第333話 日本最西端到着伝説

 物凄いGを感じるんですけど!

 銀色の容器の中に入ってるのに、前からギューッと押される感じがある。


『あひー』


 ベルっちの中にいる私ですらそうなので、ご本人はさらに凄いGで悲鳴をあげていた。


『こ、こ、これはつらい~』


※『左下に速度計ある!』『時速3645km!?』『マッハ3弱じゃん!』『つらいなんてもんじゃないw』


 そんな凄い速度に!

 ちなみにこれを維持すると、30分で与那国島に到着です。


 富士山が後ろに流れていったなあ。

 銀色飛翔体の中は、Aフォンで風景が投射できるようになっているのだ。


『酔わないけど酔いそう~。みんなも無理しないで見ててね。気分悪くなったら音だけ聞いてね』


※『優しい』『はづきっちのやさしみよ』『ありがとうセンシティブはづきっちことベルっち!』『この魔王、普通にはづきっちなのでは? ボブは訝しんだ』


 ベルっちの気遣いはとても好評みたい。

 で、そうこうしているうちにマッハ4になりました。

 あかーん。


 銀色飛翔体がみしみし言ってる。


「ちょっと私、空気抵抗斬ってくる」


 私はベルっちの中からにゅっと出てきた。


※『うわーっ、馴染のはづきっちがベルっちの胸から出現!』『乗り物の中がぎゅうぎゅうではないか』おこのみ『はづきっちでいっぱいの乗り物、いいぞー』『眼福眼福……』


 センシティブな目で見ている人がいるな!

 それはそれとして、私はゴボウを抜いてから先端に意識を集中した。


 いつもの出てこい!

 出てきた!


 光のゴボウ!

 これが銀色飛翔体の先端を抜けて、空気がバリバリ抵抗しているところに触れた。

 そうしたら、パァン!! と音がして……。


 いきなりミシミシ言う音が消えたのだった。


『なんか体もラクになったかもー』


「重力を斬った気もするよねー」


※『このJK物理法則を超えたぞw』『やばいやばいやばい、速度上がり続けてる!』『マッハ6だ!!』『弾丸よりはやーいw!!』


 ということで、あっという間に与那国島が見えてきましたねー。

 島をかなり通過したところで、ようやくブレーキが掛かった。

 後はベルっちの羽でパタパタしながら、飛翔体を運んでいくのだ。


 私はせっかく外に出たので、飛翔体の中でぎゅうぎゅうになりながら光景を楽しむことにした。


『はづき、狭い狭い~!』


「ごめんごめん」


 ベルっちがどうにか姿勢を制御して、銀色飛翔体は与那国島の空港に到着!

 とてもかわいい感じの空港だった。


 銀色飛翔体をパカッと開いて出てきた私たちを、早速出迎えてくれる人がいる。


「ハヅキー!」


「カナンさーん!」


 ぴょーんと飛び出した私。

 カナンさんも走ってきて、ぎゅーっとハグして再会を喜び合う。


「あら、ハヅキ、ちょっと体が引き締まった?」


「はっ、実はちょっと体を鍛えてるのと、二人に分かれてからは両方で運動してカロリー消費してます」


 食べる量は減らしてない!

 ベルっちは銀色飛翔体をパカパカ折りたたんだ。

 そしてまたプログラムに戻して、Aフォンへ収納する。


『ふうー。これで一段落……。あっ、カナンさーん! 私です、ベルゼブブはづきです』


「うーん、こっちも完全にハヅキね!」


 カナンさんは律儀なので、パタパタ走ってきてこちらの私ともぎゅーっとハグした。


「こっちも前の感触より引き締まってる……。具体的には腰からお尻と太もも」


『あひー』


 ぺたぺたされて、闇の私がなんか悶えてる。


※『感動の再会いいぞー』『あら~^』『カナンさんは前よりも砕けた感じになったわね』


 そうねー。

 旅をして、いろいろな人と触れ合って、彼女も変化したのかも知れない。


 その後、ルンテさんとも挨拶したのだった。


「えーと、じゃあこれで実証実験は終了! 成功です! 多分再現性ないけど」


※『はづきっちにしかできないわなw』『うーん、今のところ実用性ゼロ!』『でも面白かった』『マッハ6の視界とか普通共有しないからね』『まさか配信が30分以内に終わるとは誰が想像したであろうか』


 ほんとにね。

 ここからはプライベートなので、配信はそろそろ終了ということになった。


「えーと、夜に雑談配信するかもです。明るいうちは与那国島観光かなー。あ、銀色飛翔体の情報とかお兄ちゃんに送っておかないと……」


『任せた!』


「べ、ベルっちー! ずるいー!」


『飛んだのは私なので、頭脳労働ははづきでしょ?』


「それを言われると……」


※『自分同士で仕事の押し付け合いをw』『でも確かにベルっちは頑張った』『はづきっちも頑張ったが……ぎゅうぎゅうな機内にずっと残ってたからなあw』


 仕方ない……!

 私はポチポチと、Aフォンで報告書を作る。


 その横で、ベルっちがカナンさんから、与那国島の観光案内何かを受けている。

 羨ましい~!

 は、早くそっちに行きたい!


 私は気合で、報告書の作成を終えた!

 文言のミスとかをAフォンに任せる。


「あとは適当にお兄ちゃんに送っておいて!」


 Aフォンがピカピカ光りながら答えた。

 うんうん、優秀優秀。


 こうして面倒な雑務は終わり!

 私は晴れて、観光を楽しめるようになるのだ。


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