第110話 同い年妹分伝説
アメリカ行きの前にとんでもないことになった。
同い年の妹分ができることになってしまったのだ。
その日の夜にディアーブレッドに向かい、シカコ氏の配信者活動の許可をもらうことになったそうだ。
色々あったらしいけど、クラスメイトにきら星はづきがいるということで許可が出た。
わ、私に責任が……!?
『それはこちらで管理する。お前はいつも通り活動していればいい。それよりも明日は抱きまくらカバーの第二版発売日だぞ。前回は瞬殺だったからな。そら、日付が変わる……』
斑鳩合同会社とバンダースナッチ株式会社が委託しているネットショップで、私の抱きまくらカバーの再販が始まる!
そして開始5分で売り切れた。
「ああ~っ」
『とんでもない売れ行きだな……。十万枚用意したのだが』
サーバーが一瞬パンクしたかと思ったら、もう売り切れていた。
私がツブヤキックスで宣伝した直後に売り切れたので、獲得の報告と悲嘆の声が同時にぞくぞく届く。
『十万枚用意したのに瞬殺でした! また増産します!』
私の宣言に、うおおーっと歓声が上がったような気がした。
いいねがどんどん付く。
うーん!
世界中で何万枚もの私の抱きまくらが、誰かにハグされているのか……。
不思議な気分過ぎる……。
ちなみに凄いご利益があるとかで、神棚に祀っている人もいるらしい。
抱きまくらカバーを祀るのやめろ。
『抱きまくらカバーはちゃんと抱きまくらに使ってね』
私がお気持ちを表明すると、次々レスが付く! 写真つきだ!
うおおお、祭壇を作って祀ってるやつがいる!
や、やめろー!
それも一人や二人じゃない。
なんということでしょう。
私が神様になってしまう。
恐ろしい恐ろしい、リスナーの発想力は恐ろしい……。
私は震えながらその日は眠りについた。
熟睡した。
翌日、シカコ氏がなんか軽く会釈してくる。
「い、い、いや、やめてください同級生なんだから」
「あの、だって、でも、はづきっちだしこれから大先輩になるわけですしー。ご、ご指導、ご鞭撻のほどをよろしくお願いします」
「や、やめてええ」
いつもの陽キャ、チョーコ氏に誘われてのランチも、空気が独特。
「学祭の後片付けで一日潰れるのサイコー」
イノッチ氏は何も理解せず、なんかいつも通りのことを言っている。
チョーコ氏はすぐに、シカコ氏の空気がいつもと違うことに気付いたらしい。
「シカコなんか大人しくない?」
「そ、そんなことはないー」
ちらっと私を見た後、いつも通りっぽくふるまう。
ぎ、ぎこちないー。
このチョーコ氏、どうも鋭い気がする。
私とシカコ氏の視線が交錯したのを目ざとく察知して、
「なんかあった? 言ってみ? 言ってみ?」
「な、なんでもー! なんでもないー! い、言えないー!」
言ってるようなものでは!?
チョーコ氏、何か良く分からない察し方をした。
「ははーん。知っちゃったかシカコも」
「は? う、うん。まあー」
何を知ったと言うんだ……。
あまりに気になって、私は普段ならすぐに席を立つのに、その場に残ってしまった。
なお、特に情報は出てこなかった。
放課後、シカコ氏を伴って電車に乗り、会社に行く。
兄と受付さんがいた。
「おう、来たか。これから彼女の面接をする。何ができるか、特技はあるか、などだな。なに、こいつのように特殊な才能を持っている必要はない」
「なんで特殊な才能で私を指差す……?」
「お前、まさか自分が普通の女の子だとでも思っているんじゃないだろうな……? 普通の女の子は初回で命を賭けてゴボウ一本で配信しないぞ。俺はあの時、まとめ動画を見て気付いて、会社から飛び出してお前のところに向かったんだからな」
「あっ、その節はどうも……」
兄が退職するきっかけになったらしい。
「ゴ、ゴボウで一本でダンジョンにー……?」
シカコ氏が怯える。
「大丈夫大丈夫! うちはそんなスパルタじゃないから!」
受付さんがなだめた。
兄が話を始める。
「いいか。きら星はづきが道を切り開いた。これによって、はづきが所属する企業、斑鳩は業界でも大きく名前を知られるようになっている。今はこのネームバリューを利用して活動する配信者を増やしたい。そこで君に白羽の矢が立った」
「は、はい!」
「何か特別なことができる必要はない。これから得意なことを見つけていけばいいだろう。大事なのは、きら星はづきの妹分であるという、唯一無二のポジションだ。これを利用して登録者数を増やす。ちなみに得意なことは?」
「えー……。運動は苦手というかー、チビだから何やってもいまいちでー。勉強もあんまりー」
全体的に中の下くらいらしい。
ちなみに。
「じゃあ歌は?」
受付さんが質問したら、シカコ氏の目が輝いた。
「得意な曲はYORIKOの歌全般で、平均で97点出せますー!!」
「すごい」
「すごい」
私と受付さんが素直に感心した。
私も受付さんも、ヘタウマの系統なのだ……!!
さらに、シカコ氏は創作ダンスの授業の成績も良かった。
小柄だが運動神経が悪い訳では無い。
走ったり跳んだりしても、全体的に小さいのであまり数字が伸びないんだと。
つまり、そういう体格関係ない運動は得意。
「フィジカルに優れた妹分……。うう~。姉より優れた妹などいねぇ~」
「はづきちゃん闇が漏れてる!」
「はっ」
いけないいけない。
とにかくこの面接で、シカコ氏の得意な分野がある程度分かった。
「ダンジョンで歌って踊るスタイルは、ライブダンジョンが確立している。あれに追随する形で作っていこう」
兄の宣言で、彼女のプロモーションはそういうことになった。
「しばらくはボイトレとダンスレッスン、それから話し方の勉強だ。配信者の動画は多く見ているな? ならば基礎的なものは分かるだろう。いいか」
「は、はい!」
兄の前だとかしこまるシカコ氏。
現役時代の配信者、斑鳩の大ファンだったらしいもんね。
「キャラを作るな。自分を晒すつもりで行け。ダンジョンではいつまでもキャラを保っていられない。自分を愛されるよう、言葉遣いと考え方を作っていくんだ。これについては俺が直々に教える」
「私が教えると炎上するからね!」
経験者である受付さん!
なお、シカコ氏の配信者ネームと、バーチャライズ時のアバターはこれからだそうだ。
デビューは多分12月くらいになるんじゃないだろうか。
今から楽しみだなあ……。
「お前はアメリカ行きの準備は終わっているのか?」
「あっ、なんにもしてない」
いけないいけない……!
アメリカだと日本食が恋しくなるって言うから、味噌買っておかなくちゃ。
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