第396話 はづきと意外な出会い伝説
昨夜はチャラウェイさんと軽く打ち合わせして……。
今朝はスレイヤーVさんのメールに返答して……。
はあー。忙しい忙しい。
朝ご飯を食べて、私は登校です。
2月も半ばになって、ずーっと忙しい。
今月はダンジョン配信を一つもやってないなあーなんて思う。
いつの間にか南くろすさんは教育実習を終えてて、普通に私の配信者友達になっていた。
ちょこちょこ全世界のロケット情報とかを教えてくれたりしている。
ありがたい~。
つまり、うちの学校は元通りになっているということでもありまして。
「学校はのんびりできていいなあ」
などを私が呟きながら、席でまったりしていると。
「ね、ねえ」
クラスの委員長が声を掛けてくるのだった。
彼女はメガネをクイッとやって、
「最近、きら星はづきちゃんがあまり活動してない感じなんだけど、どうしたのかしら」
「ど、どうでしょうねえ。雑談とか作業配信はよくしてますけどぉ」
「うん、あれはあれで見応えあるんだけど、なんでダンジョンに潜らなくなっちゃったのかなーって。この間の宇宙ので怪我でもしたのかな……」
なんだか心配そうなのだった!
そっかー!
そういう不安を与える可能性があった!
ご覧の通り、私は傷一つなくピンピンしています。
だが、別の企画関係でずーっと動き回っているから、ダンジョン配信をする余裕がないのだ!
あと、プラモデルとフィギュア、さらに配信ゲームへのゲスト出演とかですねー。
この間も、ゲームにキャラとして出るからって、公開生放送番組出演を打診されてしまったのだった。
うひー、忙しい!
とりあえず私、来年度になるまではこのバタバタをやっつけるぞーというつもりなので、やれそうなお仕事は受けていく所存。
つまり、4月になるまでダンジョン配信は無いと思っていただきたい……!
「はづきっちに危険なことして欲しいわけじゃないけど、ダンジョン配信が全然ないのは初めてだしねえ。なんかこう、不思議な感覚」
ずっと見てたリスナーさんはそう思うのかも。
今は兄曰く、『お前が一部のリスナーのみならず、全世界に知れ渡っていくフェーズなんだ。なんとなくで登録した人達の生活のあちこちにお前がいる。そのことで、今後やってくるであろう決戦で最大の助力となってくれるであろう布石を張っている』
……なんだとか。
いつもながら、何を言っているんだあの人は。
で、私が出てこない間、他の配信者さんたちが活発化!
ダンジョンをもりもり攻略してる。
業界が元気になるのはいいことですねえ。
なんでも、私が配信するとそっちに同接が集中してしまったりするんだとか。
配信のペースや時間も考えないとですねえ……。
「なんか遠い目をしてる……。ご、ごめんね。関係ないこと言っちゃって」
いや、全然関係あるんだけど。
でも答えられないことが120%なのだ。
委員長が去っていった。
うーむ、と唸る私。
他に、ダンジョン配信くらい、リスナーのお前らに安心感を与える方法は無いものか……。
だがそれはそれとして、やっぱり座ってるだけでいい学校は大変楽ちんなのだった。
学校でものすごく休息できた後、私は帰宅。
ついでで、駅前で何かおやつを買っていこうと足を向けたら……。
なんだか人だかりが。
なんだなんだ。
人波の中から、大きなトナカイの角みたいなのがぬーんと突き出してる。
ますますなんだろう?
あれは一体?
野次馬根性を刺激され、私はその様子をそろーっと見に行った。
人混みに入るのは苦手なので、そーっとAフォンを飛ばせて上空から撮影。
おや?
あのトナカイの角は、人だかりの真ん中にいる女の人の頭から生えている……?
そっか、町中で、ごっついアバターを着た配信者がいきなり現れてしまったんだ。
これはよろしくない。
目立つのはいいけど、交通の妨げになりますね。
私はAフォンを飛ばして、トナカイ女子の耳元で囁かせた。
「あのう」
「ひゃっ」
びっくりするトナカイ女子。
「下等な人間たちばかりかと思ったら、いきなりお祖父様に匹敵するほどの存在力を持った声が……」
何を仰っているのか。
「ここだと目立つので、なんとかして角を目立たない感じにしてですね。移動を……」
「あ、なるほど……。こやつらはわらわの角に注目しておったのか……。忠告感謝する。ここで暴れると計画がご破産になる関係で、どうしたものかと思案しておった」
「あっあっ、警察もやって来ました。急いで急いで」
「急かすな急かすな……! えーい!」
トナカイ女子が、何か現代魔法みたいなものを使った。
そうしたら、周りの人達が一斉にぽわーんとなってしまう。
彼女はその間を、堂々と抜けてきた。
私がパタパタ手を振るとこっちに来る。
「わらわが少しばかり本気を出しても、正気でいる……。声の主はそなたかや?」
「そ、そうですそうです。新人の配信者さん? あまり目立っちゃうと活動しにくくなりますよ……」
「おお、そなたの中から強大な力を感じる……。それほどの存在の言葉、信用せぬわけには行くまい。では移動しよう」
「角、角」
「あっ、失敬」
トナカイ女子は角を消した。
「アバター的にその角重要なんです?」
「これはだな。わらわの祖父が敵対する勢力の女神を討ち取ったときに奪った力よ。誇示するためにこうして身につけている」
「なるほどー」
彼女は、ワイルドな感じの褐色の肌の長身女子。
深い青色で中に星が瞬いているように見える全身タイツみたいな服を着てるので、目立つっちゃあ目立つ。
だけど角があるよりはマシかなー。
「それよりそなた、配信者と言ったな?」
「え、ええ配信者ですよー。……も、もしかして配信者ではない……!? わ、私は秘密を漏らしてしまった!? あひー」
なんたることー!
私は己の日常が崩れる予感にガクガク震えた。
「お、落ちつけ! 落ちつくのだ! う、うん。わらわはそう。その配信者……とか言うのに憧れてだな。うん。やってみようと思っていて」
「なるほどー。それでそのアバターを作った? あれ? もしかして異世界人? じゃあ立ち話もなんですから、そこのコーヒーショップに……」
私はトナカイ女子を連れて、お店に入ることにするのだった。
新人を導くのは先輩の努めだからね。
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