第390話 大気圏突入とお弁当伝説
「えー、それではですね。ベルっちのために何か食べようと思うんですけど、アンケート機能を使うのでこれだっていうのに投票してください」
※『画面がガックンガックン揺れてるんだけどw!』『大気圏突入しながらアンケートするの!?』『もうヘルメット外してるしw』
「ほら、もう一応地球ですし! ではですねー、御覧ください」
ポチポチっと入力する。
ものすごく揺れるけど、それはそれとして私の体幹で乗り切るのだ!
1・チューブ型宇宙食のカレー
2・チューブ型宇宙食のハンバーグ
3・チューブ型宇宙食のチーズグラタン
※『微妙に悩ましい三択が出たな……』『全部チューブ型なの? もしかしてスタッフの人に用意させた?』『確かにこの揺れの中だとチューブ型になるだろうなあ』
みんなうーんと唸りながら選択していく。
もりもり投票数が増えますねー。
おこのみたちセンシティブ勢が、ガタガタ震えるロケットの中で私が色々揺れているのでわあわあ騒いでおられますが。
地球が危機になっても、危機を脱しても、ずっとぶれないのは流石だなあと思うわけです。
「おっ、物思いにふけってたら結果が出ましたねー。えー、カレー35%、ハンバーグ22%、チーズグラタン43%! じゃあチーズグラタンをお取り寄せしますね」
Aフォンを通じて、地上に用意してあった宇宙食を取り寄せる。
ベルっちは一体化してるけど、私の中でなんかムギャオーと暴れている。
これは魔王化の兆候ですわ。
私は私と戦う気はないので、素早くチューブの蓋を開けてパクっとくわえた。
おおーっ!
きちんとグラタン!!
濃厚なチーズのお味!
もうちょっと温めてたらもっと美味しかったかも。
スーッと、ベルっちの熱が冷めていった。
冷静になりましたねー。
※『画面がグラグラ揺れてるのに、はづきっちは粛々と食事してるの草なんだ』『大気圏突入が怖くないのかw』
「最近見るアニメとかラノベだと、まあまあ大気圏突入成功してるのでそんなに怖くないですねー」
※『現実を見るんだw!』『でもまあ、はづきっちは乗ってるだけだし、後はロケット任せだもんなあ』『どうしようもないかあ』
なお、Aフォン伝いに分かる南くろすさんの配信では、私のプリンセス・トゥインクルスター号が同接パワーを浴び、大気圏用のヨットみたいな底面を展開させつつあるみたい。
アバター技術で作られたロケットだから、色々な機能が畳み込まれてるのね。
※ケイト『同接パワー!! 実験では一千万以上の同接がないと動かなかった機能だけど、問題なく起動してる! さっすがグランマ! あっ、同接五千万……あっはい』
コメントに混じってケイトさんがいるな……。
グランマ発言にはお前らは気付かなかったみたい。
女子高生をグランマと呼ばせるわけには行かんよ!
あっ、グラタン飲み終わりました。
濃厚なスープなのね。
カロリーもなかなかお高い味だった。
まずまずの満足感!
「ごちそうさまでした! 私の中のベルっちが、デザートを所望するくらいには我を取り戻しています」
※『それは良かったw』『地球の危機は去ったのだった』『ついでにチューブ食を味わえて、はづきっちは一挙両得ってこと……!?』
「そうそう! ベルっちを落ち着かせて、私は珍しいご飯を食べられて! いやあ美味しかったですー。それにしても、ロケットの中だけだと絵面が地味ですよねえ。モニターもなんか真っ赤だし。これ窓が開いたり? しない? 強度優先で組んだからそういうのがないのかあ」
一体化したパーツみたい。
手を伸ばすと壁に届くくらい狭いけど、外側とは分厚い壁なんかで区切られてるしね。
「着水までどれくらいかかるんです? え? 一時間かかる? 案外掛かるなあ……。安全な着地には時間が必要みたいです」
※『おい、今はづきっちがリアルタイムで南くろすの配信に質問投げてたぞw』『タフ過ぎるのよw』『即座に返答するくろすちゃんも凄いな……』
仲良くなっててよかった、ロケット解説系配信者!
大気圏突入時、ロケットがぶつかる空気の壁はもの凄いことになるので、この熱を分散し、なおかつ落下速度が加速しすぎないように逆噴射したりしながら慎重に降りていくとか。
それで時間が掛かるんですねえ。
ロケットは、地球の表面をつるりと滑るように移動してるみたい。
揺れも収まってきた。
※ケイト『揺れが収まるはずないんだけど!? あっ! セイルが異常な大きさに展開してる! これで空気の中を滑るように下っていってるのね……!』『新しい有識者がいるぞ』『詳しいな』『開発者じゃね?』
鋭い。
開発陣も予想していなかった、降下用機能のパワーアップにより……。
優雅な感じで大気圏を下っていくのです。
浅い角度で、ゆっくりゆっくり地表に近づいていく。
そして逆噴射の不要なタイミングになったらしく、そこでロケットががくんと動いた。
「おっおっ、なんですかなんですか」
※『パラシュートが開いた!』『アバターが畳まれていって、小さいコクピットだけになったぞ』『こんなふうになってるんだなあ……』『最新のロケットはすげえなあ』
なるほど、ロケット自体がアバターだから、噴射が不要になったら最小規模まで畳めるんだ。
壁を覆っていたアバター部分が消えて、窓みたいになった。
ようやく外が見える!
一面の、街!!
街!!
海ではなーい!?
※ケイト『アーッ!! 予想外の場所に落ちてる! 計算よりもずっとゆっくり下ったから! グランマー! なんとか郊外まで移動させてー!』『グランマ?』『そんな無茶な』『いや、はづきっちならやりそうだ』
「やりましょうやりましょう」
そういうことになった。
私はベルトをほどいて立ち上がり、ロケットの扉を「よいしょー!」とこじ開けた。
あっ、壊れた!
でも仕方ない。
落下速度が早くて、パラシュートはあまり機能してないっぽい?
このまま街に落ちるとクレーターですねえ。
私はAフォンからパラソルを取り出した。
「それじゃあこれでゆっくり降りましょう! あちょー!」
※『うおおおアメリカ決戦の時のパラソル!!』『ここで出るかあ!』『あの大きさだと無理でしょ』『普通のパラソルならね……!』『でも私たちの応援があれば!』『頑張れはづきっちー!!』
同接の応援を受けて、パラソルがぐぐんと広がります!
そして私から分離したベルっちが、ロケットを横に押し始める。
『栄養補給して食休みもして、元気になったよ! じゃあ郊外まで押しまーす』
「よろりー」
ゆるい感じで、私たちの共同作業が始まった。
巨大化したパラソルで一気に降下速度を落としたロケットは、ベルっちに押されて斜め下方へ向かっていく。
どんどん地上が近づき……。
ちょうど街が途切れた辺りに、ポトンと落っこちた。
「あひー」
衝撃で吹っ飛ぶ私。
だけど、大きなパラソルでふわふわ降りた。
※『最後まで何が起こるか分からない配信だった』『地上に戻るまでが配信だな……w!』『はづきっちお疲れ!』『どこに降りたんだろう』『あ、そこ……。タイのパッタヤー郊外だ!』
海沿いですねえ。
落下地点、惜しかった!
さて、問題はどうやって帰るかなんですが……。
※Diz『はづきちゃんお困りのようですね。だいず、動きます』『だいきちやん!
』『だいきちもようみとる』『だいきちがはづきっちの救助に向かうんですか!?』
ライブダンジョンのゼロナンバー、ジオシーカーの達人Dizさんだ!
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