第66話 声優ラジオへのお誘い伝説

『はづきさん、見た? 聞いた?』


「み、見て聞きました」


 ザッコで音声会話をする。

 相手はライブダンジョンのピョンパルさん。

 すっごく忙しい人だけど、こうしてちょこちょこお喋りしたりするのだ。


 配信では語尾にピョンをつけ、リスナーや他の配信者と楽しく喧嘩みたいなやり取りしてる人だけど、実際は丁寧な大人の女性。

 ただ、これを公言すると営業妨害になるので……!!


『野中さんから正式にお仕事のお誘いが……』


「インターネットラジオ……!」


 私とピョンパルさんが震え上がる。

【野中さとなのマンデイをぶっ飛ばせ!】は隔週月曜日にやっているインターネットラジオで、週明け月曜日の憂鬱さをぶっ飛ばすというテーマの、深夜番組だった。

 私も聞いてた……!


『私はまあ、出たほうがいいなって思うし、会社も新しい繋がりができるというので乗り気なんだけど。どう?』


「ううっ、うちもお兄ちゃんが出ますって言っちゃいました」


『はづきさんに許可を取らずに……!?』


「私も興奮して頭がおかしくなっていたので出ますって言っちゃいました」


『Oh』


 うおおー、過去の私よ、なぜ冷静にならなかったのだ!

 うん、憧れの声優さんからラジオ出てって言われて冷静なファンはいないよね。


 野中さんは私が小学校六年生くらいの時にデビューした人で、ガンガン主役を勝ち取って、今やアイドル声優にして儚げなヒロインといえばこの人! と言われるほどの地位を確立している。

 そしてこの間の配信でご一緒したように、私の声真似が凄く上手い……。


『じゃあ今度スタジオ前で待ち合わせして、一緒に収録に……』


「行きましょう行きましょう」


 そういうことになった。


『ところではづきさん、流星さんに会いました?』


「あ、はい!」


 風街流星さん。

 迷宮省の職員でありながら、ライブダンジョンのトップ配信者の一人でもある人。

 多才だなあ。


「その、礼儀正しくて優しい人でした。私もあんま緊張しなくて良かったですし」


『ははあ……。流星さん、はづきさんを調べた上で怯えさせないようにしたピョンな……。ライブダンジョンの流星雨、神出鬼没フッ軽の風街……』


「な、なんですって」


『切り抜きを見るピョン』


 ピョンパルさんから送られてきた、流星さんの切り抜き動画。

 それは同じライブダンジョンのコミュ障系配信者とのやり取りで、流星さんがすごい勢いでお相手さんを次のコラボに誘う動画だった。


「こ、これは……!! 陽キャ……!!」


『あの人は魂の形そのものが陽キャピョン……!! 次に会うときはきっと、本気を出してくるピョンよ!』


「あひー」


『……とまあ、半分は冗談冗談。ちゃんと仕事ができる大人の人だから。かくいう私もまあまあ陰キャなので、流星さんの全力を浴びると灰になって崩れてしまうピョンなー』


 ピョンパルさん、冗談を言うときは配信の時の口調になるのだった。

 こうしてラジオ参加の打ち合わせと、最近の情報交換なんかを行った。


 私から出た情報は正式にライブダンジョンに流れて、向こうが得た情報もこっちがもらえることに……。


 あれっ!?

 私、なんか交渉みたいなことしてる!?


 そういうようなことを兄に連絡したら、知らない女の人が出た……!


『あっ、きら星はづきちゃん!? うわーっ、電話受けちゃった……あ、はい! 斑鳩合同会社でございます。社長ですか? はい、今代わります』


「あ、は、は、はい。はい、ほい……」


 知らない人の不意打ちで、めちゃくちゃ小さい声になる私。

 は?

 斑鳩合同会社?


 兄に代わった。


『驚いたか』


「お、驚いた……」


『人が足りないと言っていただろう。お前のマネジメントは俺がやることは変わらん。だが応対などは専従スタッフを雇ったのでこちらにやってもらう。俺の伝手で見つけた人でな』


 後で聞いたら、なうファンタジーで配信者をやっていた女性で、卒業した人らしい。

 元冒険配信者じゃん!


 冒険配信者は危険と忙しさと引き換えに、すごくお金が入るらしい。

 で、彼女はその生活に慣れて金遣いが荒くなってしまい、貯金が底をついたと。

 ここに兄が声を掛けて誘ったら、すぐに乗ってきたらしい。


 しかも私のリスナーだった……!


 この他に経理部門を担当する女性が一人いて……というかこれはうちのお母さん。

 ついに家族を巻き込む形になったか……。

 そのうち父も参加してくるんじゃないだろうな。


「そ、それで、ピョンパルさんと声優ラジオに出る時に、待ち合わせを……」


『なるほど、分かった。日程は? ふむ。風街流星の話も聞いただと? ああ。彼女がお前に接触したということは、国絡みの案件が増えるだろう。忙しくなるぞ。だが学業優先だ』


「あっはい」


 兄、絶対的に私の学校を優先してくる。

 きちんと学校を出ておいたほうが潰しが効くかららしい。


『こちらからはそうだな。冬のコミックフェアに企業として参加することになった』


「は?」


『それ用のグッズの撮影もある。追ってスケジュールは伝える』


「はい?」


『声優ラジオの日程はこちらでも押さえてある。近くになるまで声を大事にしておけ。冷房の風に長時間当たるなよ。サーキュレーターを回して風向きをコントロール……』


「は、はい」


 はいはい言うだけになってしまった。

 電話を切って、ベッドにぶっ倒れる私。


 情報量が……多い!!

 頭から飛び出していきそうだあ。


 いつの間にか私たちが会社になってるし。

 最近、母がちょこちょこパソコンで作業してると思ったら会社の経理の仕事だったし。


 そう言えば、ご飯の時におかずが一品増えてたな……。 

 会社の実入りがいいから、奮発したんじゃないだろうか。



 増えたおかずを食べながら、私は思うのだった。


「難しいことを考えるのはやめよう!」


 今まで通りで行こう。

 何かあったらその時考えればいいや!

 こうして、今日もまた状況に流されていく私なのだった。


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