第158話 VRの大地にあひー降り立つ伝説

 とりあえずぶっつけで始めてみようということになった。

 私の配信はいつもこんな感じなので。

 AフォンはVR接続もできるので、ちゃんと配信可能なのだ。


「お前らー、こんきらー」


※『こんきらー!』『こんきらー』『何してんの』『もしかしてVR配信!?』『話題のインキュベーター666じゃん!』『確か配信者はバーチャライズの姿のままアバターでいけるんだよな』


「く、詳しい~。そうです。今回は私、VRなるものをやってみようと思います。で、今ダイブしてる途中なんですが……あ、なんか見えてきました」


※『登録者順にロビーが用意されてるから、そこで交流したりゲームを買って参加したりするんだよ』


「なるほどー。あ、私のロビーは621号室みたいです」


 視界の端に、ロビーの番号が表示されている。

 私が現れると、周りの人たちがちらっとこっちを見て、また雑談に戻った。


 ……と思ったら、慌ててみんなまたこっちを見た。


『えっ!? はづきっちそっくりのアバター……!?』


『精度高っ!!』


『確か配信者ってそのままの姿で来れるんでしょ?』


『顔の横にコメント欄が流れてる……』


『ほ、ほ、本物だーっ!!』


「こ、こんきらですー。中堅冒険配信者のきら星はづきです~よろしくお願いしますー」


 周りの人たちがうわーっと盛り上がる。 

 あひー、大騒ぎになってしまう!


※『そりゃあはづきっちが現れたら興奮するよなw』『いきなりだもんなあ』『俺らですら今日何をするのか何も知らなかった……』


 ロビーは一見すると広場みたいになっていて、真ん中には大きな噴水があった。

 そして噴水の中心から、デコられたモミの木がニューっと生えている。


「あのもみの木は一体……」


『クリスマスなんで』


「あー、クリスマスかあ……。じゃあBGMもクリスマスのやつにしますね……」


 配信のBGMをいじった。

 フリー曲のクリスマスミュージックが流れ出す。


※『はづきっちの配信までクリスマスになっちまった』『はづきっちはクリスマスどうするの?』


「チキンとケーキ食べます」


※『食べる話w』『らしいなあ……』『今年はビクトリアもいるし賑やかだろうなあ』


 和気あいあいとコメント欄とやり取りをしていたら、なんだかキラキラした感じの女子がいきなり話しかけてきた……!


『ねえねえ、はづきっち、クリスマスは誰かとデートしたりするの!?』


「エッ!!!!」


※『ヌッ!!』『こ、こいつぅ~』『触れてはならぬところに触れやがったぁ~』『こいつ陽キャだぞ、気をつけろはづきっち!』


「あひー、ひ、ひ、一人ですー。いえ、家族とビクトリアと一緒でー」


『じゃあじゃあ、はづきっち彼氏とかいないの? えー、そんな可愛いんだから絶対彼氏いると思ってたー! うちの友達紹介しよっか? 超面白いやつでさー』


「助けてえ~」


※『はづきっち最大のピンチだw』『色欲のマリリーヌと対峙した時も動じてなかったのにw』『一人の陽キャの方が恐ろしいんだな……!』


 まさしく私、大ピンチだった。

 こ、この状況をどう逃れたらいいんだ。

 そうか、ログアウトすれば……。


 いやいや!

 配信の撮れ高的にそれはよくない……。


 私が凄い表情で唸っていると、横から助けが入った。


『失礼だが、その質問は配信者的に最も答えられない類のものだ。彼女は仕事で来ているのだから、我々はわきまえるべきだと思う』


 なんかお硬い口調の人が、陽キャを遮ってくれたのだ。

 頭上にその人の名前が見える。


 MONJA STORM……。

 もんじゃストーム!?


「あれっ、もんじゃ!?」


『はい、配信ではいつもお世話になっています。有識者もんじゃです』


 おおーっ、頼れる人が来た!


「じゃ、じゃあ私、有識者に案内してもらうんでこれで……」


『ああー』


 陽キャが残念そうな声を上げた。

 フフフ、私を狩り損ねたな。

 恐ろしい相手だ、陽キャ……。


 今度は慎重に間合いを測ろう。


『はづきっち、まだソフトはダウンロードしていないと思うから、ロビーの機能を案内しよう。俺の言葉もちょこちょこ欠けている部分もあるだろうから、コメントでも補足してもらえるとありがたい』


※『実体を持った有識者ニキ!』おこのみ『抜け駆けェ』『落ち着け同士おこのみ』たこやき『暴れたらブロックされるぞ』


 おこのみが穏やかではない……!


※おこのみ『お、俺もインキュベーター666買ってきてリアルではづきっちの揺れを見るゥ……!』『欲望~』


 おこのみが全くぶれない……!

 こうして私は、もんじゃにロビーを案内してもらった。


 ヘルプ機能を司る、受付さん。

 これはまるごとAIなんだそうだ。


 そしてロビーから、このVRチャットの様々なフリースペースに向かえる通路。

 食べ物を買えるお店もあって、そこはユーザーが趣味で出店している。


「何か買うー! ホットドッグください」


『は、はづきっち!! お代は結構です! どうぞどうぞ……』


「ほんと!? ありがとう!」


 そして食べてみて……。


「あ、味がしない……!!」


『VRだからね』


 もんじゃに無情なことを言われて、私はガックリした。

 VRはいけませんわ。

 現実の代替にはなりえませんわ……。


※『はづきっちが一瞬でVRを見限った目になったぞ!』『食の恨みはこえー』『味だけは無理だもんなあ……』『香りを出す機能もあるらしいけど、食べ物の匂いの完全再現は難しいんだろ?』『すごく高いソフトをダウンロードすればある程度は……』


 視覚、聴覚、擬似的な触覚までは再現するらしいんだけど、嗅覚と味覚までは至らないらしい。

 発展途上の技術めえ。

 いちばん大事なところがないじゃないかー。


『落ち着いてはづきっち。VRで食事をしてもお腹は膨れない』


「はっ、い、言われてみればそうだった……。じゃあやっぱり食事はリアルでするのがいいや……」


※『さすがは暴食に選ばれた女』『強制的に煩悩を断ち切られるVRというわけかw』


 色々と茶々を入れられつつ、私はフリースペースなんかも案内してもらった。

 様々なロビーから繋がっているバザー。

 ゲーム内アイテムの取引が行われていて、通貨はこのVRだけで使えるV円。


 裏バザーもあって、リアルマネートレードみたいなのもあるらしい。

 現実世界の縮図みたいだなあ。

 

 それぞれのスペースはガラス張りのドームみたいな作りで、外を覗けるようになっていた。

 外は一面の宇宙。

 そして見下ろすと……海があった。


 海と宇宙だけの空間。

 

 ふと、海の真ん中辺りで私を見ている何かがいる気がした。

 だが、私はお腹が減ってきたので、そういうのは無視した。


「お腹が減ったので配信終了です! 次回はVRに発生したダンジョン行ってみようと思います! ありがとうねもんじゃ! じゃあお前ら、おつきらー!」


※『いきなり終わるじゃんw』『空腹には勝てなかったw』『いつも腹ペコだもんなあ』『おつきらー』『楽しみにしてる!』


 配信を終えて、また何か食べるのだ!


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