ハッピーバースデーな私と激動の世の中編

第267話 もみじちゃんのコラボパン伝説

 もみじちゃんが、パンメーカーとコラボしてパンを出しているのは有名な話。

 私もちょこちょこコンビニで買ったりもするけど、やはり彼女の実家で作っているコラボパンがダントツで美味しい。

 値段も三倍くらいするけど。


「メーカーは流通させるのと日持ちさせないとだから、色々制限ありますしねー。でも凄く美味しく作ってくれてますよ。うちで作ってるのはコスト度外視だからで、でもお陰でお店に置いたら一時間以内に完売しますしー」


「めちゃくちゃ売れてた!!」


 その日のパンを一個もらった私は、もりもり食べるのだ。

 鹿の頭の形をしたパンで、中には味付けひき肉が入ってる。

 味わいはスパイシー。


 ご飯にするためのパンだ!

 主食であり、主菜も中に入ってる……。


「美味しい~」


「でしょでしょ。ということで、今日はメーカーさんにお邪魔して、はづき先輩にはコラボ会議とか試作に参加してもらおうという企画です」


「な、なんだってー!」


※『ここまでが茶番か……』『もみじちゃんは実家もパン屋さんなんだな』『あれだけパン愛を語ってるんだからパン屋で当たり前だろうな……』


 なんかもう、もみじちゃんは実家バレしているという噂があるらしいけど、彼女のファンたちは大変民度が高いのだ。

 常にパンを食べてお腹が膨れているからかも知れない。


 聖地巡礼の総本山ということで、パンを買ってる人もいるのかも。


「じゃあ、メーカーさんが用意したバスに乗ってですね」


「ほいほい」


 マイクロバスで、工場まで運ばれていくのだ。

 本日は、明け方くらいの時間帯。


 パン工場は一晩中動いてるけど、この時間は工場が一時メンテナンスをしたり、社員の人が出勤してくる時間帯なのだ。

 工場に到着したら、ちょうどいい時間だった。


「ようこそ、きら星はづきさん! 私がこの工場長です!」


「あっあっ、どうもどうも」


 私はペコペコしながら握手した。

 恰幅のいいおじさんだ。

 フレンドリーな感じだけど、陽の者の気配を纏っている……!!


※『はづきっち、陽の者が本当に苦手なんだな……』『もみちゃんは割とグイグイ行くから凄く新鮮』


 ほうほう、もみじちゃんは、みんなからもみちゃんと呼ばれているのか。

 愛称があるのはいいぞー。


 なお、はぎゅうちゃんは「はぐっさん」ぼたんちゃんは「お嬢」ビクトリアは「トリシア」とか「ビッキー」である。

 ファティマさんは早々に「ママ」って呼ばれてるけどね。


「今日は会議から、実際にコラボパンを作ってみるところまでやってみましょう!」


「はーい!」


「う、うっす」


※『はづきっちが塩水を掛けられた菜っ葉のようだw』『大人しすぎるw』


 そりゃあ、私も人見知りはしますからね……。

 ダンジョン関連じゃないとこんなもんですよ私は!


 だが、いざ会議が始まるとテンションが上がってきた。


 なにっ、パンの中にソーセージの輪切りを連続で並べて、ピザソースを!?

 歯ごたえが想像できる……。

 プチプチとしたソーセージの食感をずっと味わえる上に、パンは平たくて食べやすい……。


 いいじゃないかいいじゃないか。


「どうですか先輩? これ、うちが出した企画のパンでですねえ。小さい子も食べやすいように薄くて千切れるプチプチソーセージパンで」


「いいですねえ~。例えば表側はもみじちゃんの可愛いデザインにして裏側に格子っぽく跡をつけて焼いて、表から見て楽しい千切りやすい工夫もしてある、みたいだと捗りますねえ」


 おおーっとどよめく会議室。


「いいですな、とても具体的な消費者目線の意見だ! 取り入れて一つ作ってみましょう!」


 工場長が判断した。

 パンが食べられる!?

 おほー、こいつはワクワクしてきましたよ。


「はづき先輩、食べ物のことになると頭の回転がすごくなりますね!」


「出された食べ物を前にすると回転が止まるけど、食べ物を作るとなると早くなるね……」


※『今回のコラボ、もみちゃんのはづきっちリスペクトが見えていいねえ』『目がキラキラしてるもみちゃんは可愛い』『いつも可愛いけどな』


 もみじちゃんのリスナーさんたちは本当に民度が高いなあ。

 草を生やしてひたすらツッコミをいれてくるどこかのリスナーとは大違いだ。

 私の配信ちゃんねるは常に大草原だよ。


 さてさて、私たちも滅菌室で消毒し、帽子に白衣に手袋で工場に入ってきた。

 パン生地がこねられてますねえ。


 必要な分の生地が出てきたので、ここでベテランの人がソーセージをぱぱぱっと輪切りにし、並べてからピザソースをぱぱぱっと掛けて……。

 パン焼窯へドーン!

 もちろん、プレートは格子型に盛り上がっている。


 今回は発酵させないピタパンで行くのだ。


 しまらく待つと、大変美味しそうな香りが漂ってくる。

 じりじりしながら待つ。

 その間にパン工場を一通り見学した。


 全部美味しそう。

 こりゃあ美味しいパンが毎日コンビニやスーパーに並ぶわけですわ!!


「はづき先輩がお腹をすかせて殺気立ってる!」


※『そりゃあね』『本当に食べるの大好きな人なんだなあ』『もみちゃんになだめられながら戻っていくぞ』


 工場から出てさっきの部屋へ。

 お腹がぐうぐう言う。

 これは大変なことですよ、大変な。

 なにか食べなければ落ち着かない。


 私が深刻な顔をしていたら、とうとう出ました。

 焼き立ての試作パン!


「おほー! 待ってました!」


「あっ、はづき先輩、まだ焼き立てのあつあつで……!」


「あつ、あつ、ほふほふ、うま、うま」


「まあ、先輩が幸せそうならそれでOKです」


※『恋する乙女みたいな笑顔ではづきっちを見つめるもみちゃん』『スクショタイムだ!』『ダンジョンでは不思議なことをしてるけど、普段は誰よりも世話焼きで常識人だからね……』『はづきっち、今日はコラボしてくれてありがとう』


「? どういたしまして?」


 私はお腹をすかせて、焼き立て試作パンを食べただけだが?

 しかしこのパン美味しいなあ!

 お店に並ぶのが今から楽しみだし、もみじちゃんの家で出るスペシャル版があまりにも待ち遠し過ぎる。


「ご実家でパンを作るのはやはりもみじちゃんが……?」


「両親と三人でやろうと思います! みんなちょっとこだわりがあるんで、三種類のスペシャル版が出ると思いますよ」


「ひええええ全部買う」


 私は嬉しい悲鳴をあげるのだった。

 世の中にまた新たな美味しいものが生まれてしまった!


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