第75話 声優ラジオでおめでとう伝説

「みなさーん、こんばんは! 野中さとなです! みなさんもご存知かもしれませんけど、今日は収録前に大変なことがありました! そう、スタジオがまさかのダンジョン化! そしてこの事件を、親しくしている冒険配信者の方々がスパーっと解決してくれちゃいました! じゃあ自己紹介してもらっていいですか?」


「こんパルーこんパルー! ライブダンジョン所属の、首狩り兎ピョンパルだピョン! パルの力で事態はスパーっと解決ピョン!」


「夜空に流れる未来のスター! アイドル配信者の風街流星ですー! 今日は大変だったよねえ。本当にもう、大変。すごく大変」


「流星さんボキャブラリーがなくなってるピョン!!」


「あっはっはっはっは」


 野中さんが笑っている。

 ラジオの野中さんは、いつもの優しい彼女から司会進行をやるMCに変わる。

 場の盛り上げも彼女の仕事なのだ。

 なので……。


「では本日のヒーロー……ヒロイン? ヒーローでいいか。私の中ではスーパーヒーローだし! どうぞ、自己紹介を!」


「あっ、えっ、わた、私ですか!? あひー」


 コメント欄に、『鳴いた!』『出たー』『かわいい』とチャットが流れていく。

 ま、待ってくれー!

 大勢の前で喋るのは初体験……いや、いつも同接たくさんいる前で喋ってはいるけど。


「あのあの、新人冒険配信者の……新人か? 言うほど新人か……? あ、えっと、きら星はづきです! よろしくおねがい、します!」


 自己紹介して、私が素早く頭を下げたら、デスクにガツンと額がぶつかった。


「あひー、あいたあ」


 うわーっと盛り上がるコメント欄。

 ちなみに、ネチョネチョ動画でも同時配信してて、こっちは画面上にコメントが流れる。

 うおおおお、文字の嵐だあ。


「だ、大丈夫はづきちゃん!?」


「あ、は、はい、大丈夫です。頭は頑丈にできてるので……」


「そう? だったらいいけど……。あぁ、そうそう! ついさっき、はづきさんとピョンパルさんと風街さんは、三人でネームドデーモンの討伐に成功しました! これは世界でも初めてのことですよ! 映像も撮影されてますから、後々ニュースでこの凄いスペクタクルを目撃して下さいね!」


※『さとなちゃんは生で見たの!?』『いいなー』


「命の危険がありましたけどね……!」


※『よ、よくないなー』『危ないことやめてー!』


 うんうん、そうなるよね。

 危ないことをしてはいけない、正気なら。


「そしてみなさん! なんときら星はづきちゃんが、ついさっき! 登録者数100万人を達成しました!」


「うおー! おめでとうピョーン!!」


「おめでとうございますー!! すごいすごい!」


 スタジオにいるスタッフの皆さんも拍手をしてくれている。

 ネチョネチョ動画の画面が、パチパチパチ、とか8888888で埋め尽くされた。

 アワチューブのコメント欄もすごい速度で流れてる!


「あひー。あ、あの、今思い出したんで、ツブヤキックスで報告しておきます……」


「まだしてなかったピョン!?」


「そう言えばダンジョンを踏破したあと、はづきさんはたくさん飲み物をのんで一息ついてたねえ」


「はづきちゃん、エネルギーをたくさん使ってそうなファイトスタイルですもんね!」


 野中さんがファイティングポーズをした。

 確かに、私は配信をするとものすごくお腹がすく!

 省エネとかできないのだ。


 ツブヤキックスでも報告をすると、一気にすごい数のおめでとうが集まってきた。

 引用ツブヤキでもおめでとうされてる。

 ひええええ。


「あー、今仕事中だったりする人たちも、はづきさんの100万人達成に気づいたピョンな」


「しばらく通知が止まらなくなるわよ、これ」


 経験者であるピョンパルさんと風街さんが笑っていた。


「というところで……今日はこの豪華なお三方のゲストをお迎えしてやっていこうと思います! それでは~野中さとなの! マンデイを───ぶっ飛ばせ!!」


 コメント欄と画面が、ぶっ飛ばせ!の唱和で埋まるのだった。


 そして……。

 私が頭真っ白なまま、求められるままに思考停止会話をしまくり、なんか受けたりしているうちにラジオは終わった!

 収録でもあるので、後に編集版がアーカイブとして残るって。


 あひー、私の恥ずかしい記録が残ってしまう……。


「はづきちゃん、お疲れ様! 緊張してたでしょ」


 野中さんにドリンクをもらった。

 うわー、甘いミルクティ!

 エネルギーになる~。


「ふう、あ、はい。何を喋ったか全然覚えてないです……」


「最初はみんなそんなもんだよねえ。でもでも、はづきちゃん華があるし、嫌味がないし、絶対にこの後はもっともっと人気が出るよ! ファンとして私が保証する!」


 野中さんはニッコニコの笑顔でそう言うと、私の肩をぎゅっと抱きしめてきた。


「今日は本当にありがとう! 一緒に行きたいっていう私のわがままも聞いてくれて、それですっごいのを見せてくれて、ラジオもめちゃめちゃ盛り上げてくれて! 大好きだよ、はづきちゃん!」


「あ、あひー!」


 愛の告白!!

 生まれて初めてもらってしまった。

 私は全身がカーっと熱くなったので、熱を冷ますためにミルクティを飲み干したのだった。


 ちなみにその夜、私の登録者100万人突破とネームドデーモンのナカバヤシさん撃破は、二大ニュースとなって世の中に流れたのだった。


 まあ世の中にとってはネームドデーモンの方が大事なんだけど、それとセットで私の名前は出てくるし、そうすると同時に登録者数100万人突破も出ちゃうもんね……。

 大事になってしまっているぞ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る