第261話 彼女の晴れ舞台はアニメ!伝説
こんな真夏の暑い盛りに日本へ遊びに来たビクトリアのパパとママだが、観光を堪能しているらしい。
毎日、どこどこを見に行ったという写真がSNSで送られてくる。
「ママとパパにはね、ぜひ見て欲しいものがあるの」
ほうほう、ぜひ見て欲しいものというと。
そのために今、二人をこっちに呼んだんだろうし。
「私が声を当ててるアニメ! 明日放送するの!」
「な、なんだってー!」
私は驚愕した。
レギュラーではなくて、一話限りのゲストということだったけど……。
イカルガエンターテイメントビルの三階にプロジェクターを設置し、ここを上映会場とした。
ビクトリアのご両親をお招きし、暇な社員も集まってアニメを見る。
日付が変わるくらいの深夜なのに、満員御礼みたいになってる。
みんなお酒やジュースを片手に、放送が始まるとウワーッと盛り上がった。
『なにっ、配信者がアニメに!?』
ウェスパース氏までやってきて、イクラとたらこと明太子のおにぎりを食べている。
連日動画を見たりしているものだから、すっかり日本の文化に詳しくなってしまった。
『知り合いが出るとなると不思議な気分になるものだな』
「ドラゴンと私と同じ感想を抱くとは思わなかったなあ」
なかなかレアな体験だと思うけど、今後はレアじゃなくなるくらい何回も体験しそうな気がする。
「リーダー! こっちこっち!」
ビクトリアのお招きだ。
私は最前列に来て、本日の主役の隣に座った。
彼女の横にはご両親がいて、ビールを片手にワクワクドキドキしている。
そして放送が始まった。
冒険配信者とアイドルがテーマのアニメだね。
割と今季評判が良かったはずだけど……まさかこれにビクトリアが関わっていたとは。
海を超えてやって来たというゲストキャラクターが現れると、彼女の口からビクトリアの声がした。
ウワーッ!!
と沸き立つイカルガエンターテイメント。
クラッカーが鳴り、写真のフラッシュが瞬く。
こ、これは完全に応援上映だ!
初見なのに応援上映してる!!
ご両親も大いに盛り上がり、ビクトリアの本名をなんか叫んでる。
ファンタスティックとか言ってるな。
思った以上にビクトリアの出番は多く……というか、主役の子と同じくらいセリフがあった。
30分は一瞬だった。
強い力を持った海外の配信者の彼女は、主人公と認めあい、空港に巣食ったデーモンを一緒にやっつける。
二人は再会を誓い合い、海外の配信者は去っていくのだった。
そして後日。
海外の配信者が自分のチャンネルで、主人公への感謝の思いを形にした歌を発表する。
これが特殊エンディングとなり、流れるわけだが……。
えっ!?
ビクトリアが歌ってるの!?
「こっそり歌のレッスンもしていたの」
「なんということ」
アニメのエンディングまでデビューしてしまうとは……。
おお、キャストにビクトリアの名前が。
そしてエンディングの歌手にビクトリアの名前が。
オオーッとどよめくイカルガエンターテイメント一同。
ビクトリアのご両親が立ち上がり、愛娘をハグした。
なんか感動的な事になっている!!
とりあえず拍手した。
すると、みんなも拍手した。
ワーッという歓声、またクラッカーが鳴る!
どんだけ用意してたんだ。
「ちなみに今週末にこの曲が発売される。ビクトリアにはさらなるオファーが来ており、声優としての活動を広げていくつもりだ。これを機に、希望する配信者は芸能活動もやっていこうと考えている」
兄がなんか発表した。
イカルガエンターテイメントのより一層の躍進が発表されたことで、みんな大いに盛り上がり……。
その日は男たちは一階、女たちは二階で寝たのだった。
翌朝……。
仕事が終わっている人たちは帰っていき、まだまだやることがある人はその日の仕事を開始する。
ビクトリアのご両親は今日も日本観光らしい。
エネルギッシュ~。
「ママ、パパ、私は今日は収録があるから……」
「オー! ジャパンのメジャーアーティストだものね」
「ファイトだマイリトルガール!」
またハグをしている。
情熱的~。
その後、私にも挨拶してきたので、こっちもペコペコ頭を下げた。
さてさて、ツブヤキックスで昨夜のアニメの感想を検索……。
終わったあと眠くなったので、さっさと歯磨きして寝てしまったんだよね。
目覚めたら会社だったからめちゃくちゃびっくりしたけど。
『ビクトリアの演技良かった!』『上手かったよねー』『ちょっと英語訛りなかった?』『アメリカ人だし』『歌良かった』『予約しました』
歌の予約がもうスタートしてたのか!!
世界的通販サイトのMiturinを見てみたら、今朝の段階だとビクトリアの歌が予約ランキング一位なのね。
凄いことになっている。
「リーダーも歌を出さない? 絶対一位になれると思うわ」
「出さないー。私は、歌わない~!」
それだけはやらないぞ、と固く誓う私なのだった。
しかし、みんな凄いことになってるなあ。
ビクトリアは芸能関係にどんどん進出してる。
日本語ペラペラのアメリカ人だし、日本のオタク文化への造詣がめちゃくちゃ深いし。
この間なんか、プラモデル配信者のチャンネルに出て色々解説してたもんね。
マンガ、アニメ、ラノベ、プラモデル、フィギュア、コスプレ……このあたりが彼女の守備範囲。
あとは歌ってみた動画、通称歌みたもビクトリアは割と出しているのだ。
私が体を張って活動している間、ビクトリアは全く違う方面で活躍していた!
とうとう登録者数が70万人を突破したらしく、これはなかなかとんでもない。
さらに昨夜のアニメで、登録者が一晩で2万人増えたらしい。
ビクトリア旋風が来るぞ……!
「あっ、朝から会社にはづき先輩がいる!!」
「もみじちゃんだ。おはようー」
同い年の小さい後輩が、ペコっと頭を下げた。
かなり髪が伸びて、髪型もおしゃれさんになって来た彼女。
今度大規模パンメーカーからプロデュースしたパンが出る……。
もみじちゃんの登録者数も50万人目前なので、こっちも凄い。
二人とも、イカルガのナンバー2とナンバー3として大活躍なのだ。
頼れるなあ……。
「じゃあ、私は帰ります」
「昨夜のアニメ、みんなで見てたんですね?」
「そうそう。盛り上がったよー。だから会社に泊まったけど、広いベッドでもう一眠りしたい……」
「あんまり寝るとまたお尻にお肉つきますよ」
「水に沈まなくなっちゃう」
そんな軽口を叩き合い、私は会社を後にしたのだった。
お昼寝して起きたら、もうすぐやってくるカナンさんとファティマさんのデビューイベントの準備、しなくちゃなあ。
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