第147話 見せ方にも工夫が必要伝説

「お前らこんきら~! 今日は自社コラボです。と言ってもまだうちだと私しか活動してないんだけどー」


※『こんきらー』『こんきらー』『こんきら! デビュー前にまたチラ見せするのかw』『次は誰が来るのかわかってるけどねー』


「はい、予想の通り! ビクトリアがこっちに来てうちの所属になります。でもまだ旧ビクトリアのままです。ほらこっちきてビクトリア!」


「ハ、ハロー」


 ひょこっと顔を出すビクトリア。

 コメント欄がうおおおーっと流れた。


※『日本にビクトリアちゃんいるー!!』『向こうだと活動がしばらくオヤスミになってたからどうしたんだろうと思ってたら……』『移籍の準備だったんだな!』


 シルエットでビクトリアの事はわかってただろうけど、それでも正式にイカルガ所属になると聞いて、みんな大喜びだ。

 うんうん、私も嬉しい。


「オー、歓迎されてる……」


「そうそう。みんなビクトリアのコトが大好きなんだよ」


「リアリィ……!?」


 ビクトリアがちょっとニヤけている。

 本国で受ける反応と大違いだもんなあ。

 君は日本人受けするんだ。


「あと、チラ見せの後輩ちゃんも一緒です。彼女の全身像公開はもうちょっとだけ先だからチラチラ見ながら焦れててね」


※『なんちゅうお預けをしてくれるんや』『はづきっちファンの間では姿の予想が盛り上がってるよー』『ちっちゃくて可愛い声ということはわかってる……』


「う、うちが可愛い……!? はひぃ」


※『声がした!』『かわいい』『はづきっちをカピバラやアルパカみたいな可愛さだとすると、モルモットとかウサギみたいな可愛さ』


「誰がカピバラやアルパカかーっ」


※『w』『怒ったw』『鎮まり給えはづきっちー』『なぜに荒ぶるのかー』『俺らがカピバラ扱いしたせいだろうがw』


「ええい、お前らに付き合ってたら話が進まないので、早速ダンジョンに行きます!」


「はづき先輩、リスナーとわちゃわちゃ殴り合ってて凄いなー。これがベテランの技……」


「うんうん、リーダーは凄いよねえ……フフフフフ……」


 私の後ろで、もみじちゃんとビクトリアがお喋りしている。

 私をネタにしてちょっとずつ仲良くなっているみたいだ。

 良かった良かった。


 こうして挑むのは、高架線路の下をくぐる、短いトンネル。

 そこがダンジョン化してしまったのだそうだ。


 幅10mちょっとの短いトンネルなんだけど……ダンジョン化した今は、向こうが見通せない状況になってる。


「えっと、ここで事故にあった人がいて一気にダンジョンになったみたいで……。ブレーキとアクセルを踏み間違えて……」


 もみじちゃんの読み上げに、私はうんうん頷く。


「今の時代事故には気をつけないとね」


 すぐダンジョンになっちゃうから。

 さあ、本日の探索始まりです。


「えっと、私はフォローに徹するので二人でやってみて。時間はね、ええと30分で行けるでしょ」


※『30分w』『はづきっち、自分のペースを相手に求めてはいけないw』『配信業界最速レベルのダンジョン踏破してるんだぞあんたw』『謎も伏線も粉砕しながら突き進むからな……』


「みんな学生なので、勉学と両立するために素早くダンジョンをクリアしないと……」


※たこやき『確かに理想ではある』もんじゃ『はづきっちから最速ダンジョンクリアを学ぶわけか。いいと思うな』おこのみ『はづきっちのサービス精神も学んでー!』


 何のサービスを求めているのだおこのみ!


「サービス……。オー、そう言えば。イエスタデーにリーダーのお風呂で洗いっこしたわ」


※おこのみ『エッッッッッ!?』『なんやて』『えらいこっちゃで』『大型新人ですわこれは』


 盛り上がるなコメント欄!


「センシティブ! センシティブです!」


「リーダーはふんわりしてて柔らかくてあったかくて、二人で入るとジャパンのバスタブはちっちゃいよ」


※『うおおおおおおお』『わああああああ』『あひいいいいいい』


 あーっ、センシティブお前らが昇天していく。

 彼らがわあわあ叫んでいる間に、もみじちゃんもビクトリアも装備を用意していた。


 もみじちゃんはバーチャルバゲット。

 メインのプレーンバージョンと、色々変形する惣菜バージョンの二つを常備してる。


 ビクトリアは……スポンジ弾を発射するライフルおもちゃ、ラーフ!

 後はバールのようなものと、ナタのようなもの。

 パワーアップしている……。

 物騒な装備で行くスタイルなのね。


 こうしてダンジョンに突撃した私たち。


 高架下ダンジョンで襲ってくるのは、ゾンビ化したネズミとか鳥とか。

 みんな元々のサイズよりもずっと大きくなっている。


「ぞ、ゾンビはいけます! ネズミより怖くないぃぃぃぃ! うおー!」


 バーチャル惣菜バゲットが、ホットドッグに変形する!

 ソーセージがニュルンと打ち出されて、飛びかかってくるゾンビネズミを撃破した。


『ヂューッ!!』


 戻ってくるソーセージ。

 そういう仕組なんだ……。


 さらにもみじちゃんには、トングとかつまようじとか、パン屋っぽいグッズが武器として用意されるらしい。

 ファンシーパン屋さんスタイル!

 もみじちゃんはファンタジックな配信になりそうだ。


 対するビクトリアは分かりやすい。


「ゴートゥーヘル!!」


 打ち出されるスポンジ弾が次々にモンスターを撃破して、近寄ってくる相手にはラーフを投げ捨ててナタで斬りかかる。

 おー、ワイルドスタイル!


 ゴス衣装も返り血を浴びてるけど、これも大変彼女らしい。


 お前らは、ドン引きする層と大盛りあがりする層でスパッと分かれた。


※『はづきっちと比べると、新しい子はなんかより謎っぽい戦い方してる』『ファンタジーパン屋さんスタイルだ』『ビクトリアが泥臭いw』『血みどろバトルえげつねえw』『飯食いながら見れねえ』


 二人ともファン層が被らなそうで何よりだ。

 ビクトリアは後々、電動ドリルとかパイルバンカーとかそういうのも使っていく方向性らしい。


 ゴスロリ+物騒武器群!

 これもある意味ファンタジー。


「じゃあ、ファンタジーな二人を見せたので、現実的な私がサラッと決めましょう……」


※『待ってました!』『はづきっちが現実的……?』『一番ファンタジーでは』『おかしいな……。用語が間違ってる気がする……』


「うるさいよ!? えーと、バーチャルゴボウを抜いてですね……」


『ウボアアアアアア!! この恨み晴らさずにいられようか!! スマホ運転ではねられた恨みは忘れな……』


「あっ、そこにいると危ない」


『ウグワーッ!!』


※『抜き打ちゴボウ一閃!!』『常に身も蓋もないw』『いつもながらまともに見もせずに撃破!』『戦い方は一番シンプルなのに、誰よりもファンタジーだw』


 ボスらしき怨霊が倒されたので、高架下ダンジョンはただの短いトンネルに戻ってしまった。

 ちなみにスマホ運転ではねられた人は、ここに恨みを残していっただけで本人は元気に暮らしてるらしい。


 残留思念がモンスターになって、ダンジョンを産んだりするんですねえ……。


「はづき先輩やっぱすごー。うちもあれを目指さなくちゃ!!」


※『いや、あれは別次元w』『後輩ちゃんは現実的に行こうな……w』


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る