第505話 学校に色々お返ししよう伝説

 来た……!

 新学期が……!!


 新年は雑談配信をしつつ、各地の新人配信者さんたちを発掘するイベントをやっていたのだ。

 魔王が倒されてから、一気にダンジョンの危険度が下がり、熊が出る雪山くらいになりました。

 いや、全然危険なんだけど!


 でもまあ、同接を集めるのは近代的なフル武装をするみたいなものなんで、まあまあイケるでしょう。

 その初速を応援する意味で、私がランダムに新人さんの配信にお邪魔したのだ。


 大変喜んでもらえて良かった。

 新鮮な悲鳴とか奇声をたくさん浴びれた。


「私は三月で引退するので、次の時代のダンジョン配信は任せました!!」


『おおおおおーっ!! はづきっちさんにそう言っていただけるなんて! ひゃあーっ! 光栄すぎて、語彙が、語彙が……アギャギャーッ』


 新人さんが凄いことになっているのをニコニコ眺めるのはとても楽しかったのだった。

 私に凸されて、この奇声をあげる新人さんは一気に登録者が5000人増えたそうで何よりです。


 短い冬休みをこうやって濃厚に過ごしていたので、新学期はなんかやりきった気分で迎えることが出来ましたよ。


 登校すると、私を見つけたクラスメイトたちがワーッと寄ってくる。


「一緒に登校しよ!」「今まではバレるの恐れて、遠巻きだったもんね」「カミングアウトしかたらもう何も怖くない!」


 うおおーっ!

 賑やか!!

 ま、まるで私が彼女たちの中心人物みたいではないか。


 リア充の世界を垣間見た気分。


『はづきも大概、リア充なのでは?』


 内なるベルっちよ、何を言っているんだ。

 私は陰キャ。

 それは天地神明に誓って変わらない事実なのだ……。


「はづきっち、どんどん明るくなってくるよね。最初の頃って陰キャ配信者ってキャラだったけど、今はもう完全に陽の側だよね。むしろギャル」


「ギャル!?」


 信じられない言葉を聞いてしまった。

 私と最も縁遠い存在ではないだろうか!!


 配信はきっと、真実の像を大きく変えて人々に伝えてしまうのだな。

 怖い怖い……。


「っていうか一年目からどんどん背が伸びたよね……。なんで高校三年間でそんなに背が伸びてるの?」


「よく食べるからかと……。あと、よく動く……」


 なんで背が伸びたのかさっぱりわからない。

 私は雰囲気で成長している。


 一年目の後半で163になってここで落ち着いたなーと思ったら、今気付くと168くらいあるからな……。

 なんで伸びてるんだ。


「スカートの丈がちょっと短くなるので困っています……!!」


「はづきっちの太もも綺麗だしいいじゃない?」「尻相撲見た! 凄かったー」「はぎゅたんとの一騎打ち、見応えあったよねえ」「牽制のお尻と見せかけて、抜刀……いや抜尻一閃!」「スタジオの端までふっとばしたもんねえ」「達人の間合いだったー」「はぎゅたんよりお尻大きくない?」


「誰かな最後にセクハラしてきた人はー!! あひー! 揉むなー!」


 私がうおーっと声を上げたら、クラスのみんながキャーッと笑いながら走り出した。

 ま、待てー!



 こんな感じでドタバタと登校です。


 うちの学校は、受験する人も多いんだけど……半分は既に推薦が決まってる。

 それよりも上の学校を目指したい、向上心が高い人が受験するわけ。


 二学期までで高校生活でやる授業は全部終わってるので、三年目は学校でやってくれる特別講義がメインかな。

 それも受験組が主だし、私も含む推薦組は実質、登校しなくても構わない感じ。


 では、なぜ今教室で、クラスメイト全員がいるのか!!

 来年の新入生に向けたメッセージ動画を作ったりですね、卒業に向けての校内清掃……整備?的なものをするからなのだ。


 クラスメイトみんなでジャージに着替え……。

 一年間で使用した構内設備を補修したりペンキを塗り直したり……。

 雑巾を作成したり。


 入学してきたときよりも美しく!

 をモットーに、校内を修理するのだ!


 この謎の習慣なんだけど、全然いつやめてもいいらしいし、やりたくない人はやらないでいい。

 なんなら、特別講義に参加してもいいし……。

 その特別講義だって一月中に終わる。


 なのに不思議と、毎年みんなが参加するんだそうだ。


 共通テスト向けの集中講習が一週間で、そこから追、再試験向けが一週間。

 一月後半からは全員が晴れてフリーになり、全員で校内補修をして、二月にはそれも終わっているから全員が暇になる!

 そうなったら、三月に卒業旅行だー!


「しかしみんな物好きだねー。わざわざ学校に来て、みんなでペンキ塗るとかさ」


 はぎゅうちゃんが呟いて、そこにいたみんなが笑った。

 ペンキチームは五人。

 私とはぎゅうちゃんと、あと三人なのだ。


「だって楽しいじゃん。この学校も古いけどさ、私たちの思い出はずっと長持ちしててほしいでしょ? 同窓会とかした時、みんなで覗きに来たいし」


「あ、OGの人たちよく見に来てるもんねえ」


「そうそう! あたしらのおかーさんくらいの人たちも!」


「分かる。学校好きだもんね」


 そんなわけで、私たちのモチベーションは高いぞ!!

 私は鼻息も荒く、もりもりとペンキを塗っていく。


「うおお、師匠の勢いが凄い! あたしも負けないぞーっ!!」


「くっそー、配信者組に負けるなー!!」「うちらもやるぞーっ!!」「うおおおおお!!」


 真冬だと言うのに汗だくになりつつ、私達は作業をしていくのだった。

 まあ、塗る場所は広大なんで、これからずっとこの作業をやってくわけですけどね!


 補修しながら校内の色んなところを移動するから、作業する度に思い出が蘇る……。


「あー、ここは校内でバーチャライズする決意をした私が、自転車でデーモンを轢いた場所……」


「あの自転車、未だに家宝にしてるってさ」


「そこまで大事にされてるの!? 乗っていいのに……」


「乗れない乗れない!」「だって本物の魔除けの力がある宝物でしょ?」「買い取ろうとして何人も来たけどみんな門前払いしたってさ」


「師匠の場合、学校の中だけでもエピソードが山ほどあるからなあ……。さてさて、次の場所はどんなエピソードがあるんでしょうねえ」


「わ、私の話ばかりじゃなくみんなの話もしようよー!」


 そんな感じで、卒業までの時は少しずつ近づいてくるのだった。

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