第86話 国際的ダンジョンアタック伝説

「ちなみに国家間の人間のやり取りは、現在基本的に行われていないが」


 タクシーで空港に戻る道すがら、兄がなんか喋り始めた。


「これは飛行機が上空でダンジョン化する事件が相次いだためだ。故に、飛行時間が一定を超えるフライトは禁止されている。船も同様。極限までオートメーション化され、乗せられる人員の数には限りがある」


「それは現代史で習ったなあ……」


 そうそう。

 昔は遠い海外に普通の人たちが観光に行ったりしてたらしいんだよね。

 想像ができない世界だ。


 今の飛行機は国内線が主で、海外もアジア圏だけまでしか飛ばない。

 アメリカやヨーロッパまで飛行機を飛ばそうと思ったら、厳重に結界を張った専用のものを用意しなくちゃいけない。

 コストがすっごいらしい。


「それはそうと、私も海外行きたいなあ」


「いかん、いかんぞ。海外は危険に満ちている。年頃の娘が行くものではない」


 兄がかなり真剣に止めてきた。


「重度のシスコン……!! これさえなければ完璧超人なのにねえ。でもそういうところも好き」


 受付さんがニヤニヤしている。

 兄が狙われている……!


 メイユーはふんふん、と兄の話を聞いており、


「結界化した飛行機は次々に開発されてるわね。私が乗ってきたものもその一つのはずだったのだけど。シン・シリーズの息が掛かった強力なデーモンが忍び込んでいたみたい。それとも……内通者がいたかね」


 そう言いながら、指先はAフォンの画面をフリックしている。

 何か報告してる?


「内通者だった場合、国の威信に関わるわ。厳重に調査するって」


 中国の配信者は、日本よりも国との繋がりが強いっぽい。

 仕事環境が厳しそう……!


 私、自由にやってるからなあ。

 そして空港に到着だ。


 たくさんのリムジンバスやタクシーが、逃げていくところだった。

 今も空港の中には沢山の人が取り残されているらしい。


「はいはい、じゃあ変身用の暗幕張りまーす」


 受付さんがカバンから変なものを持ち出してきた。

 変わった形のAフォン?


 二周りくらい大きくて、あちこちにアンテナが突き出したそれがヒューンと飛び上がる。


「新作なんですって。試供品をもらいましたからねー。えーと、これでスイッチオン」


 変なAフォンが飛び上がり、私とメイユーの周りをぐるりと回る。

 そうしたら、周囲にいきなり真っ黒なカーテンが出現した。


 私たちの姿は完全に隠れてしまったんじゃないだろうか。


「はっ、ここで変身してから配信しろってことかあ!」


「そうみたいね。お互い、時差はそこまで大きくないから常識的な時間の配信になりそうね」


 メイユーもニヤリと笑った。

 私と彼女で、バーチャライズする。


 メイユーは中華っぽい服装になるのかなと思ったら……。

 なんか機械っぽいバイザーに耳から頭の半分まである狐耳みたいなユニット、露出度高いのにメタリックな服装、腕と足が妙にメカメカしくて尖ってる……という凄い姿になった。


「あひー、サイバーパンク!」


「!? ハヅキ、正気!?」


 彼女も彼女で、私のジャージ姿に目を剥いたようだ。


「信じられない重装備……」


「信じられない軽装備……。動画ではチェックしていたけど、現実に見てみるとありえないくらい普段着ね……」


 そ、そうだろうか。


 そんなこんなで配信スタート。


「お前ら、こんきらー! 新人とはそろそろ言えない配信者きら星はづきでーす!」


※『こんきらー!』『何年経っても新人を自称する配信者がいるのに』『はづきっちはそういうところ真面目だよね』


 わいわいと賑やかにチャットが流れていく。

 メイユーも配信を始めたみたいで、中国語のチャットがたくさん流れていた。


 あ、なんか私に反応してるっぽい!?

 日本語のあひー、がたくさん流れていった。


※『国際的コラボじゃん!』『向こうの俺らもあひってて草』


 海の向こうに知られているのは不思議な気分過ぎる……。


「初めまして。鉄爪機甲メイユー。みんな知ってる?」


※『中国のサイバー勢じゃん!』『メイユーだ!』『戦闘がすげえかっこいいんだよな』『日本がファンタジー寄りで、中国はサイバーパンク寄りなんだよな』


「詳しい! んほー、集合知~」


※『んほーやめろw』『国際的な場でんほるなw』


 突っ込まれてしまった。

 私の発言はAフォンを介してリアルタイム翻訳されてるみたいで、メイユーの配信画面にもコメントがウワーッと流れる。

 

※『哈哈哈哈哈哈哈哈哈』『笑死我了』『んほー是罕见的』


※『はづきっちのんほーがレアだって知ってる奴までいるぞ』


 こうして私たちはワイワイと騒ぎながらカーテンを解き、空港へ。


「あ、はづきっちじゃん!!」


「あのサイバー女は誰だ!? えっち!」


「メイユーだ! 中国のすげえ配信者!」


「ちょこんと立ってるはづきっちとスラリとしたメイユー、水と油のような二人がコラボ……!?」


「世界観が崩れる……!」


 なんか詳しい人が多いなこの空港!


 扉は不思議な力で封印されていた。


「破るわよ、ハヅキ!」


「あ、は、はい! ゴボウー」


 私が取り出したゴボウを見て、メイユーが唖然とした。


「ほ……本当にただの野菜なのね……。バーチャライズでそう見せているだけの最新武器かと思っていたのだけれど」


「はっ、野菜です。使った後は食べます」


「それはとても偉いことだわ」


 褒められてしまった。

 メイユーは腕の装置がカシャカシャと展開し、なんか両腕バルカンみたいな感じになる。

 んほー! かっこいいー!


 横でゴボウ振りかぶってる私がなんか訳の分からない人みたいじゃないですかー。


※『並び立つ絵面の破壊力よ』たこやき『すっごいシナジーが生まれちゃったな』おこのみ『サイバーなのになんでへそ出しなんです? ハァハァ、えっち……』


「おこのみ、センシティブな発言やめてくださーい!」


 私は叫びながら、ゴボウを振り下ろした。

 同時に、メイユーもバルカンを連射する。


 たくさんの弾丸と、ペチッと当てられたゴボウの力で、封印された扉が砕け散った。

 その奥には……ただでさえ広い空港が、ダンジョン化してもっと広くなってしまっている。


「あひー、これを踏破するの? 私、迷いそう……」


「ダンジョンってそもそも迷宮だものね。だけど大丈夫でしょ。デーモンの目的はトップクラス配信者の私と、シン・シリーズを屠った貴女。一挙に倒しておきたいのでしょ。……舐められたものだわ」


 メイユーが怖い顔で笑った。

 ひい。


※『はづきっち怯えてて草』『お前も同レベルに凄いんだぞ』いももち『二人でかっこよく突入してください! スクショします!!』


 なんかそんな提案があったので、私もメイユーも乗ることにした。

 二人で揃って、ダンジョンの中へと一歩踏み出す。


 そうしたら、お互いのコメント欄がうわーっと流れつつ。


※『スクショスクショ』『絵になるわ!』『いや、メイユーは堂々と踏み入れてるけど、はづきっちだけそーっと踏み入れてる感じじゃね?』『抜き足差し足忍び足ってか』『扉割ってるんだから気付かれてるよw』


 う、うるさーい!?

 思わずやっちゃうんだってば!


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