第249話 きら星はづき、(ちょっとだけ)西へ伝説

 昨日のカンナちゃんとのプラモ配信は受けた。

 大いに受けた。

 同接が二万人超えた。

 プラモ作ってるだけなのに!!


 ちなみに、カンナちゃんのヘルプにはビクトリアを伴って向かい、やっぱりビクトリアが大活躍して二人のプラモは完成した。

 私とカンナちゃんは、ビクトリアをプラモの師匠として崇めることになっている。


 今度三人でコラボして、プラモデル配信などしよう。


 ということで、今朝。


 出勤前のお前らのために、朝活としてもう一回プラモデル紹介をやったのだった。

 受けた受けた。

 電車の中で見ている人とか、朝ごはんを食べながら見ている人がいたのだ。

 朝の活力になってくれれば嬉しい。


 そんな、朝活を終えた私。

 遅めの朝ごはんを食べ、今日は父のお弁当を届けに行くので、せっせとおかずを詰め込む。


「あなたがお弁当を届けに来るっていうから、あの人、凄く楽しみにしながら会社に行ったのよ」


「へえー! 私の朝活でお弁当用意できなくて悪いなーって思ってたのに、喜んでもらえるとは不思議な……」


 麦入りご飯に、味付け海苔を乗せて……。

 おかずは私が作った甘い卵焼きと、母謹製の塩辛いお漬物、ビクトリアが作ったアメリカンなミニハンバーグ。ビーフ赤身100%!!

 これに朝ごはんに出ていたきんぴらごぼうを入れて……。


「よし、完成。じゃあ届けに行ってきます」


「行ってらっしゃい」


「ハヅキ、出かけるの? 私も行こう」


 カナンさんも物珍しそうについてくることになった。

 夏は日本語学校も休みらしいからね。


 彼女はバーチャライズして、外人のお姉さんの外見になった。

 どことなくカナンさんの面影があるんだけど、耳が長く尖ってないだけで全然印象が変わるのだ。


「ハヅキだって、バーチャライズしていないときは長くてきれいな黒髪が素敵な可愛らしい女性だろう?」


「えっ、そうなんですか!」


「お互い様ということだ。それに、全然姿が変わったほうがバレないのだろう?」


「まあそうです。じゃあ行きましょう……」


 途中まで、ビクトリアも一緒に行く。

 彼女とは途中駅まで一緒なので、「大学が終わったら、ファティマのレッスンに付き合うの」とかそういう話を聞いた。

 カナンさんとファティマさんのデビューも近いなあ。

 今回はあっという間にデビューしてしまうのだ。


 ファティマさんの場合は、インド側からの援助もあるらしい。

 彼女が活躍することで、インドにいる強欲の大罪に対抗する力が高まることを期待されているのだ。


 カナンさんはなんだかんだで、ダンスとか一瞬で覚えるし歌も上手い。

 真面目だけどどこか抜けてる感じの会話スタイルも、配信者向けだと思う。

 逸材だ……!


 なお、男性配信者予定のトリットくんはコンプラ意識が弱いので、目下兄が教育中。

 兄はなんでもできるから、一人でなんでもやろうとするからなあ。


「じゃあ、リーダー、カナン、私はここで。シーユー」


「いってらっしゃーい」


「気をつけてな」


 ビクトリアが降りて行った。

 彼女が留学してるのは、昔からある由緒正しい国立大学なのだ。

 古い学舎がなんとも味があるんだよね。


 ということで、さらに四駅ほど移動すると……。

 八王子です。

 父の勤めている会社があるので、そこまでカナンさんと歩く。


「この世界は本当に栄えている……。ダンジョンに侵食されながら、これだけの繁栄を保てている事が、この世界の人々の強さを現しているわ」


「そんなもんなんですねえ。なんかこう、ダンジョンもしかめっつらして攻略するんじゃなくて、全部娯楽にしちゃうみたいなとこがあるから」


「ええ。だからこそ、この世界の人々は戦えているのだと思うわ」


 ファールディアに降り立った魔王は、娯楽の少ない国々を真っ先に制圧したらしい。

 そういう国は抵抗力が無くて、あっという間に魔王に洗脳されて傘下に加わったとか。


「娯楽や文化は抵抗する力。それを軽んじる者の中に、敵は入り込んでくるの。だからこそ、この世界は強い」


 昨日のプラモデルとかね、と続けるカナンさんなのだった。

 なるほどー。

 確かに、プラモデルは本来、生活とかに必要なものじゃないもんね。


 だけどあれが発売することで、凄くたくさんの人が喜んでいるのだ。

 来週末には、予約した人たちの手元に届くことと思う。


 うんうん頷いていたら、父の会社に到着した。

 インターフォンを押して、父の名前とお弁当を届けに来た話をする。


 しばらくしたら、凄くニコニコしながら父がやって来た。


「ありがとうありがとう! おや、カナンさんも一緒かい。せっかくだから八王子をぶらついてきたらどうだ? あ、これお小遣い……」


「やったー!」


「ありがとうございます」


 軍資金をいただいてしまった。

 いや、配信のお蔭でお金はあるけど、お小遣いをわざわざもらえるというのはまた特別感あるもんね。


 こうしてカナンさんを連れて、八王子の駅前のお店を巡り……。

 玉ねぎたっぷりの八王子ラーメンを食べた。


「これは甘くてあっさりしているから、私でもスルスル食べられるわね」


 すっかりラーメン好きになっているカナンさん、八王子ラーメンを気に入ったみたいだ。

 で、二人で玉ねぎラーメンの良さを語り合っていたら、隣のおじさんが見てるスマホからなんかニュースみたいなのが流れてきている。


『甲府の攻略済みダンジョンに新しい階層が』『ダンジョンに恐ろしい法則が設けられており、対応できなかった配信者たちが敗北……』


 なんか大変なことになっている……?


「ハヅキ。これは行くしかないんじゃない?」


「うんうん、ちょうど八王子だし、ここで特急券を買って甲府まで行っちゃおう」


 私たちのフットワークは軽いのだ。

 ついでにAフォンで、甲府にいるケンタウロスの知り合い、ブリッツさんにも連絡を取っておく。

 ちょっと西まで移動したなあと思ったら、さらにさらに西に行くことになったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る