第141話 チラ見せ、うちの後輩伝説
某区の繁華街と言えば、たくさんのお店。
その中にはレストランが凄い数ある。
そうすると……増えてくるんです、ねずみ。
ということで。
『ピギィィィィィ!!』
「はひっ、ネ、ネズミのモンスター!!」
「出たねー。えっと、こういうのにはゴボウはばっちくなるので、バーチャルゴボウでお相手します」
※『はづきっちが冷静だ』『それで、さっきから挟まれる悲鳴はなんだw』『初めて聞く声だぞ』
「そ、そっちは企業秘密なので突っ込まないでいてもらえると……」
※『この間ちょっと洩らしそうになった秘密だなw』
勘のいいリスナーめえ。
※『知らん振りしとくかw』『どうせ考察勢が勝手に考察するだろ』『俺らは俺らの姫を応援するだけだからな』いももち『色々な意味で期待してていいんですねッッッ』
一人覇気に満ちたのがいるなあ!
こうして、私はバーチャルゴボウを振り回してネズミモンスターを退治して回る。
今回の相手はジャイアントラットと言って、1mくらいあるネズミだ。
ただのネズミよりもずっと怖いモンスターで、頭がよくて群れを作り、狭い空間なら壁や天井を走り回り、コンクリートをかみくだく前歯で襲ってくる。
こっちの動きを見切って回避してくるので、攻撃も当てづらくて、そこも嫌がられているモンスターらしい。
「だそうですねー。あちょっ」
『ピギィーッ!』
※『攻撃当てづらいって説明しながら一撃で当てよったぞw』『はづきっちの謎エイムは何気に百発百中だからなw』もんじゃ『無心で振っているのだろう。そこに戦意も残していないから、向こうもそれがモンスターにとって致命的な攻撃だと気付かないのだ』『有識者、それは分析か?』もんじゃ『私の願望だ……』『おいw』
もんじゃもそういうところあるんだなあ。
私も思わず笑ってしまった。
笑いながら、ぺちっとバーチャルゴボウを振る。
そうすると、そこに吸い込まれるようにジャイアントラットが飛び込んできて当たった。
『ピギィーッ!』
地面にペショッと落ちて元のネズミの姿になって動かなくなる。
やがてシュワシュワと泡になって消えてしまった。
「はひ、はひ、はづき先輩、うち、もう限界です……。ネズミ苦手……。頭がおかしくなりそう~」
「一応私の近くが一番安全なんで、頑張って目を閉じててね」
「はひ~」
※『さっきから画面外から可愛い声がずっと聞こえるんだが……w』『無視できないじゃんこれw』『先輩って呼ばれてなかったか?』『考察勢の考察を待つまでもない……』
もみじちゃんの存在感が凄すぎて、リスナーも話題にせざるを得なくなってる!
そういう意味で配信は盛り上がってるなあ。
ちなみにトライシグナルのみんなの配信には、ちょこちょこもみじちゃんが映り込んでいる。
『エプロンドレスのエルフの娘がおる!!』『ちっちゃくてかわいい!』『はづきっちの服の裾掴んでた!』
ツブヤキックスではもう、トレンドになってるじゃないか。
「こ、これは兄の周到なプロモーションなのでは……!?」
私は気付いてしまった。
なるほど、チラ見せして興味を煽るんだな!
ついでにもみじちゃんを実戦に慣れさせる。
今のままだと、ジャイアントラットが怖い女の子だもんね。
ワイワイと、もみじちゃん関連の憶測が飛び交う。
配信はとても明るい雰囲気だ。
お陰で、私が懸念していた一点に注目が集まらなかった。
それは……。
某区のハロウィンのせいで発生したダンジョンを攻略するということは、自業自得な陽キャを救うことではないかという話なのだ!
お前らには陰キャも多いし、私も陰キャだからな……。
絶対陽キャ救済に反対する人いそうだし。
だけど、それは杞憂だった。
私たちにはもみじちゃんという心配しなければならない対象がいたのだから!
もみじちゃんが大丈夫かどうか気になって、陽キャどころじゃない……。
※『はづきっちが虚無った顔しながら次々ネズミを倒してるぞ』たこやき『あれは複数のことを考えてる顔だな。もう配信中であることを忘れてるかもしれない』おこのみ『エプロンドレスの娘見たい! 見たい見たい~!』
おっと、おこのみが駄々をこねたところで我に返った。
「ちょっとぼーっとしてました!」
※『ぼーっとしてる状況が一番進みが早かったというねw』『モンスターを刈り取るマシーンになるからなw』『そろそろボスモンスター?』
「そうですねー。ちっちゃいダンジョンなんで、すぐにボスが出てきます。えーと、路地裏ダンジョンの一番奥のこのあたりに……」
私は無造作にバーチャルゴボウを展開し、シールドモードにした。
なんとなくやった動作だったんだけど、次の瞬間、そこにジャイアントラットが雪崩みたいに襲いかかってきたのだ。
「は、はひ~っ」
もみじちゃんの悲鳴が響く中、自分から突っ込んできたジャイアントラットたちは、展開バーチャルゴボウに衝突して次々消えていく。
『ピギッ』『ピギギッ』『ピギワーッ!?』
最後にとびきり大きいのが衝突してきたけど、同じように消えた。
そうしたら……。
あっという間に周囲の風景がダンジョンじゃなくなる。
狭くて臭くて汚い路地裏だ。
「ボスが混じってたみたいですねー」
※『悪夢のようなネズミ雪崩を平然と突破する女』『この人、怪談と陽キャ以外なら本当に怖いものなしだなw』『やっぱ今度百物語配信しようぜ』
「あひー、怪談はやめてください~! 一人でお風呂に入れなくなる~」
※いももち『じゃあお姉さんが泊まって一緒に入ってあげる……』『ライン越えだぞw!』『いかにお姉さんとて言ってはならんことがあるぞw』いももち『すみませぇん』
コメント欄はにぎやかだなあ。
ダンジョンに迷い込んでいた陽キャたちは、トライシグナルのみんなが助け出している。
さすが、企業系配信者。
動きに無駄がない……。
「初めてのハロウィンダンジョンでしたけれど、はづきさんがいると思った以上に楽に攻略できますわね!」
配信用のお嬢様喋りになったカンナちゃんだ。
ちなみに、素の喋り方はリスナーみんなにバレているらしい。
「私は盾として使ってもらえば! さあ、今夜であと三つか四つのダンジョンを攻略しなくちゃ。私は門限伸ばしてもらったけど、それでもすぐに帰ることになりそうだし」
父の肩もみをして、今日だけ門限プラス二時間を勝ち取ったのだ!
時間内にハロウィンダンジョン攻略を終わらせるぞぉ。
ちなみに門限延長を勝ち取るために肩をもんであげた父は、天井なんかを見つめて感慨にふけっていたけど、あれはなんだったんだろう。
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