフォンが光り輝いて妨害した。


「ウグワーッ!!」


 どこにでも迷惑な人はいるものです。

 そして昨日も会った、広島VS大阪シャツのカメラの人が来て、なんか愕然としていた。


「な、なんで本物がここに!? 初回配信から見続けているから分かるぞ、本物だ……!!」


 なんかぶつぶつ言っているのだった。


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