第313話 無敵飛翔体はづきっち伝説
ご対面したボスデーモンは、実体のあやふやなモヤみたいな巨人。
とにかく大きい。
周りが霧みたいになってて全然姿がはっきりしない。
で、霧の中から真っ赤な目玉だけカッと見開いてこっちを睨んでくるわけですが。
私の周りで、空気がバキバキ凍りつく音がした。
当然ながら私は無事です。
「?」
『!?』
※『にらみ合いだ!!』『ボスは睨んでる!! はづきっちはキョトンとしてるw!!』『ここまで分かりやすい効いてないリアクションはなかなか無いな』
ボスデーモンが霧の中から手を伸ばしてくる。
猛烈な風が起こる!
起こってる?
「無風~」
※『はづきっちに届く前に風が遮られてんのよw』『これ、マジではづきっちがダンジョンをバリアみたいに張りめぐらせてる説あるな』『さて、ここからはづきっちはどう動くのか……』
どうするんでしょうねえ……。
とりあえず近寄って叩く?
誰もが空を見上げている、
戦場のあらゆるウェンディゴが上空に舞い上がり、主であるボスデーモン……政府からはクラウドライダーと呼ばれる巨大な化け物の周囲に集まっている。
全ては、主と対峙した配信者と戦うためだ。
その配信者は魔将の翼を持っていた。
背中に従属する強大な戦士を侍らせている。
配信者はクラウドライダーの凍りつく視線が通じず、外宇宙まで吹き飛ばす『吸い上げる風』にも動じず、むしろ、それらの権能が持つ魔力を吸い上げているようだった。
ウェンディゴたちが群がり、クラウドライダーの命令に従って襲いかかる。
配信者は反撃すらしない。
その必要がない。
ウェンディゴが彼女にたどり着けないからだ。
配信者の周囲にめぐらされた不可視の空間に接触するや否や、ウェンディゴの姿が消える。
見えないダンジョンに送り込まれたのか。
それとも……この女に食われたのか。
クラウドライダーの目には、この女が見た目通りの存在ではないように見えていた。
背後に揺らぐ影がある。
彼らの主である魔王が、役に立たぬと捨てたはずの存在だ。
それが、このゴボウアースで根付き、育ち、自分たち魔王の軍勢が想像もできなかった何かとして今ここに出現している。
『ベルゼブブ』
クラウドライダーはその存在を、そう呼んだ。
知らないはずのそれを、自分はもっと根源に近い部分で知っている。
大罪勢の一柱。
暴食を司るはずの、魔王の卵。
魔王の卵!
そう、彼らの主たる魔王は、大罪の力を宿した現地の人間たちから、新たなる魔王を生み出そうとしていたのではないか?
己の後継者たる、世界を蚕食する存在。
全ての生きとし生けるものの敵であり、悪意によって全てを玩弄するもの。
星を渡り、降り立った星を食い尽くし、また次なる星(エサ)を求めて星海を渡る最悪の怪物、魔王を。
計画は失敗した。
失敗したように見えた。
大罪は人の意識に飲み込まれ、あるいは敗れ去った。
故に、魔王はこの計画を破棄した。
全ての大罪は捨て置いてもよしとし、その処理には腹心の大魔将を持って当たる。
孵化できなかった魔王の卵など、大魔将の前では無力だからだ。
だが、計画は成功していたのだ。
今、眼の前にその最大の成功例がいる。
クラウドライダーはおののいた。
既に、全てのウェンディゴが姿を消している。
残らず、食われた。
「えー、もにゃもにゃもにゃ……せつ!」
と思ったら、女が、ベルゼブブが何か呪文を唱えた。
すると、ウェンディゴであったはずの者たちが、ファンシーな羽付きSDブタさんの姿を纏って出現したではないか。
「新型式神さん、ゴーゴー!」
『ぶー!』『ぶいー!』『ぶえっさー!』『ぶーぶーぶー!』
式神だと?
そんなものではない。
あれはベルゼブブの眷属だ。
新たな社会性を獲得した、彼ら侵略者が知らぬ新たな魔王の軍勢だ。
ブタさんたちが、クラウドライダーを包む霧を吸い込み始めた。
暴食の魔王の眷属は、主同様に食らうという権能を持つのか。
剥ぎ取られる。
クラウドライダーを守っていた霧が今、すべて失われる……。
眼の前に、その女がいた。
『ベルゼブブ……!!』
改めてその名を叫ぶクラウドライダー。
「こんきら! きら星はづきです!!」
挨拶とともに訂正された。
そして、手にした茶色いもの。
魔王が最も警戒せよと告げていた、ゴボウアースが誇る最強の聖剣……ゴボウがクラウドライダーに突き出されたのである。
計算外だ。
偉大なる魔王は計算違いを起こしていた。
大罪勢の中から、魔王は成った。
それは極めて強大な力を持つ、本物の魔王だ。
だが、魔王は同時に人でもあり、その地に根付く存在でもあった。
新たなる魔王、ベルゼブブは、今や最大の敵として自分たちの前に立ちふさがっているのだ。
『おおおおおおおおお!!』
クラウドライダーは天を仰ぎ、兄たる風の大魔将へメッセージを送った。
我らは、最も恐るべき敵を生み出してしまった!
来る!
来るぞ!
暴食の魔王が、我らを食い尽くしにやって来る!
ピチューン。
「あ、つっついたら消えましたねー」
※『いつもながら決めの打撃がチープなのよw』『だけどバングラッドウイング、小走りっぽいはづきっちの移動も再現できるのな』『実は時速40km以上の速度で飛べたりするんじゃないの?』
コメント欄のツッコミに、バングラッド氏は『ワッハッハッハッハ』と笑って誤魔化した。
こ、これはまだ何か隠してるなー!?
「空、楽しかったわー! 私も今度、飛べるアバターを作ってもらおうっと。きっとリーダーが使ったことで、世界中に飛べるアバターが広がると思うし」
「そお? 私は飛んでも飛ばなくてもだなあ。空だとそのへんに座ってお弁当食べたりできないでしょ。落っことしそうだし……」
いつも通りのお喋りをしながら、地上に戻っていく私たち。
現地配信者さんたちの大歓声が、それを出迎えるのだった。
この雰囲気は……パーティーの開催ですか……!?
イギリス料理がたくさん食べられそう!
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