第421話 GW頭の大事件伝説

 サッとGWがやって来たので、我が校も大型連休に入った。

 新入生のみんなはもう学校に慣れたことだろうか。

 なんかこの長い休みの後だと、五月病というのに掛かって通学がおっくうになると聞きますが。


 まあ、うちの学校はそういう要素がある人は面接で弾いてるので大丈夫でしょう。

 あれ、よく考えたら普通の面接じゃなく、陰陽術みたいなのでその人のこと細かく探り入れてない……?


 自分でできるようになったから私も分かるぞ。


 とかやっていたら、私の部屋の扉をノックする音がした。


「どうぞー」


「入るぞ。はづき、大変なことになっているようだ」


 開口一番、カナンさんがそんな事を仰った。

 なんでしょうか。


 私は今まさに、自分をモデルにした宇宙服フィギュアを監修しているところだったのだ!

 小包で届いた原型、あちこちむちむちしていて実にけしからん。


「はづきのフィギュア? かわいいわね。色が付くのが楽しみだわ……じゃなくて。今はもっと大事なことがある。政府の配信を見て」


「政府の? はいはい」


 アワチューブで、なんか大々的に配信しているみたいだ。

 ライブ配信中?


 画面の中では、明らかに人間ではない人が今の総理の人とにっこり微笑みながら握手してる。


「これはどういうことかしら」


「どう見ても魔族だ。つまりだな。奴らは内部から懐柔するつもりだということだ。外側からの影響を与え、人類を揺るがすことは困難だと判断した。だから、国家の中枢に働きかけて人類を崩すつもりだ」


「ははあー、なるほどー」


 尖った耳で青い肌をして、ふわふわ浮かぶローブから首と腕だけ突き出しているようなのが映っている。

 つまり、この人はダンジョンの元凶である魔王の使者ということかしら。


 下にテロップで、ファールディア全権大使ジーヤーセブンと書いてある。

 同じようなのがあと六人いるみたいな名前ですねえ。


「この世界は文化的だからこそ、ああやって友好的に出られた場合、それを突っぱねることが困難だ。奴ら、それを調べてきたんだ……」


「なかなか厄介」


「……」


 カナンさんがじっと私を見た。

 なんだなんだ。


「まあ、はづきなら平気か」


「な、なんでー!? なんで今そういう判断をしたのかー」


 意味ありげな視線は何を思ってのことだったのか。

 風評被害です!


「はづき、迷宮省とやらがおかしくなった時も、全く構わずに普段通りのスタイルで配信し続けていたそうじゃない」


「あ、それはそうです。だって別に配信は配信、迷宮省は迷宮省なんで。で、気がついたらあっという間に長官が変わってた」


「自分が敵を追い詰めた自覚がない……! そこが多分、敵が全く理解できないはづきの恐ろしいところね。内部に入り込んだり、社会を支配すればするほどその中で何よりも自由に動き回るはづきという毒の威力が上がる……」


 私は目を見開いて、口をポカーンとあけ、カナンさんを指さしてわなわな震えた。

 な、なんという仰りよう!

 私もあれですよ、花も恥じらうハイティーンの女子高生なのですから。


 まるで社会に潜む予測不能の致命的な反乱因子みたいに言うのはおやめいただきたい。


「ああ、済まない。はづきはいつも通り、自分がいいと思う方向に突き進んで欲しい。大事件だと私が思っていたが、そもそもこの世界にははづきがいたんだった」


 解せぬ……。

 なんかカナンさんが去って行ったのだった。

 私、人間関係とかお仕事関係とかとても気を遣っているのだが。

 いや、たまーに、ごくごくたまーにカッとなって動くことがあるんだけど。


 それに、前の迷宮省も別に私たちの動きに縛りを加えてきた感じでは無かったけどなあ。

 私がいつも通りにやってたら、いつの間にか代替わりしちゃってただけで。


「いやいや、そんなことよりも今はフィギュアのチェック……」


 私はキーボードの上に転がしていたフィギュアを取り上げた。

 なぜこんなところにフィギュアを置いてあるのか?


 それは、カナンさんにジェスチャーで抗議するために一時的に置いたのだ!


 そうしたらなんか、画面では公式配信がぶつ切りになって終わっていた。

 流れるコメントが混乱している。

 なんだなんだ。


※『一瞬だけはづきっちがいたんだって!』『はづきっち¥って打ち込んだかと思ったら、配信の中がガクガクっと動いて』『そうそう、それで切れた!』『なんだったんだ……?』


 い、いかーん!

 フィギュアを置いた時、キーボードの¥の上に置いてしまったのだ!

 ちょうどすぐ近くにエンターもあったから、それで送信してしまったらしい。


 私としたことが……!

 あまり政治的なのは配信者としてよくないですからね。

 次から気をつけまーす。


 そうしたら、その夜に切り抜き動画とかで、『はづきっち、政府と異世界との同盟に否!』とか飛ばし記事みたいなのが上がってるじゃないですかやだー!

 即座にコメント欄に書き込んで、『こういうの営業妨害なんでやめてください! あれはキーボードの上に物を置いたらなんかそうなっただけでーす!』とかやっておいた。

 そうしたら、今度はそれが動画に!!


 あひー!

 どうすればいいんだー!?


 とりあえず、宇宙さんとウェスパース氏に丸投げすることにした。

 翌日にはそういう動画が全部消えてたので、正解の対応だったっぽい。




 ※



『こっぴどくやられたねー、じい』


『いやあ驚きました。わしの分身の一人を遠隔から攻撃してくるとは。威力からして魔将の全力に匹敵しますぞ。あれだけの実力者が潜んでいるとは。やはりダンジョン配信は侮れませんな』


 ひょろりと背の高いローブのうち、一番下にある顔が半分黒く焦げている。

 再生能力を持つ魔神ジーヤだが、このダメージを上手く回復できないでいるようだ。


『油断召されるなマロン様。どうやらこの国……一筋縄では行きませんぞ』


『そうだねー。なんつーかここだけ配信者多くね? 他にも、あたしが見限った大罪が裏切って守りについてる国とかあるじゃん? あたしが直接行けば話は早いけど……。それですぐ終わらせたら、ねえ』


『また遊ぼうとなされる! いや、ですがマロン様がそうだから、長く世界から魔力を搾り取れるわけですからなあ……。マロン様に従う我らには魔力が必要……』


『自分で作っといてなんだけど、ほんとにあんたらって難儀ねえ。じゃ、これからも色々動いてよ。あたしはあたしで好きにすっから』


 ケラケラ笑いながら、魔王マロングラーセはまた、世界のどこかへ向かって移動するのだった。


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