第140話 ここはコスプレで騒ぐ街ではないです伝説

 某区のゴーレム像。

 これはイースター島のモアイを模して、そこにマッチョボディを付け加えた某区のシンボル的な像なのだ。

 あとは忠犬きゅうべえの像もあるね。


「はひー、カップルがたくさんいる……。イノッチも今頃……。いやいや、相手は中二……」


 シカコ氏改め、もみじちゃんがなんかぶつぶつ言ってる。


「もみじちゃんも彼氏欲しい感じですか」


「そ、それはもう、できるものなら欲しい……。いやいや、うちはこう、ちびで子どもみたいな外見なので大変難しいことはわかっておりましてー」


 もちゃもちゃ言い訳してきたぞ。


「はづき先輩は欲しくないんですか」


「そもそも私の人生的にそれどころではない……」


「あっ確かに」


 ご理解いただけただろうか。

 もうもう、日々の配信で何やろうかとか、いついつにどの衣装が発表だとか、誰さんと連絡取らなくちゃとか大変なのだ!

 男!?

 そんな暇あるかあ!


 というか陰の者であった私がまず見つけるべきは、友達ではないだろうか?

 最近はちょいちょい増えてきててとてもいい。

 私も陽の者の道を歩み始めている……。


 一人感慨にふけっていたら、ゴーレム像前で合流したらしい女子中学生の群れがキャーッとと盛り上がった。

 おお、若さを感じる……。


「はづき先輩、彼女たちと一個か二個しか変わんないんですから年寄りみたいな顔しないで」


 もみじちゃんに顔をムニムニされてしまった。

 そうか、カップルだけじゃなく、友達でハロウィンを盛り上がろうという人たちも多いのか。


 それから、この期に乗じてナンパとかしてくる人たち。


「あれー? 二人だけなの? 彼氏連れじゃないんだ?」「俺らと一緒にハロウィンを楽しもうよ! 最高に楽しいクラブとか知ってるからさ」


「ナ、ナンパ!!」


 もみじちゃんが緊張して背筋をピーンと伸ばした。


「ほ、本当に存在したんだ。伝説上の生き物ではなかった」


 私がほえーと感心しながら振り返ったら、ナンパに来ていた男性二名が「あっ!!」と叫んだ。


「き、き、きら星はづきちゃん!!」「ひえー!! 本物!? いや、本物だろこれ。きら星はづきコスの娘は何人もいたけど、ブタの耳と前髪にブタの鼻と腰に尻尾付けてるの彼女しかいないから!」「配信で言ってたもんな!」


 私はハッとした。


「もしやお前らですか……?」


「あ、はい! 俺たちはお前らです!!」「うおー!! はづきっちと会えたー! 会えちゃったよー! ナンパどころじゃねえよこれ!!」


 二人のお前らがぴょんぴょん飛び跳ねて喜びを表現した。


「危ない! あ、あまり騒ぐと私がバレます……!!」


「えっ!? その姿でバレてないつもりだった……?」「間違いなく本物だよこの人」


「さっすがはづき先輩」


 なんかリスペクトの目を向けてくるのが三人になっちゃったな……。

 こうして、現地のお前らとおしゃべりなどした。

 この二人は千葉から来ているんだそうで、今日のためにバッチリおしゃれを決めてきたんだそうだ。


「でも、はづきっちに会えちゃったらそれどころじゃねえっすよー!」


「超自慢できる!」


 嬉しそうで何よりです……。

 私はどういう反応をしたものか困るぞぉ。


 だが、そんな状況で駆けつけてくれるのが、我が親愛なるトライシグナルなのだ。


「ごめーん! ちょっと遅れた! あれ? はづきちゃん以外にも何人かいる……」


 お前ら二名は到着した三名を見て、「あっ、あなたがたはー!!」とか叫んだ。


「これからコラボでハロウィンのダンジョンを潰してまわるので……」


「配信するんすね!? がんばってください!!」


「あ、はい。応援よろしくねえ」


 二人と握手したら、二人ともものすごい喜びようだった。

 これだけ騒いででも、ハロウィンの某区はにぎやかでそこまで目立たない。


 お前らと別れ、トライシグナルと合流し、そんな私たちの横に横断幕が張られていた。


『この街はハロウィンで騒ぐための街ではありません!!』


 おお、某区の区長がお怒りだあ。

 毎年ニュースになってるもんね。


 国としてはガス抜きみたいなものだから黙認してるみたいだけど、あまりに度が過ぎてるのは個別に対応してるとか。

 ちなみに、人が集まるということはそれだけ感情の動きが大きくなるということで、それに伴って大小のダンジョンも無数に発生する。


 だから、今日は配信者にとっては稼ぎ時だったりするわけなのだ。


 ほら、あちこちに個人勢みたいな人たちがちらほら。

 懐かしいなあ。

 Aフォンも持たずにやってる人を見ると、カイワレやインフェルノを思い出す。


 つい二週間くらい前なのになあ。


 ここで、同行していたトライシグナルのマネージャーさんがタブレットを取り出した。


「本社の方で発生したダンジョンをマーキングしてくれています。早速、そこの横道がダンジョン化したみたいですね。早くからお酒を飲んだ方々が巻き込まれています。お仕事開始ですよみなさーん!」


「はーい!」


 トライシグナルの三人はいいお返事をした。

 そして私を見て、次にもみじちゃんを見て……そこで初めてハッとした。


「あれ……? 新人さん……? かわいい」


「はひっ、し、新人です! まだデビュー前なのであまり映らないようにしないとですけど……」


 なるほどーと頷く三人。

 アカデミー時代を思い出したのかも知れない。


「よし、それじゃあ行こうかはづきちゃん、新人ちゃん! 今夜は忙しくなるよ。体力を温存しながら行こうね!」


「カンナちゃんは頼りになるなあ。まさにリーダーって感じがする……」


「アメリカで配信者たちを率いてリーダーって呼ばれてた人が何か言ってますねえ」


「私はリーダーの器ではないので……」


 カンナちゃんと肘で小突き合っていると、水無月さんと卯月さんが私たちの背中を押し始めた。


「はいはい。二人ともイチャイチャしてないで! 行くよ行くよ!」


「新人ちゃんは後ろついてきてね。配信はほんと、場馴れが大事だから!」


「はっ、はひっ!」


 ハロウィンダンジョン配信スタートなのだ。


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