第293話 魔法少女? スパイスちゃん伝説

「スパイスちゃんはなんで配信者をやろうと思ったんですか?」


「あー、それはですね! スパイスはおばあちゃんが魔女でー、亡くなった時に遺言でスパイスを後継者に指名したんですね。でもその魔法は魔女じゃないと使えなくて、だからバ美肉してみたら使えたんです」


「なるほどー。人に歴史ありですねえ」


※『本当か嘘か分からない話だw』『見た目が美少女になれば魔女の魔法が使えるってこと!?』『現代魔法かな?』


「えーとですね、魔女の魔法。いわゆる、いにしえの魔法ですね。ちょっとトラブルがあって、世界中に魔導書が散逸しちゃったんでこれを集めたりしてます! 魔導書情報教えて下さい!」


 というところで、廃校舎ダンジョン最初のモンスターが登場した。

 あー、これは……。


※『見上げるほどの大きさの人体模型!!』『よく見たら天井高くない!?』『やばいやばい、こっちに迫ってくる』『子供の頃のトラウマがー!!』


「じゃあスパイスがやってみますね! 魔導書、フロータ! ラピッドレビテーション!!」


 スパイスちゃんが叫ぶと、指先で空中に魔法陣を描いた。

 あっ、魔法陣が光ってますね。

 それがビューンと巨大人体模型まで到達すると……。


 魔法陣に取り込まれた人体模型の足が、床を離れた。

 そしたら、ものすごい速度で天井に向かって飛んでいく。

 轟音がして、天井を崩しながら叩きつけられる人体模型。


「魔導書フロータ、アクセルフォール!!」


 次も魔法陣が飛んでいって、今度は加速しながら落下する人体模型。

 床が粉々になって、人体模型も粉々になった。


『ウグワー』


 なんか断末魔をあげてる。


 おおー、これはなんか、現代魔法とは違う感じですねえ。

 気がついたら、スパイスちゃんの周りを青いハードカバーの古めかしい本が浮かんでるし。


※『すげー!』『魔女じゃん』『魔法少女だ!』『魔法少女(おじさん)だ』


 ちなみにこれは、スパイスちゃんのリスナーさんはみんな知っているそうで。

 それが私とのコラボで沢山の人が知ることになったみたいなのだ。


「前はこの力が狙われたらどうしよう……とか考えてたんだけど、はづきちゃんを見てたら、強さで突き抜けちゃえばいいんだ! って気付いたんだー」


「うんうん。力こそ全てだからね」


※『はづきっち、変な応答をするなw』『あながち嘘じゃないがはづきっちが言うと洒落にならんw』『あー、見本を見せるために今度ははづきっちが出てきたぞw』


 階段の段が次々に増えながら、波打ってこっちに向かってくる。

 私はバーチャルゴボウを構えた。


 床にゴボウで触れたらばっちいからね。


「あちょ! あちょちょー!」


 波打つ階段をバーチャルゴボウでペチペチ叩く。


「一見して腰が入ってないペチペチアタック! なのに効果音がなんかバキィーン!とかドゴォーン!とか聞こえるんだけど!?」


※『それがはづきっちだ』『あのペチペチの一回一回が致命的打撃だからなw』


『ウグワーッ!!』


 階段と同化していた正体不明のモンスターは、すぐに大人しくなった。

 あれ?

 階段が一段ぶんだけ砕けている。


「魔の十三階段ってやつだねー」


「スパイスちゃん詳しい!」


「そりゃあおじさんですから! 学校の七不思議とか詳しいよー。さっきの人体模型もそうだねー」


 すっかりスパイスちゃんが砕けた口調になってて、この方が可愛い女の子っぽくてよきよき。

 どれどれ、お姉さんが頭をなでなでしてあげよう。


※たこやき『現役JKがバ美肉おじさんの頭を撫でる光景』おこのみ『ハッ、俺もバ美肉したらワンチャン……いや、配信したら死ぬ自信がある』もんじゃ『配信者は実力とセンスと、人並み外れた時の運が必要になるからな。毎年デビューした新人の大半は引退するし、一割は配信中に亡くなってる』


 恐ろしい話がコメント欄で繰り広げられているぞー?

 さて、一階を歩き回る私たち。


 スパイスちゃんは怖いの自体は苦手らしく、私の後ろからそーっと覗き込んだりしている。

 とてもかわいい。


※『けしからんレベルのかわいさ』『さすがおじさん、外見の良さにおもねらず、仕草でかわいさを演出する技にも長けている』『俺たちのツボを一番心得てるもんな。かわいい』いももち『おじさんなんだよなーと分かっててもかわいい……』


 コメント欄がかわいいで埋め尽くされていくぞ。


「これは現役女子配信者として私も危機を覚えねば……」


※『はづきっちはかわいいというか、猛女だから対極にいるようなもんだもんなw』


「な、な、なんだとー!」


※『草』『一瞬で怒ってて草』『図星かw』


 最近、かわいいから遠く離れてしまったのでは無いかと思っていたが、本当にそうなっていたのか!

 方向転換せねばー。


 と決意を新たにしたら、体育館からポン、ポン、とバスケットボールが跳ねる音が聞こえてくる。


「あっ、新しい七不思議的モンスターの気配です。行ってみましょう」


「はづきちゃん待って~!」


※『恐怖という感情をどこかに置き忘れてきたきら星はづきVS恐怖と戦いながら健気に配信するスパイスちゃん……ファイッ』『勝負にならないんよw』『猛女とかわいい幼女(おじさん)だからなあw』


「お、おまえらー!」


※『うわあ、ゴボウでコメント欄をペチペチ叩くなw』『見てる俺たちもペチペチされてる感触があるんだけどw』『はづきっちの配信、4D体験ができちまうんだ!』『ゴボウ殴打体験とか前代未聞だよw』


 このようなリスナーとのじゃれ合いをしつつ、体育館突入です。

 誰も居ないかと思いきや、壊れた窓から入り込む月明かりがそれを照らす。


 女の子がバスケットボールをポンポンとやってる。

 こ、これは……。


「スリーポイント勝負……?」


※『違う違うw』『流れるようにボケるなw』


 女の子がこっちを振り向く。

 顔には目も鼻も無くて、口だけが横に裂けてニヤリと笑った。


「ひゃああー」


 スパイスちゃんが悲鳴を上げる。

 怖いの苦手なのかわいいなあ。

 私は思わずニコニコしてしまった。


※『怪異からのスマイルにスマイルを返したぞ!』『笑うこととは本来攻撃的な動作で……』『はづきっちやる気十分』


 いやいやいやいや。

 違う違う違う。


 だが、なんかバスケットボールの女の子もリスナーと同じような判断をしたらしい。

 ドリブルしながらこっちにスーッと近づいてくる。

 歩いてない。


 よし、私を抜いて後ろにあるゴールにダンクとかするつもりだな。

 させないぞ。

 私は動体視力だけはいいのだ。


 スーッと眼の前まで来たので、私は素早く彼女のボールを見極め。


「あちょー!」


 奪った!


『!?』


 驚愕する女の子。


 私はボールをぺちぺちバウンドさせて小走りにドリブルし、彼女の背後のゴールにぽいっと投げた。

 網の部分は壊れて無くなってるけど、リングは残ってるからそこに入れば……。


 ポトッと落ちた。


「あーっ」


『あー』


 私も女の子も残念そうな声を漏らした。


※『なんか怪異と1on1のバスケット勝負が始まったんだが?』『この展開は読めなかったな……w』『ちょっと楽しそうだな……w』いももち『どっちも笑ってるw』『怖い怖いw』


 ちなみにスパイスちゃんは体育座りをして、試合を見学しているのだった。

 この様子が大変かわいいと評判に。

 彼女のチャンネル登録者がまた増えたんだとか。


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