第63話 リスナー同伴ダンジョン伝説

「は、はいはいー。じゃあわた、私についてきてくださーい。はぐれると死にますからねー」


「ふおおおおリアルダンジョン怖い」


「はづきっちにキャリーしてもらうことになるなんて……」


「命がけのファンイベントでござるなあ!」


 私を出迎えたお前らは三人。

 太ってるのと、のっぽと、小さいの。

 三人ともメガネを掛けている。


 うーん!

 すっごく古いステレオタイプのイメージ通り!


「ちゃんと後ろついてきてくださいね……。なんか、素質がないと同接パワーは上手く得られないみたいなんで……」


 同接パワーがない一般人、ゴブリンに普通に殺されちゃうのでとても危険なのだ。

 おいおいおい、それを考えたら私よく一人でダンジョン配信しようとしたなあ。


「我ら、大学ではつるんでいる仲間です故」


「三人で冒険配信者愛好会をですね」


「今ははづきっちがブームで」


※『今どき凄い奴らがいるな』『平成の時代からタイムスリップしてきたのか!?』『犠牲になってもあまり心が痛まないタイプだ』


「あひー!? 私の心が痛むんですけど!! あ、モンスターでーす」


 私が前方に出現したやつを指し示すと、後ろの愛好会三人組が「フヒィィィ」と震え上がった。

 こうして小さくなって大人しくしてくれているのは助かる!


 モンスターは駅員の姿をしている……角が生えた赤い肌の巨漢だった。

 鬼かな?


『切符拝見しまぁす!!』


 手に何かカチカチ言わせているやつを握りしめて、鬼の駅員さんが襲いかかってきた。


※『このダンジョン、なにげにやばくね?』『ああ、グレーターデーモン級のモンスターが複数出てきてるだろ』『どゆこと?』もんじゃ『説明しよう』『有識者ニキ!!』


 もんじゃが説明を始めた!

 私はゴボウで鬼のカチカチ言うやつと渡り合う。


 うわー、強い!

 ゴボウで一撃で消滅しない!


※『言葉を話すモンスターは上位種だ! 自己意識を持ち、自ら動いて侵入者を屠る。これで世界的に幾人もの配信者が犠牲になっている。ちなみに最近、明らかに出現頻度が増えたぞ。これは先日のダンジョンハザードがきっかけになったと言われている。ネームドデーモンと同じような現象だな』


 詳しいなあ!


『切符拝見しまぁす!!』


「そ、そのカチカチなんですかー!!」


 私がヘロヘロと振り回すゴボウがカチカチとぶつかり合う。

 な、なんか完全に互角なんですけどー!


※『多分あれ、ダンジョンのボスモンスターだな』『並みの配信者じゃ刃が立たないやつじゃねえか!?』『はづきっち気をつけてー!!』


「気、気をつけるって言ってもー!! めっちゃくちゃ余裕ないんですけど! あひー!」


 私がとっさに伸ばしたヘロヘロムーブなゴボウが、ひょろっとカチカチを弾き飛ばし、駅員鬼をペチッと叩いた。


『ウグワーッ!?』


 ふっとばされる駅員鬼。

 うわ、これでも消滅しない!

 つよいー!


※『嵐のような改札パンチを全て凌ぎ切ったな! すげえ……!!』『はづきっち、タンクとしても超有能だよな』『配信開始以来、一度もダメージ受けてないからな』『マジ!?』たこやき『マジだ。俺の切り抜き動画でそこも分析してある』『あのボスモンスター、はづきっちじゃなければ危なかったんじゃねえか?』


「買い被りだってば……。じゃ、じゃあ皆さん、ボスモンスターを追いかけますよー」


「ひぃーっ! さらにダンジョンの奥に行くんですかー!?」


「ダンジョン配信者は過酷にござるなあ!」


「我々、一糸乱れぬ動きではづきっちについていきます!」


 うんうん、独自に変なことをしないし、変な主張をしないのは大事!


 お前らをぞろぞろ連れて、破棄された駅の中をさまよう。


 とは言っても、壁なんかほとんどなくて、プラットホームと柱と壊れたベンチがあるだけなんだけど……。

 それがどこまでも続いている。


 あー、都市伝説のきさらぎ駅ってそういう感じなのかもなあ。

 

 途中で、線路から這い上がってくるゾンビみたいなのに遭遇して私が「あひー!」と悲鳴をあげると、後ろの愛好会も「ひょえー!」と悲鳴をあげる。


※『今日の悲鳴は雑音が混じってるなあ!』『おい愛好会静かにしろ。至上のあひーが聞こえないだろ!!』『酷だろwww』


 まあ悲鳴でちゃうよね!

 私が守護らねば!


※『はづきっちがキリッとしたぞ』『母性本能に目覚めたか』『俺ら赤ちゃんみたいなもんだもんな!』


 這い上がってきたゾンビの額をゴボウ……は汚いから、つま先でツンと蹴る。


『ウグワーッ!!』


 消滅するゾンビ。

 ほら!

 普通のモンスターなら簡単に消えちゃう。


※『蹴り技……!!』『新しい技だ!』『今日は色々なはづきっちが見られるなあ』


 ベンチに座っていた人たちもモンスター化して襲いかかってくる。

 これは真っ白な肌で、目玉のあるところが空っぽ。

 うめき声を上げながら猛スピードで駆け寄り、掴みかかってくる!


「ギェピィーっ!!」


 愛好会が悲鳴をあげた!

 先に叫ばれたので私が叫ぶ暇がない。


※『愛好会てめえ!』『あひーが足りねえ!』


 コメント欄に怒りが満ちる!

 いけなーい!


「へ、へ、平和的にコメントしてー!」


 私はお前らに声を駆けながら、ゴボウを振り回した。


『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』


 ベンチの人たち次々にゴボウで叩かれて消滅していった。


※『まずいぞこれ。愛好会ひたすら邪魔でしかねえ』『ああ、ヘイトを稼ぎまくってる』『俺たちははづきっちが見たいだけなんだ。愛好会の悲鳴を聞きたいわけじゃない!』


 コメントの意志が一つになる……!


※『はづきっち! このスパチャで武器を買うんだ!』『さっさとダンジョンをクリアしてしまおう!』『頑張れー!』


 あっ、次々にスパチャが!!


「あ、は、はい! スパチャありがとうございます! えっと、じゃあ武器は……インフェルノミスト!」


 部屋ごと殺虫剤インフェルノミストを設置する。


「バキュームガルーダ!」


 強力吸引掃除機を手に取る。


「あと試作品の私の抱きまくらカバー!」


※『うおおおおおおお』『うおおおおおおおおお』『はづきっちオールスターじゃん!』『しれっと新商品まで!』


 インフェルノミストから広がる煙が、ダンジョン内に充満する。

 モンスターたちは次々に煙に巻かれ、弱いものはどんどん消滅する!


 そしてちょっと強いのは、煙を避けてこっちに飛び出してくる……。


 これをバキュームガルーダでどんどん吸い込むのだ。


「ど、どんどん吸いますよー! あちょー!」


※『久々の怪鳥音が!』『だが気をつけろはづきっち! ボスモンスターが!』


「だ、大丈夫です! だって……!」


『切符を……拝見しまぁぁぁぁすっ!!』


 煙を突き破り、頭上から巨体が降ってくる。

 駅員鬼だ。

 部下のモンスターをことごとくやられて、怒りに燃えている。


 だけど、その目の前で抱きまくらカバーが膨らんだ。


 まるで中に抱きまくらが入っているみたい。


※『うおおお、抱きまくらカバーの中に何かが入って!?』『ばっか、俺たちの夢と希望だよ!』『うおおおおお、やってやれ抱きまくらカバー! 商品の凄いところを見せてやれ!』


 ふっくらと膨らんだ抱きまくらカバーは、駅員鬼と正面から激突した。


『きっ! 切符を、拝見しま、しま、しままままままままウグワーッ!!』


 抱きまくらカバーが強烈な輝きに満たされる!

 駅員鬼はそれに飲まれて、いや、抱きまくらカバーに抱かれて消滅していった。


 後には大粒のダンジョンコアが落ちる。


 次の瞬間、駅は完全に、元の廃駅に戻っていた。

 線路はサビサビ、あちこちに蔦が絡んで、駅名はかすれてよく読めない。



※『やったー!!』『抱きまくらカバーの勝利!』『絶対に欲しい』『普通に退魔効果とかありそう』『予約いつからですか!』


 ワイワイと盛り上がるコメント欄を眺めつつ、私は思うのだった。


 動いてお腹へったから、ほうとう食べて帰ろう……!


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