第311話 現地交流、協力体制伝説

「う……うううううう、悔しい、悔しい悔しい悔しい」


 シェリーさんが地団駄を踏んで悔しがっているなあ。

 自慢の、モンスター操作現代魔法をビクトリアに正面突破されたからだ。


「現代魔法も使えないアメリカの配信者がなんでそんなに強いのー!」


「リーダーに鍛えられたし、私のリスナーたち……オタクフレンズはいつも一緒にエキサイトしているもの!」


 ビクトリアのコメント欄が、YEAHHHHHHHH!! みたいなコメントであふれる。

 リスナーたち息がぴったりだなあ。

 確かに今回は、ビクトリアのほうが一枚と言うか十枚くらい上手だった。

 まだまだ全然彼女は強いんだけど、それを見せるところまで行ってないのだ。


 何せ、武器を使った肉弾戦だけでイカルガのナンバー2(兄を除く)にいる娘ですよ。

 日本にいる配信者でも、実力は上から数えた方が全然早い。

 登録者数も年内には百万人行くだろうし。


「うわーん! 理不尽だわ!! 悔しい~!! 絶対、絶対に強くなってリベンジしてやるー!!」


 シェリーさん泣いちゃった!!

 私がオロオロしたら、近くにいた全身レザースーツのエッチな感じのお姉さんがスススーっと寄ってきて、


「シェリーは大体いっつもああいう配信スタイルだから。調子に乗って突っかかってやられて、泣きながら再起を誓うの。ほら、彼女のコメント欄見て。みんながヨシヨシしてるでしょ」


「ほんとだ!」


「これで後日、コツコツ特訓して問題点を克服するの。その努力コンテンツも人気なのよ。伊達にロンドンでトップクラスの一人として活動してないわ。あ、私もここの配信者。ブラックナイトよ。よろしくね」


 ブラックナイト!!

 エッチなお姉さんだけどかっこいいお姉さんだった!


 バイクに乗って活躍する配信者で、現代魔法でバイクに馬を憑依させ、ランスと剣を使って戦うんですって。

 憧れる~。


「私、ちょこちょこ日本の配信も見てて。ミス・ハヅキ! あなたの配信すっごい! 私いつも、元気をもらってるの! あのね、あのね、ちょっとハグをしてもいいかしら。はしたないのは分かってるんだけど……」


「あ、はい、どうぞ……」


「キャー! 嬉しい!」


 お姉さんからぎゅっとハグされてしまった。

 おお、レザースーツを通しても分かるむちむち。


「やわらかあい!」


 ブラックナイトさんがそんな事を言ったんで、周りの女性配信者たちが色めき立った。


「ほんと!?」「あたしもハグしたい!」「フリーハグなの?」「ハヅキとハグしたって言ったら絶対リスナー喜ぶもの!」


 うわーっ!!

 私をひたすらハグする会になってしまった。


 男性配信者たちが羨ましそうに遠くから眺めている。

 さすがに男の人はダメですからね……!!


 と思ったら、男性陣はニヤリと笑い、みんなポケットから私のフィギュアを取り出した。

 あっ、それはこの間私がネットで見た、ヨーロッパのイベントでファンが作った同人フィギュア!!


 ポケットサイズで可愛いんだよね。

 私も輸入中。

 そっか、こっちで買っていく手があったか……。


 私は女性陣のハグを振り切って、男の人達のところに移動した。


「さ、触らせてくださあい」


「もちろんですレディ! 喜んで!」


 白いスーツ姿の人がいたんだけど、この人はホワイトナイト。

 ブラックナイトさんの弟さんなんですって。


 で、私がフィギュアに触れたら、同接パワーが上がったのが実感できたみたいで、みんなウオーっと喜ぶ。


「ミス・ハヅキは聖霊の力を持っているのかもしれない」「奇跡だよこれは!」「すごい力が宿っている。聖なる力だ」


 向こうの教えの解釈的にはそうなるんですね……!!


『大罪の力は悪のパワーでは?』


 バングラッド氏が向こうで首を傾げてて、タマコさんに「しーっ!」と言われていた。


 で、配信者で集まって、対策会議をするのだ。

 この様子もみんな配信してて、わちゃわちゃ喋りながらやってる。


 発言者はピックアップされて、より大きく聞こえるようになる仕掛け。


 イギリスの迷宮省の職員さんと、タマコさんが表示されたプロジェクター画像を説明したりする。

 で、みんながそこに意見を述べる。


 配信者になるような人たちは、誰も彼も自己主張が激しいので、意見が活発に飛び交うなあ。


 そして……。

 私の右にブラックナイトさん。

 左にホワイトナイトさんが座っている。


 こ、この姉弟に気に入られてしまった。


「ハヅキ的にはどう思う? 空を飛ぶモンスターが多くて、従来のスタイルでは戦いづらいという話になっているんだけど」


「うん。僕ら配信者は主に地上戦だからね。特に姉さんと僕は、バイクを使った騎馬戦が主体だ。空の相手への対抗手段に乏しい」


 な、なぜ私に質問をー!

 だけど、頼られたならちょっと考えてみましょう。


 馬……。

 空……。

 ペガサス……。


「じゃあバイクをペガサスに見立てて飛べばいいのでは」


「バイクを!?」


「ペガサスに!?」


 二人がハッとした。


「そ、そうか……。その手があったね……。新規のアバターを開発して、現代魔法をアジャストできればいけるかも……」


「この状況なら、飛行型アバターを開発している人もいるはずだよね。探してみるのも手だ!」


 この話がワーッと広がって、イギリスの配信者の人たちが、みんなで飛ぼう! という結論に達した。

 今回の会議は公開されているので、コメント欄から各国のアバタークリエイターたちが名乗りを上げたみたい。


 今まさに、配信は大飛行時代!

 来てしまったな……。


「リーダーは流行を先取りしてしまったわね」


 隣にシェリーがいるビクトリア。

 こっちを見てニコニコする。


「私はリーダーに乗せてもらうから、自分が飛ばなくてもいいかな」


「ダメよビクトリア! あなたは強いんだから、それを活かせる戦場を構成すべき!! 私の知ってる工房で魔法具を作ってるから。紹介してあげる!」


 むむっ、あそこにも新たな関係性が生まれている……。

 いいですねいいですねえ……。


「それで、これからハヅキはどうするの? 良かったらこの後食事でもどう? 夜景の見えるいいレストランが……」


 わ、私はなんかブラックナイトさんが口説いてくるんですけど!!


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