先輩! 私の新人フォロー編

第143話 新人デビュー広報伝説

 シカコ氏を家に送り届けたら、ご両親はずっと配信を見てたらしくて外に飛び出してきた。

 なんか私がペコペコ頭を下げられてしまった。

 いやいや、お世話になったのはこっちの方です。


 ということで帰宅。

 お腹も減っていたので、夕食をもりもり食べた。


 母特製、かぼちゃとゴボウのハロウィンシチュー。

 ご飯に合う。


 そして軽くツブヤキックスをチェックして就寝……。

 ハロウィンはあの後、またちょこちょこダンジョンが発生して大変だったらしいけど、今年も何事もなく終わったようだった。


 日付が変わる前に、カンナちゃんのアクスタにチュッチュしてから寝る。

 私のルーチンワークだ。


 そして朝……。


「15分だけ朝活です。お前らおはきら~」


※『寝起きはづきっちおはきらー』『普通に平日だもんな』『これから学校?』


「朝ごはん食べてから学校。よく寝たー。あ、爆速で髪をセットしないと」


※『学生のリアルを感じる……』『キモいと言われようが、この質感がはづきっちの魅力ではあるよな』『本物の女子高生だもんなあ』


 おじさんみ溢れるコメントを眺めつつ、私はふと思いついた疑問を口にした。


「そう言えばダンジョンが出る前は、配信者は成人してるか、成人した人が代表をやってなくちゃいけなかったってほんと?」


※『ほんとほんと』『こういう収益が絡むのとかは特にね』『ダンジョンできてから緩和されたんだよな、確か』『ダンジョンできた時は凄かったぞー。犯罪の温床みたいになったりしてたし、違法配信なダンジョン系のアングラSNSであるブラックバードとかできてた』


「ほえー」


 ダンジョンができた頃って二十年以上前だから、それを知っているお前らは良いお年なのだ。

 改めて、私のリスナーは父に近いくらいの年の人が多いなあ!


 いや、若い子もどんどん増えてるんだけど。

 そんな話をしていたら、約束の15分が過ぎた。


「あっ、じゃあ短いけど今日はこれで。みんな今日も頑張ろう~。おつきらー」


※『おつきらー』『おつきらー』『朝からはづきっちにエネルギーもらっちゃったな』


 わいわい騒ぐお前らのコメントを見ながら、私は配信を終え……。


 ふと確認したツブヤキックスのタイムラインに、イカルガエンターテイメントの投稿が流れていった。


『11月、イカルガエンターテイメントより重大発表! この二つのシルエットは……!? 11月23日正式発表!!』


 とか書いてあるんだけど!

 こ、これ、もみじちゃんとビクトリアのシルエットじゃん!


 デビュー早めたな……!

 昨日、ちょこちょこトレンドに乗ってもみじちゃんは評判だったみたいだしなあ。


 それにビクトリアも先月……昨日が10月最後の日だから先月で合ってる。そこで活躍したもんね。


「機を見るに敏……。あの人ほんとに凄いなあ」


 兄を素直に称賛したあと、私はサッと洗面所に向かった。

 爆速髪セット。

 私の髪は一見するとくせっ毛のようだけど、蒸気を当てるとコシのあるストレートロングに変化するのだ。


 寝ている間に自由にぐちゃぐちゃになるけど、熱すると我に返って元の姿を取り戻すみたいな。

 形状記憶長髪だ。


「よし!!」


 機器を駆使して髪をセットし、私は朝食の席についた。


「あらまあ、ビクトリアちゃんが今月来るのね!」


 母がニコニコしている。


「えっ、そうだっけ!? 早くない!?」


「早くなったんだって。アメリカのダンジョンが随分安全になったらしくてね」


「ほへー」


 母の肉入りオムレツにケチャップとマヨネーズをかけ、白飯の上に載せてもりもり食べた。

 お麩の味噌汁をぐびっと飲んで、浅漬をポリポリ食べる。


「ごちそうさまでした! じゃあお父さんのお弁当を作ります」


「おお!」


 ずっとそわそわしていた父が嬉しそうな顔になった。

 うんうん、楽しみにしてもらえると嬉しい。


 テレビからは昨夜のハロウィンの話が流れている。

 なんか迷宮省が、『嫉妬勢が日本に流入してきたのを感知した。きら星はづきが尖兵を撃破。痕跡から対象が嫉妬のシン・シリーズの力でデーモン化していたことを突き止めた』とか話している。

 私の名前を呼んでるなあ。


 母の作り置きオムレツをトントンと切って、ちょうどいい大きさにしてレタスと一緒に敷き詰め、ご飯をケチャップライスにしてお弁当箱へ……。

 悪くならないように、ピリ辛わさび菜を和えて……。


「ふふふ、和洋折衷……」


 自分のお弁当も、ケチャップライスとオムレツのわさび菜和えにした。

 母のお昼ぶんも作る。


「はい、お父さん」


「ああ。今朝もありがとう。これで一日頑張れる。行ってくるよ」


 父が大変嬉しそうに、お弁当箱をカバンに詰め込んだ。

 そして出勤していく。


 これを見て、母がニコニコした。


「配信始めてから、あなた本当に色々やるようになったわねえ」


「そお?」


「前はなんだかんだ理由を付けて、人前じゃ何もやらなかったでしょう? でも今はなんでも挑戦してるじゃない。いいことだと思うわ」


「配信はこう、自分の恥を世界に晒すようなものなので……」


 もう何も怖くない。

 陽キャと怪談は怖いけど。


「すごく素敵な変化だと思うわね。あなたがお世話してる二人……。シカコさんとビクトリアさんも、そういう素敵な変化があるといいわね。母さん応援してるわ」


「お、おう」


 真っ向からそういうこと言われると照れるではないか。

 そして私も出発の準備をしながら気づくのだった。


 ……あれ?

 つまりこれは私が二人のメンターとして変化をもたらしていく……みたいなのを期待されてる?

 もう師匠とか親じゃん!


 や、やれんのか私に!

 ちょっと不安を感じる。

 そんな時は……。


「後で有識者であるお前らに相談しておこう……」


 頼むぞ年の功よ。


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