第372話 はづきヒーロー着地伝説

 バーチャル神社周りがダンジョン化したら、配信者のみんなの背筋がピシッと伸びた気がする。

 あちこちで配信を切り替えて、ダンジョン攻略モードだ。


 みんなこんなこともあろうかと、アバターに武器を忍ばせてきてたみたい。

 職業病ですねえー。


 私はと言うと……。

 Aフォンに新年のゴボウをですね。


『はづき、空から炎の翼を持った男が降ってくるー。私あれをやるね』


「ほいほい。じゃあ私は神社の外の方をやりまあす」


 ものすごい勢いでダンジョン化するバーチャル神社周辺。

 迷宮が生まれ、立体構造になり、壁からポコポコとモンスターが出現する。

 で、暴徒になってた人たちも『お、俺の体がウグワー!』『変わる! 化け物に変わっちまう!』『わ、私は正しいはずなのになんでこんなひどいことにぃぃぃ』とか叫びながら人じゃなくなって行ってますねえ。


『大漁大漁。いやあ、人間って本当にチョロいわあ。ただまあ、これだけの数の人間がいるのに堕落するのはこれっぽっちっていうのは計算外だったけど』


 角の生えた女の人が何か言ってる。

 Aフォンの集音機能みたいなのなんだけど、優秀~。

 実は女の人の周りに、私の使い魔であるフライング・ブタさんが隠れています。


 彼女はなんか、モンスターに変わった人間をたくさん侍らせながら、ちょっと高度が上がって砦みたいになった場所にいる。

 そこで、ダンジョン攻略を始めた配信者の人たちを眺めているっぽいのだ。


 で、私が今、その頭上にパラソルを差しながらふわふわ降りていくところであります。


「えー、改めてこんきらー。これからですね、ダンジョンの儚さについてお前らとおしゃべりしようと思いまして」


 私が喋りだしたので、角の生えた女の人がギョッとして見上げてきた。

 ふふふ、空から和服の私が登場です。


※『こんきらー!』『やっぱ落ち着く、このあいさつ』『はづきっちいきなりダンジョン最奥に降りていくのマ?』『別窓でベルっちと空を飛べる配信者たちが、魔将っぽいのと空中戦してるが』『今回も多窓だあ!』


「最近の配信は密度が高くなってきてますからね! 無理しない程度に楽しんでください~。えーと、私はですねえ」


『何をしているお前たち! 攻撃しなさい! 配信者が空からやってくるのよ! しかもゆっくりと! あれこそ搾取の象徴! 何もしないで配信だけして、好きなことでお金を稼いでいる不正の権化! お前たちのように何も上手く行かず、世の中を憎んでこういう配信者に誹謗中傷することだけが生きがいの正義の戦士の敵よ!!』


「おほー、煽りよる」


※『おほーが出たw』『女子高生がおほーはやめなさいw』


 ついつい。

 でも、煽りの効果はなぜか抜群だ!

 モンスターたちが怒りに燃えながら、私に向けて石を投げたり、他のモンスターを踏み台にして飛び上がって襲いかかったりしてくる。


 なお、私のもう片手にはゴボウが握られておってですね。


「あちょっ」


 つんっ。


『ウグワーッ!?』


 一番高く飛び上がってきたモンスターが、ゴボウにつっつかれて蒸発した。


※『新年早々ワンキル!』『お見事!』『アンチよ、心安らかに眠れ……』


 この威力を見て、角の生えた女の人が目を見開いた。


『私が強化したモンスターが一撃で!? い、いや、それか! お前の握っているその細い棒のような……。まさかそれは、聖剣ゴボウ……!? では、ではお前がまさか……!!』


※おこのみ『こいつ、ご存知だぞ!!』『ご存じな……いやご存知でしたか!』『ご存知さすが』『知っててえらい』『皆様お待ちかね!』『こちらのおほーとかたまに鳴く人は!』


「たまに鳴くとか言うなー! あちょー!」


 次々飛び上がってくるモンスターを、ゴボウでぺちぺち迎撃する。


※『彼女こそ、きら星はづき!』


 なんかコメントが唱和したところで、私のパラソルが重量に耐えかねてついに壊れ、私は落ちた。

 で、慌てて片膝立ち、片手を地面につける感じで着地した。


「あひー、ぱ、パラソルがあ」


※『ヒーロー着地だ!!』『和服ヒーロー着地!!』『隙間から足が見えてますが!』おこのみ『アクションおはだけモード!! はづきっち、さらにできるようになったな……!! 新年からありがとうございます!!』もんじゃ『しかし、敵もはづきっちを知っていたということは、前回退却した地の大魔将が情報を蓄積しているのだろうな』


「これはリアル着物でやったら大変ですねー。アバターなのでここが開いてアクションモードになるように……。えっ!? 肩とか胸元とか太もも見えすぎじゃないですか? エメラクさぁぁぁぁん」


※エメラク『どうもすみまスパチャ』


 御本人いて詫びスパチャ送ってきた!

 本当にエメラクさんの趣味が形を成したような機能なのだ。

 なるほど、振り袖が変形してセクシー着物風になると、確かに動きやすくはなるなあ。


※たこやき『今回もまとめの素材しかない配信だ』おこのみ『肩が! 乳が! 太ももが! ひぃぃぃセンシティブバンザイ!』『うおおおおおお』『激しくアクションしてくれはづきっち!!』『その服、コスプレしやすそう』『今度作るわ』


 思った以上にセンシティブモードの振り袖は好評……!?


 ちなみに私が着地した時に発生した衝撃波で、アンチの人たちが変身したモンスターはみんな消し飛んでしまった。

 後は角の生えた女の人が残るばかり。


『な、な、なんということだ……! たとえアバターと言えども、あの者たちを傷つければ現実の人間どもも痛みを受けて苦しむことになる……と伝える前に全滅させてしまった! 人の心が無いのか!!』


「あー、それはそれ、これはこれで……。じゃあ倒しますね……」


『は、は、話が通じない!!』


※『はづきっちは敵と会話しないゾ』『久々に話のできないはづきっち出てきたな!』『相手に知性があるほど映えるよなw』


 ゴボウをしゅしゅしゅっと突き出す。

 角の生えた女の人は、地面からでっかい土のドリルみたいなのを次々打ち出してきて攻撃してくるのだ。

 ゴボウに当たると儚く砕ける柔らかいドリルだけど、数が多いなあ。


『金剛石に比する硬度を持つ石筍が次々に!?』


※『豆腐を叩いて砕くみたいな勢いだぞ!』『リズムゲーみたいな勢いで生えてくる石筍を高速で潰してるw』『ゲームはてんで駄目な割に、リアルになると本当に強いんだよなこの人』


『石筍が間に合わない……!! 他の、他の攻撃を……! 眷属を呼び出して……!! くっ、テラーショック!!』


 なんか角の生えた女の人が目を光らせてきた。

 これを見てたリスナーさんたちが、『ウグワーッ』とか言ってる。

 なんだなんだ。


 よく分からないから、もうかなり近くなった私はゴボウを投げつけた。


「やめなさーい。あちょっ」


 ゴボウは土ドリルを全部砕きながら直進して、女の人の頭にぶつかって角を一本ポッキリ折った。『ウグワーッ!?』

 そして反射したのを、フライングブタさん式神が回収。

 私の手元に戻って来る。


※『ロケットゴボウだ!』『なんかグワーッと来てたプレッシャーがいきなりなくなったな』『やばいぞこいつ、リスナー攻撃してくる!』『はづきっち、また私達がやられるまえにやっつけてー!』


「はあい」


 私は快諾して、トトトっと角の生えた女の人に近づいた。


『く、来るな!! あっ、石筍が生えるよりも近づかれる速度が速い! 動きが読めない!? 予測した地点よりも常に三歩くらい先でしかも思ってもいなかったところにいる!!』


※『はづきっちの動きは予測不能だからな……』もんじゃ『やはり上位の魔将は読心や未来予測がある程度できるようだな。だが、相手が悪い。悪すぎた』


「あちょっ!」


 私はゴボウで、ぺちーんと女の人の頭を叩いた。


『ウグワーッ!! こんな、こんな馬鹿なーっ!! 偉大なるお方! 申し訳ございません! せめて私が集めた情報を……』


 なんか女の人の体からもわわーっと黒い霧みたいなのが出てきたんですけど。


「ブタさん!」


『ぶぶーっ!』


 フライングブタさんがたくさん出てきて、みんなで霧を吸い込んでしまう。


『そ、そんなー』


 女の人はなんか絶望した顔をしながら、ピチューンと消滅した。


※『相対すると敵に一片の情報すら与えずに殲滅する女、きら星はづき』『常に相手は初見でこれとやり合うことになるからな……w』『おつきらー!』『新年からスッキリした!』『あっ、着物が戻っていくよ』


 そりゃあ戻ってもらわないと困ります!


「じゃあ、これからバーチャル初詣の続きをですね……」


※『はづきっち、空、空ー』


 えっ!?

 まだ空中戦続いてる?


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