第180話 たまたまダンジョン、途中下車伝説
ぶらり途中下車!
所用で出掛けていた私とシカコ氏……仕事時はもみじちゃん……は、とある用事で途中下車したのだった。
それは……。
「あひー、危ないところだった!」
「先輩、出かける前に水分取りすぎなんじゃないですか?」
「だってー。ビクトリアがせっかくお手製のフレッシュレモネードを作ってくれたので……ついつい飲みすぎて……」
「取っとけばいいのに。ビクトリアが嬉しそうだからどんどん飲んじゃったでしょ」
「あひ、面目ない」
ということで。
私のトイレのために途中下車したのだった。
電車は行ってしまったよ。
本日は休日運転のため、この駅には快速が止まらない。
行こうと思えば別の路線で行けるけど、せっかくだから散策していくことを私が提案した。
人混みがほどほどだったからだ。
こうして、私ともみじちゃんでぶらぶらと町を歩く。
アーケード商店街が有名な町で、私が生まれてない時代からある店なみなのにどこか懐かしい……。
ニヨニヨしながら歩いていたら、あちこちから美味しそうな匂いがする。
「あ、あ、体が勝手に引き寄せられる……」
「んもー! 先輩!」
仕方ないなあーとついてくるもみじちゃんはいい後輩なのだ。
同い年だけど。
今回は彼女に気を遣い、あまり買い食いはしないことにした。
もみじちゃんは少食なのだ。
私はジャンボなフランクフルトとポテトだけにしておいた。
もみじちゃんは肉まん一個。
二人で店の軒先の席に座り、くっついて風よけしながら食べていると……。
通りの向こうでなんだか騒がしくなる。
「だ、ダンジョンだー!! ダンジョンが発生したぞー!」「ファミレスがダンジョンになった!!」
な、な、なんですとー!!
私はちょっと本気になった。
フランクフルトを前歯でががががががっと切断しながら口の中に放り込み、もぐもぐ噛んでからごくっと飲む。
ポテトは何本も一気に食べて、あっという間に空っぽだ。
もみじちゃんも「はひー」と言いながら肉まんを食べきった。
お茶を飲んで一息。
「じゃ、配信しよっか!」
「はい、先輩! さすがの切り替え!」
「ダンジョンあるとみんな困るし、今日は休日だもん。早く解決しないとね!」
彼女を連れて、私はダンジョンまで小走りで急いだ。
人混みに紛れて……。
「バーチャライズ!」
きら星はづきに変わる。
私が変身すると同時に、配信が始まった。
Aフォンが気を利かせて、自動でツブヤキックスにゲリラ配信開始のツブヤキを投稿する。
あっという間にリスナーさんが増えてきた。
休日のお昼だもんねえ。
※『なんだなんだ!?』『いきなり走ってるところから始まった!』『うおお画面が揺れる揺れる』『酔う酔う』『ホットスタート新しいなあ!』
挨拶は後で。
私ともみじちゃんを見て、みんなが道を開けてくれる。
「はづきっちだ!」「えっ!? さっきダンジョン発生したところでしょ! なんでもうはづきっちがいるの!?」「はづきっちと言えばフッ軽だからなあ」「本当にフットワーク軽いな!」
扉の前までやって来たところで、ちょっとおしゃれなドアノブを握る。
今はその扉の入り口に、悪魔っぽい顔みたいなのが描かれてせせら笑う感じになってる。
うーん、開かない。
『無駄、無駄。このダンジョンは我ら嫉妬の勢力が乗っ取っ』
「壊しますね」
『えっ、ちょ、ちょっとま』
「あちょっ」
『ウグワーッ!?』
私がバーチャルゴボウでつつくと、扉が粉々になって吹き飛んでいった。
ここで一息。
「お前ら、こんきらー! 今日もゲリラ配信です、ごめんね。でもなんかトイレに行くついでに降りた駅からダンジョン発生が見えたんで、ちょっと攻略して行きます。あ、今日はもみじちゃんも一緒で……」
「ども、ども! こっちもかいてーん! お客様がた、いらっしゃいませー! もみじパン工房、本日もやっていきますね!」
※『こんきらー! 熱い演出!』『ここからOPスタートかあ』『盛り上げてくれるなあはづきっち』『もみじちゃんもこなれてきておる』『どんどんできるようになるな』
おほほ、褒められていますわね。
ちょっと調子に乗ってしまう私なのだ。
そしてそれはそうと。
なんか見覚えのある人がテーブルの下でへたり込んでいる。
「あっ、イノ」
そこまで言ったもみじちゃんが、慌てて口を抑えた。
うんうん、身バレになっちゃうもんね。
イノッチ氏がそこにいたのだ。
ダンジョン化したファミレスはぐんぐん広がって行ってて、イノッチ氏もこのままだとどこかへ運ばれて行ってしまう。
「では行きます。確保ー」
私はずかずか入り込んでいった。
入り口付近にいたモンスターが掴みかかってくるけど……。
「あ、もみじちゃん任せるね。あちょっ」
適当にバーチャルゴボウで薙ぎ払って道を開き、攻略はもみじちゃんにお任せ!
私は人命救助優先なのだ。
というかイノッチ氏が運ばれていく前に捕まえないと。
「は、はづきっち!?」
彼女は私を見て目を白黒させている。
ご存知でしたか。
※おこのみ『さすが流行に敏いJKはご存知だよな! そう、彼女こそ!』
またおこのみが何か言ってるのだ。
私はテーブルをポーンと跳ね飛ばした。
「立てます?」
「こ、こ、腰が抜けて……」
イノッチ氏がへたり込んでいる。
「じゃあ運びますね……」
私は彼女をヒョイッと担ぎ上げた。
「ひいー!?」
※『自分より背が高い女子を片手でw』もんじゃ『同接数高いと身体能力が上がるんだ。だが、あのこなれた動きははづきっち本体もかなり体幹が鍛えられているな』『いつもはへっぽこを装っているだけってコト……!?』もんじゃ『それは素だろうなあ……』
「こらもんじゃ! フォロー途中でやめないで!」
※『草』『有識者は容赦ないなw』
こうして、イノッチ氏を担いだままでトットコとダンジョン内を駆け回る。
まだ無事な人たちは、もみじちゃんが次々に助けている。
目指すのは、広がり切っていないダンジョンの一番奥。
こうやって止まらずに進み続ければ、あっという間に到着するんだ。
肩の方からイノッチ氏の悲鳴が聞こえる気がするけど。
「ヒャー」
店の奥、ドリンクバー前にいたのは男女のデーモン。
もしかしてドリンクバーで祝杯を上げようとしてた?
『はづきっち!? なんでここに!! まだダンジョンを作ったばっかりなのに!!』『僕らの邪魔をするな!! 僕たちは愛を裏切った奴らに復讐をするんだ! レヴィアタン様の力を借りて……!!』『そうだ! 私から彼を奪ったあの女! 奪われた彼! 許せない!』
「恋愛のドロドロ!! こわぁ……。あのー、イライラするのはお腹が減ってるからですよ」
『何言ってるの!?』『話を聞いてたのか!?』
※『はづきっちが恨み言なんかちゃんと聞くわけないだろw』『NTRが産んだ悲劇かあ』『陽キャにも闇があるな……』
「じゃあ、今のうちなら助かるから倒しますね……」
※『ほら、もう結論出してきたw』『常に倒しますね、だからな……』
私はなんか叫びながら飛びかかってくるデーモンの人たちが、ジャンプしはじめのところに小走りで寄って、バーチャルゴボウでポコンポコンと叩いた。
『ウグワーッ!! 力が、力が抜ける~!!』『あの御方から授かった力が失われていく~!!』
あっという間に、二人は普通の女の子と男の人になってしまった。
「あー」
イノッチ氏が二人を見てなんか悲しげに呻いた。
「恋愛こわあ……。あたし、しばらく恋愛はいいや……」
なんかよく分からないけど、今度美味しいものを一緒に食べていい気分になろうね……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます