第310話 現地配信者交流伝説

 ルシファーさんのはからいで、現地で頑張っている配信者の方々と交流を持てることになった。

 イギリスだから、なんか高貴な感じの配信者が多いんだろうなーと思ったら。


 ぞろぞろ集まってくる、普段着の人、ヒーロースーツの人、コスプレ鎧の人、アーミールックの人。


「リ、リーダー! シスコと何も変わらないわ!!」


「ほんとだ。配信者ってどの国に行っても基本似たような感じなのねえ」


 よくよく考えたら、配信業コンテンツに興味がある人なんて、オタク文化とかサブカル文化好きな人ばっかりだもんね。

 で、彼らはみんな、私を見て「オー!」「ハヅキッチ!」「ハヅキッチいる!」とか妙に感激するのだ。


「あ、ど、ど、どもども。皆さん、私をよくご存知で……」


 私が言ったら、みんな顔を見合わせた後、笑顔で「ゴゾンジナイノデスカ!」とか大合唱した。

 うわーっ!

 おこのみの遺伝子がこんなところに!!


 私が慌てる姿を見て、みんなドッと笑う。

 配信のまんまだー、と感激してる人も結構いる。


 アメリカの時と違って、フレンドリーだなあ。


「リーダー、あの頃はステイツじゃ知られてなかったもの。でも、今はワールドワイドなのよ?」


「そういうものですか」


「そういうものだわ」


『ふむ!! きら星はづきの配信には、我らの世界では考えられぬほど遠隔からも魔力の供給が行われていたことは認識している。つまり、この世界全てにお主の名が知れ渡っていると考えていいだろう』


「あひー」


 私の悲鳴を聞いて、その場にいる配信者たちがウオオオオオーッと盛り上がった。

 なんだなんだ!?


「ハヅキッチ、素晴らしいサービス精神だわ!! 泣けてきちゃう」


 そこのセクシーなレザースーツのお姉さんはなんで感激して泣いてるの!


 ということで、ここで現地の人達と交流し、情報収集して欲しいということらしい。


「えー、それでは皆さん、飲み物が運営から出ますので……」


 水みたいなのが配られた。

 あっ、なんか甘い香りがする。

 味付き砂糖入りミネラルウォーターみたいなやつだ。


「ここできら星はづきさんに乾杯の音頭を……」


 タマコさんが仕切っておられる。

 仕方ないなあ……。


「じゃ、じゃあ皆さん、か、かんぱーい」


「カンパーイ!!」


 みんな日本のやり方に詳しい!

 一斉に乾杯して、ぐっと飲み物を飲む。


 ほんのり甘くて爽やか~。


「ハヅキッチ!」


 いきなり声がかかった。

 なんだろう。


 かっこいいパンクルックの女性が出てくる。

 周りがざわついた。

 ちょっと有名な人らしい。


 上着は配信者用にちょっと派手なバッヂとか意匠がついていて、彼女の黒い髪は裏側が蛍光ブルーに染められていた。


「私、ロンドンのトップ配信者の一人、シェリーというの」


「あ、はい、どうもどうも、きら星はづきです」


 私はぺこぺこした。

 シェリーと言う人は、じっと私を見て、


「あなたが本当に強いか確かめたいのだけど、いいかしら? いいわよね? 私、この国の配信者こそが世界で一番強いと信じているから。東方からやって来たスマートじゃない女の子が、私たちのトップに立つなんて認められないわ」


 ざわざわする会場。

 シェリーさんが得意げにあたりを見回した。


「オー、スマートじゃない」「センシティブ」「ムチムチ」「Like This」


「リーダー、どうする? 手合わせ、私が出る?」


「うーん、私が名指しだし……」


「リーダーがやったらオーバーキルになっちゃうわ。彼女、心をポッキリ折られるわよ」


「そうかなあ」


 私たちのやり取りを聞いて、シェリーさんのこめかみがピクピク動いた。


「わ、わ、私は心が折れたりなんかしないわ! 私はロンドン最強の現代魔法の使い手なのよ! モンスターを精神支配で手懐けて使いこなすの! 今、ここにも持ってきているわ! それ!」


 シェリーさんが手を打ち鳴らすと、彼女のカバンからAフォンが飛び出した。

 そこから光がいくつもこぼれ落ちてきて、形を成す。

 なるほど、モンスターになった!


 狼男みたいなのだね。


 会場がワーッとか悲鳴に満ちる。


「はづきさん、この人、実力は超一流だけど問題行動をする配信者らしいです! 気をつけてくださーい」


「タマコさんご忠告感謝ですー。じゃああの、私がやるとモンスターだけじゃなくシェリーさんまでダメージが通るので、ここはビクトリアに……」


「私がやるわ」


 ビクトリアが前に出てきた。

 シェリーさんがフンッと鼻を鳴らす。


「アメリカから来た小娘でしょ? ハヅキのオマケじゃない。そんなものがどれだけできるって言うの? 現代魔法すら使えないんでしょ?」


「使わなくていいもの。それに、現代魔法の使い手なら、私の同期に世界最強レベルのがいるわ」


 もみじちゃんねー。

 そろそろ、ダンジョンの中でオリジナルなファンシーダンジョンを出現させて侵食する……とか言われだしてる謎の配信スタイルな彼女。

 研究者界隈から注目されてるとか。


「バカにして……! 歴史がない国の配信者が、キングダムの配信者に勝てるわけないのよ! お前たち、お行き!!」


 グオオオーッと吠えながら飛びかかってくる狼男たち。

 ビクトリアはいつの間にか、バールのようなものを手にしていた。


 狼男のひっかきとか噛みつきを避けながら、全身を使ってバールのようなものを振り回す。

 カウンターだから、バッコンバッカンと当たる当たる。

 一撃で、次々に狼男が『ウグワーッ!?』と叫んで粉々にされていった。


 おおー、全然相手にならない。

 バールのようなものを地面に突き立てて、それを軸にしてくるっと回りながらキックで狼男を倒したり。

 今度はバールを引っこ抜く動きで、小さく前方宙返りしながらバールのようなもので狼男を叩き潰す。


 私が手を叩いていたら、シェリーさんがこっちを睨んだ。

 そしてAフォンから、私めがけて狼男をぶっ飛ばしてくる。


「あちょ」


 私はこれをチョップで迎え撃った。


『ウガアアア……ウグワーッ!』


 狼男の人は噛みつこうとしたみたいだけど、置いておいたチョップに鼻先から突っ込んで真っ二つになって爆散した。


「は……!? はぁぁぁぁ!?」


 狼男は全滅。

 ビクトリアは汗一つかいてない。

 私はその場から一ミリも動いてない。


 シェリーさんが愕然としている。


「そんな……そんな馬鹿なこと! 魔法で強化したウェアウルフたちよ!? それがどうしてこうも簡単に……」


「それこそ簡単なことよ、シェリー」


 ビクトリアが肩をすくめる。


「今、配信が回ってるもの。私たち、あなたよりも同接数が多いの」


「ぐぎぎぎぎぎ」


 力関係が決定した感じがする!

 あ、それと私は配信してませんでした!

 うっかりしていた。


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