第22話 突発新衣装お披露目伝説

 新しい衣装が来た。

 最初に踏破したダンジョンで得た、ダンジョンコアでお願いしたやつ。


 デザイナーさんがこれを使って、衣装を作ってくれるのだ。

 なお、ダンジョンコアの周りの部分が余って、これがデザイナーさんの報酬になる。

 今回のはあまり大きくないから、そんなたくさん儲からないかも。


 それでもきちんと仕事をしてくれるデザイナーさん、ありがたいなあ……。


『作りながらはづきさんの配信を見てて、何回もデザイン変えてしまいました』


 チャットツール、ザットコードでデザイナーさんとやり取りする。

 これ、ザッコって言われてて、プロの配信者の人たちもお互いのグループを作って、連絡をやり取りしてるものなのだ。

 私も使い始めた!

 本格的ぃ。


 私は形から入るのだ。


「いえいえ! ありがとうございますっ……と」


 返事を打ち込み、送付されてきたファイルを解凍する。

 その中に、私の新衣装があった。


 デザイナーさんは、エメラルドラクーンさん。エメラクさんと呼ばれてる。


「見た感じは……。おお、なんか武装が展開するやつみたい。なんだなんだ……?」


 実際に使ってみることにした。

 部屋の中で、Aフォンを構えて叫ぶ。


「バーチャライズ!」


 雰囲気出るぅ。

 私の体が、きら星はづきのものに入れ替わった。

 服装はデフォルト設定のジャージ。


「えっと、ここに新しい衣装をインストール……? ? どうやるんだ?」


 Aフォンをポチポチ押していたけど、なかなか設定が上手く行かない。


「ええい言う事を聞けー!」


 ぶつぶつ言いながら作業してたら、焦って手汗が出てきた。

 つるりと滑るAフォン。

 私のつま先に落っこちる。


「ウグワーッ!」


 凄まじいダメージに、私は叫んだ。

 しばらく、つま先を押さえてぴょんぴょん飛び回る。


「こ、このAフォン、私に逆らうかーっ。いやいや、ちょっと待つんだきら星はづき。Aフォンに罪はない。悪いのはこの手汗……」


 ぶつぶつ言いながら、私はAフォンを拾い上げた。

 なんか手癖で画面をもりもり触ったら、ぶるるっと振動した気がする。


 この振動、どこかで覚えがあるような。


「よーし、それじゃあ……新衣装行ってみよう! 掛け声は……」


 エメラクさんからチャットが流れてきた。


『バーチャルアップ!』


「それか! バーチャルアップ!」


 それにしてもエメラクさん、なんで私が着替えようとするタイミングが分かったんだろうな……?

 脳の片隅にちょっと疑問を覚えながらも、私はお着替えに集中した。


 私の体が光に包まれる。

 デフォルト衣装のジャージがバラバラのピクセルに分解され、再構成されるのだ。


 下にある私の体は光が掛かってプロポーションしか見えなくなるので、健全!


 ピクセルが体にくっついてくる。

 それが形を成し、色づき、私の新衣装が完成するのだ。


 これは……!

 ピンクジャージの上着をマントみたいに羽織り、下に白い半袖体操着とスパッツを纏った私!!

 な、な、なんじゃこりゃーっ!!


 胸のゼッケンに、『きら★はづき』とでかでかと書かれている。

 ……うーん、どうだ?

 私らしいと言えば、らしい……。


 見下ろすと、胸が邪魔して全体像が分からない。


 Aフォンを使って、私の姿を全体表示にすることに……。


※『うおおおおおお』『うおおおおおおお』『うおおおおおおおおお』


 Aフォンを手に取ったら、突然真横にチャット欄が出現して、コメントが猛烈な勢いで流れていく。


 うおわーっ!?

 なんだなんだーっ!!


※『シークレット新衣装お披露目最高!』おこのみ『期待の衣装! 望んでいたものがついに拝めた……!!』『でかい……!!』『ちょっとはづきさんセンシティブですわよ!!』『めっちゃ可愛い!』『似合ってるーっ!!』

※エメラク『想像以上です……。感無量……』


【赤スパ¥50.000:エメラク「いい仕事しました……。ありがとう。そしてありがとう!」】


「エ、エ、エメラクさん!? っていうか、なんで配信が始まって……あっ!!」


 私がつま先に落とした時、たまたま配信開始されてしまったのではないか。

 私が奇声を上げて足を押さえ、部屋の中を飛び回っている姿が全世界に!?


※『はづきっちかわいい!』『ジャージがたなびいてる! マントだ!』『セパレートモードだね!』


 体操服のデザインも可愛いもので、袖のピンクのラインに、星型のワッペンみたいなのがついている。

 星とピンクと、体操服の白。

 それが組み合わさった、完全無欠にきら星はづきのデザインなのだった。


「た、確かに可愛い! ふふふ、私、めっちゃ可愛いじゃないかー」


※『本人も衣装初見!?』『俺らと温度感合わせてくれてるんだな』『一生はづきっちについていくぜ!』


 そこから、もりもりとスパチャが流れてくる!

 うわーっ!

 か、加減しろお前らーっ!?


 登録者数が既に120.000人に達した私。

 この登録者たちがスパチャやコメントを流しまくると、もう私では追いきれないことになる!


「スパチャ、今度スパチャ読み配信するから勘弁して! あと、スパチャ読み配信はスパチャ禁止! 読む量増えるから!」


※『スパチャ禁止笑った』『配信者がスパチャするなって言うの斬新だな』


 うるさーい!

 だけど、こんな妙な形で新衣装お披露目配信をやってしまった以上は仕方ない。


「今回はミス! ミスだけど、改めてちゃんと予告してお披露目するから! 以上! お前ら解散! かいさーん!!」


※『ツブヤキッターのトレンド乗ってるのに速攻解散するの草』


「えっ、トレンドに!?」


 自前のスマホで検索すると、確かに……!!

 ゲリラお披露目配信ってある!


 ゲリラするつもりなんかなーい!!

 気付いたら同接が4000人超えてるし。


「私がミスして配信しちゃったら即座に駆けつけるとか……。も、もしかしてお前ら、暇なのか……?」


 恐る恐る聞いてみた。


※『通知オンしてる』『学生だし!』『職場のトイレで見てます』


 仕事さぼって見てる人がいる!

 だけど、みんなが見に来てくれるっていうのはありがたいな……。


「来れなかった人のために、ちゃんと用意して配信するから。今回はここで終わりです! 解散! かいさーん!! おつきらー!」


 私が宣言すると、コメントに『おつきらー!』が怒涛の如く流れた。

 統率力~!


 ちょっとジーンとしながら、配信を終える私なのだった。

 その直後、ザッコにて兄からの通知が大量に!


 う、うわーっ!

 無計画なゲリラ配信を怒られるーっ!


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