第6話 雑談配信伝説

『今夜は雑談配信です』


 ……真面目過ぎるか?


『お前ら、今夜は雑談配信だぞ!』


 砕けすぎか?

 友達か?


『今宵雑談配信にて候』


 武士か?


「うおおおお」


 ツブヤキッターを前に唸る私。

 目の前には、ほとんど呟いていない、きら星はづきのアカウント。


 驚くべきことに、フォロワーが2400人に達していた。

 何だこれは……。

 配信開始から三日目で、一体何が起きているんだ……!?


 適当に呟こうとして、フリックする指先が止まってしまった。


 に……2400人が私の呟きを見る……。

 いやいやいや。

 もっと凄い配信者は幾らでもいるでしょー。


 2400人などまだまだ小物……。

 いや、私の裏アカウントになっちゃった本垢(アカウントのこと)、三年やってフォロワーは16人だけど……。


「ええい、ままよ!」


 私は覚悟を決めて、呟きを投稿した。


『今夜は雑談配信です! これからの企画についてみんなの意見を教えて!』


 これで行こう……!!


 Aフォンを持っている冒険配信者は、ダンジョンの外でも冒険者の姿に変身できる。

 カンナちゃんはバーチャライズって言ってたっけ。


「おっ、みんな反応が早い……! ツブヤキッターのフォロワーは、珍奇な生物を監視する見物人だって聞いてたけど……あったけえなあ」


 私はしみじみした。


※『見に行くよ!』『オフ楽しみー!』『生配信初めて!』『次は何の野菜だ』『うおおおお』『走り続けろ』


 後半に行くに従ってコメントの治安が悪くなるな!

 でも、まあよし。


 なんか見てる間に、フォロワーが150人くらい増えたように見えたけど気にしない……!

 またトレンドになったりしてるの……?


 あっ、なんか、また通知が死ぬほど来てる……。

 でも、自分に関する通知だとかなり嬉しい。

 私はニヤニヤしながら、通知を確認した。


 すると……。


「ファ、ファンアート!?」


 それは、輝くゴボウを握りしめた私が、ミミックを貫くところだった。

 私とカンナちゃんが並んでいるファンアートもある。


「オギャーッ」


 私は歓喜のあまり赤ちゃん返りを起こし、床の上をのたうち回った。

 ふう、危ない危ない。

 これ、一般人が受け止めるには致死量の自己肯定感じゃない?


 あ、あ、天狗になる。

 天狗になりそう……。


 何人もの天狗になった冒険配信者がやらかしをして、炎上し、ダンジョン内で力を失ってモンスターにやられたりしている。

 私は注意しないと……!

 うちのお兄ちゃんに散々怖い話を聞かされたもんね……!


 それでもニヤニヤが止まらず、夕飯の席で母から「ちょっと気持ち悪いよ?」とか実の娘に投げてはイケナイお言葉をいただいたり。

 お腹が膨れたところで、気を取り直して自室での配信を開始する。


 Aフォンを起動すると、私の体が光に包まれた。

 そこにいるのは、きら星はづき。

 冒険配信者としての私の姿だ。


「よっし、ちゃんと枠取れてる。でも不思議な気分だなあ。これって、ダンジョンを探索するための姿でしょ? なのに、関係ない時でもこの姿ができるなんて……」


※おこのみ『ミュートになってない』


「えっ、マジ!?」


 ぶつぶつが聞こえてしまっていたようだ。

 もう配信が始まってる。


※『こんばんきら星ー』『こんばんきら星ー』


 次々にリスナーが入室してくる。

 あっという間に、同接が100人を超えた。

 100人!?


 昨日よりもさらに増えてない!?


※『本物だ!』『かわいいー』


「え、そう? うへへへへへ」


たこやき『撮れ高の高い笑い声いただきました』


 しまった、こいつ切り抜き制作者なんだった。

 隙を見せないようにしないと……。


 とりあえず、適当なフリーBGMを流しつつ、雑談を開始する。


「そう言うわけで、次にダンジョン行くときはどんな感じでやるかって言う相談をしたいんだけど」


※『三回目でもうネタ切れか』


「そう言うわけじゃないんだけど……。ほら、野菜を何回もやるとマンネリじゃない?」


※『なるほど』『野菜好きです』『野菜きらい。肉が好き』『肉で攻撃しろ』


「ムチャクチャ言うなあ!?」


 リスナーには、優しい勢と治安が悪い勢が入り混じっているなあ。

 これが有名になるということ……!


※『武器っぽいものを使ってみては』


「武器っぽいもの? 例えばどんな?」


※『おもちゃの銃とか』『レーザーソード。スペースウォーズのあれ』


「あーあーあー、ブォンブォンって音がするもんねえ! モンスターに見つけてくれって言ってるみたいなものでは?」


たこやき『モンスターが出てきたほうが撮れ高たかいでしょ』


「確かに……」


 参考になる意見が次々出てくるなあ。


※『ごぼうから逃げるな』『はづきちゃんと言えばゴボウだよね』『ゴ・ボ・ウ! ゴ・ボ・ウ!』


「ゴボウ原理主義者がいる! あれ、ダンジョンから帰るたびにお母さんに料理してもらってるんだよね。連続でゴボウ食べるのはなかなか……」


※『食物繊維たっぷりだから実質ゼロカロリー』


「カロリーあるわ!」


※『草』『草』『草』


 結局、今回の配信では、ゴボウは継続。

 新しい武器として、オモチャのレーザーソードを持っていくことに決定した。


 あれ、音が鳴るし光るし、普通だったら思い切り当てると刀身のプラスチック部分が割れちゃうしで全く戦闘に向いてないんだけどなあ。


 みんなに提案してもらったものばかりじゃ、退屈だよね。

 何か、私からもサプライズを用意していこう。


 せっかくだから喜んで欲しいしね。

 うーん、人のために何かしてあげるという発想、配信を始めるまでは無かったなあ。


※『不思議だよね。冒険配信者って、国が委託しているダンジョン駆除業者でしょ』


 さらっと流れてきたチャットコメントが目に入った。


※『私たちの命が掛かってるのに、その配信を見て、私たちは笑ったり喜んだりしてる。それでいいのかな。なんでこんな風になっているんだろう』


 真面目なコメントだ!

 これは、どう答えたらいいんだろう。

 うーん!


 私は考え込んだ。

 放送事故ではないかってくらい沈黙する。


※『黙るな』『寝ちゃった?』


※カンナ『配信者たるもの、配信中は気を配るべきですわ!』


※『カンナちゃんだ!』『カンナちゃんが来た!』


 なにぃーっ!?

 サプライズゲストなコメントに、私は真面目に考えるどころじゃなくなってしまったのだった。


 まあこの日は結局、雑談だけして終わったんだけど。


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