第507話 節分ダンジョンソフト攻略伝説

 二階に続く階段を上がっていく。


「もともとこのアパートは、外付けの金属の階段をガンガン音を立てて上がってく構造だったんですけど、ここもダンジョン化してるのであまりガンガン言いませんねー。みしっ、みしっ、と言ってます」


※『本来なら正統派オカルトダンジョンなんだろうけど、はづきっちだからな……』『約束された勝利が待っているから全く怖くない』『ダンジョン逃げてー!という気持ちすら湧き上がってくる』『あまりにも強くなりすぎたんだw』


 そうかも知れない。

 さて、突き当りの部屋のドアノブに手を掛けると……。


『ウグワーッ!!』


 と断末魔が響いて、ドアごと裏にいたデーモンが消滅しました。


「あーっ、儚い」


※『触れただけで消滅してる!!』『もうあかんw!』『このダンジョンは! 消滅する!』


 ほんとにね。

 難しいですよダンジョン配信。 

 私が配信者を引退する理由の一つもお分かりいただけただろうか!


 気をつけないと、あっという間に終わってしまうんですよねえ。


「えーと、元々は二階の奥に大家さん親子が住んでいらっしゃって、その方々がデーモン化したんですねえ。で、アパートの住人さんを巻き込んで丸ごとダンジョンになったところに、私が初めての配信をしに来たと……。あっ、思い出の部屋はさっき私がぶち抜いた一階で」


※『全然センチメンタルにならないw』『圧倒的ではないかはづきっちは。本当に圧倒的すぎるんだよ』『大きくなって里帰りしてきたら里を滅ぼしちゃうやつ』


「まあ、この優しく攻略するのは恩返しということで……。あっ、宝箱がありますねー」


 小規模な体育館くらいある畳敷きの部屋で、真ん中に鎮座する大きな宝箱。

 大変目立つ。


※『あからさまにミミックではないか』おこのみ『おお、思い出す、はづきっちのお嫁さんとの出会い』


「カンナちゃん、ミミックに引っかかってましたねー! 懐かしいー」


 私は近寄っていって、ミミックを棒でつついた。

 ミミックは『もがーっ!!』と開いて襲いかかってくるけど、私のチョップで真っ二つになった。


『ウグワーッ!!』


※『一呼吸しか持たなかったのだw!!』『もうチョップが置いてあったもんな』『自分から置きチョップに突っ込んで砕け散ったミミックよ……』


「ミミックをきっかけにカンナちゃんと出会えて仲良くなったので、なんか感謝の気持ちが湧き上がって来ますねー。あっ、壁を抜いて隣の部屋行きましょう」


 壁にチョップを当てると、そこがパカッと割れて通り道になった。

 向こうではモンスターやデーモンが、呆気にとられていた。

 そしてすぐに気を取り直して襲ってきて……。


「あちょちょー!」


『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』『ウグワッウグワーッ!!』


 私が取り出した、音が鳴って光るビームソードのおもちゃで撃破された。

 私はビームソードを、しゅんしゅん、と映画のキャラみたいに振った後、Aフォンに戻した。


※もんじゃ『そいつを重たがってたはづきっちが、すっかりたくましくなったものだ……』たこやき『三年経てば若者は成長するからね』おこのみ『色々なところも成長した』


「センシティブ! えー、ではですね。次の部屋が大家さんの家になります。ここ、賃貸だと六畳一間で、大家さんの家が三部屋ある作りになってたんですよねー」


 壁をパカーンと抜くと、さっきまでよりも広い空間に出た。

 外見は古びた小さいアパートなのに、中は広大というのはダンジョンのお約束。


 だけど今回は思った以上に広かった!


 何故なら……。


「あっ、お城みたいになってますね! これは異世界の方と繋がっちゃったかな……?」


 お城の謁見の間みたいになっていて、私をずらりと取り囲む角の生えた甲冑軍団がいるのだった。

 一斉に剣や槍や斧槍を抜いて襲いかかって来る。


「えー。バーチャルゴボウまでを解禁します」


※『キター!』『この冷静な判断力がベテラン配信者の凄みよな』『やっちゃえはづきっちー!!』


「あちょー!」


 抜き打ちざまに正面の鎧を九つくらい粉々にして、ヌンチャクみたいに伸ばしたバーチャルゴボウをそれっぽくヒュンヒュン振り回す。


「これはですね、兄に伝授されたヌンチャクアクションで、あちょー!」


『ウグワーッ!!』


 鎧が一体粉々になった。


「かっこよくこうやってる間にもあちょ!」


『ウグワーッ!!』


「攻撃判定があるということで使いやすくてあちょー!」


『ウグワワーッ!!』


「あちゃー!」


 びしっとポーズを決めたら、周りにいた鎧は全部砕け散って散らばっていた。

 私はあたりを見回して、「豆で良かったなー」と呟く。


 そうしたら、玉座からゴゴゴゴゴッとなにかが立ち上がる。

 角の生えた王様っぽい甲冑!

 金色と黒のしましま鎧だ。


 さっきの甲冑と言い、王様といい、鬼なのでは?


 私は豆の袋を装備した。


『この土地の淀みを拠り所に、やっとこちらの世界への足がかりを作れたと思ったが、なんだ貴様は』


「鬼はー外!」


 豆、パーン!


『ウグワーッ!?』


 ピチューン!

 鬼っぽい王様が消えました。

 ダンジョン化が解けていく。


「効きましたねー、豆」


※『話の途中で豆を投げつけて消滅させたw!!』『壮大な何かが始まりそうだったけど、始まる前に終わったぞ!』『いつものはづきっちだったw』


 私の足元にあったお城の床がなくなり、二階くらいの高さの空間になった。

 これくらいなら、全然ふわっと軟着陸できるのだ。


※『はづきっち、何も無いのに高いところからゆっくり降りてきたぞ』『はづきっちならそれくらいできるだろ……』『なんかできて当然って気がしてきた』


 そうでしょうそうでしょう。

 降り立った現場は、荒れ放題の空き地になっていた。

 禍々しい気配があったらしいんだけど、もう全くそういうのは無いですね。


 私が撒いた豆がたくさんあちこちに落ちているくらいで……。


「豆は鳥と虫のご飯にします。じゃあ、節分配信でしたー! よい節分ライフをー! おつきらー!」


 配信終わり!

 また一つイベントごと終了なのだ!


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