第178話 推しがフィギュアになるんだが伝説

「お前ら、こんきらー! 今日はですねー、日野市豊田の方に行ってそこの空き家ダンジョンを探索して来ました! 普通のモンスターと怨霊相手だったんで楽だったんですけど、もうすっかり嫉妬の人たちはVRを拠点にしたんですねー」


※『こんきらー』『こんきらー』『新年からどんどんダンジョン攻略してて偉い』『大物配信者とは思えない位ほど活動がマメなんだよな……』『あの登録者数なのにコツコツ小さいダンジョンから潰して行っている……』


 最初の挨拶とやり取りは慣れたものなのだ。

 私は例の件を劇的な感じで発表すべく、機会を伺っていた。


 衝撃的ニュースのあまり、ベストラフィングカンパニーさんの予約サイトがアクセス過多で落ちてしまう危険性もある……。

 私の責任は重大だぞ。


「お正月はみんな何食べたー? 私はお餅を」


※『予想通りの回答w』『はづきっち季節ものは外さないもんな』『はづきっちお餅は何が好きなの?』『うちは正月から洋風おせち!』


「お餅は全部好き! 洋風おせちもいいねー。来年はそっちにしてもらおうかな……」


※『今日のはづきっちは普通の雑談をしているぞ』『おかしい……。いつもの天然な感じが薄く、何か緊張を感じる』『重大情報を隠しているのではないか』


 す……鋭い……!!

 配信をしながら、私の手は汗でしっとりしていた。

 こういう発表を配信内でタイミングを伺ってやるというのは初めてなのだ……!


「そ、そんなことないですよー。私はいつも通りですよー」


※『本当にござるかぁ?』『隠すのが下手なはづきっち』『全部バラして楽になっちゃいなさい』


「ま、まるで私がとんでもない情報を隠してるみたいに! ちゃんとお前らが喜ぶ情報ですよー」


※『ざわっ』『俺らが喜ぶ!?』『なんだろう……』『グッズ発表よりももったいぶるということは……』『もしやフィ』


「全部言ったらブロックですよー! 忖度! 忖度してください!!」


※『草』『アッハイ』『俺たちの姫がそう言うんじゃ仕方ない』『なんだろうなー楽しみだナー(棒)』


 お前らが理解度の高いリスナーで本当に良かった。

 私はとりとめのない話を十分くらいしたところで、そろそろいいかと発表することにした。


「えー、突然ですが重大発表を」


※『わー!』『ぱちぱちぱちぱち』『888888888』『重大? お付き合いしている男性がいるとかですかね?』『な、なにぃーっ!!』いももち『ゆ、ゆるさーん!!』


「うーわー! 落ち着いて! 落ち着いて!」


 コメント欄がなんかあらぬ予測でグワーッと加速した。

 私は慌てて、机の上に借りてきていた試作品を載せる。


「えーと、これです。これ。なんだか分かりますか?」


※『アッ』『そ、それは……!』『フィギュアだ!』『はづきっちフィギュアだー!!』『ジャージ姿のはづきっち!』『躍動感~』『ゴボウが五割増で太いw』


 盛り上がるコメント欄。

 こっちはいい方の加速だ!


「じゃーん。実はベストラフィングカンパニーさんから、春にフィギュアが出ることになりました。これはテストモデルで、私の3D映像を立体化したものなんですけど……この間採寸に行ってきまして。武器の持ち替えができて、ゴボウと展開バーチャルゴボウとトマト……なつかしー。あとレーザーブレードですね。表情も8種類ついてきて簡単に付け替えできるそうです」


※『なるほど、ジャージだというのにはづきっちのプロポーションがよく分かる』『リアルでは無いのだな……』おこのみ『マンガ的だけどこっちも好きよ』『小さいサイズだと思ったけど、オプション盛りだくさんなのね』


 おこのみはなんでもいけるなあ。


「正式に採寸したモデルはまだラフな3Dモデルでしかないんで、こんな感じで……」


 もらってきた画像を見せる。

 くるくる回転させたりする。


 ポーズは一緒なんだけど、より私がリアルになった感じ?


※『あれっ、ちょっと頭身上がってる……?』『あ、はづきっちの背が伸びてるんだ』『一年で成長したんだなあ……』『3D映像だとお姉さんに見える』『躍動感がマンガっぽいパースのままなの凄いなw』『待て! 手足に分割線が……。可動する……!?』


「可動式らしいです……! 関節に、カーボン? と真鍮線? とか使って強度と軽さを確保してるとか……。ということでですねー。春に発売なんですけど、まずは完全受注生産で、ある程度以上予約があったら一般販売もするそうで……」


※『なにっ!』『なんだって!?』『予約サイトまだできてねえのか!』『あった! ここだ!』『乗り込めー!!』『うおおおおおおおおおおお』


「早い!? みんな発表前に探し出して一斉に予約し始めるの早すぎるんだけど!? あー、サイトが落ちた」


※『サーバーが弱いぞ!』『なにやってんの!』『今一万人くらいが同時に予約にアクセスしたっぽいな』


 一万!!

 つまり一万個の予約は確定ということだ。

 どういうことなの。


※カンパニー『い、今復旧しました! 行けます!』『担当の人もよう見とる』『仕事が早いぞ!』『よし、乗り込め!』『俺たちの本気を見せてやる!』『うおおおおおおおおおおお』おこのみ『一家に一つはづきっち!!』


 またサーバーが落ちかけたり、復旧したりを繰り返しつつ……。

 なんとか配信時間中に、みんな予約を完了したみたいだった。


 二万円もするのに、大丈夫かお前らのお財布……!!

 私は思わず心配してしまうのだった。


※『アクスタや抱きまくらであれくらいの威力だっただろ? ってことはフィギュアなんかもう聖遺物みたいなもんじゃん』『強そう』『家の四方に配置して、さらに観賞用と布教用と保存用を買おうぜ』


「ひ、一人一個ですー!」


 思った以上に大変なことになっていた!

 兄は今頃、イカルガビルがさらに一個建てられるぞ、と考えているのではないか……。


※カンパニー『皆様たくさんの予約ありがとうございます! 一瞬で一般販売決定量に到達しました! 一般でも販売します!』


※『うおおおおおおおお』『やったあああああああ』『カード使えなくても買える!』『待ってます!』


 なにかあるたびに歓声が聞こえてくるようだ。

 喜ばれている……。

 これは近く、フィギュア第二弾とか企画されそうだなーと思う私なのだった。


 だとすると、体操服形態、水着形態、チベスナ形態、ブタ形態、丼形態の5つがいけるかな。

 いやいやいや、丼なんか誰が喜ぶんだ……!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る