第97話 駅前ダンジョン伝説
まさか始業式の日にダンジョンが発生するとは!
まあ、毎日どこかでダンジョンが生まれてるわけなんだけど……。
ついさっきフードファイターな人にスカウトされたと思ったら、次はダンジョン!
私の毎日は忙しいなあ!
「ということでー、ダンジョンを攻略します! えっと、ここは駅の周りのこの辺りにあるビルで……」
地図で場所を説明する。
これをやると、ダンジョンから解放されたビルが聖地みたいになるので、しばらくお客さんがやってくるようになって復興の助けになるのだ。
うちの会社にもちょっとお金が入るんだって。
兄が考えたやり方だ。
頭がいい。
※『あれ、はづきっち! 口元』『カレーついてる』『カレー食ってたんか』
「えっ、ほんと!? うわー! ごめんなさい! マトンカレーとダルカレーとナン二枚美味しかったです! あとチキンティッカも頼んで」
※『めっちゃ食いおるw』『女子高生の胃袋は無限だ』
「お前らのスパチャのお陰です、ありがとうございます。でもお母さんの夕ご飯を食べないといけないから、ダンジョンで頑張ってお腹を減らしていきます」
口元をティッシュで拭って、ポケットにしまった。
※『ゴミはちゃんと持ち帰る』『えらい』『最近の子はえらい』
親目線~!
なのに、昼間から突発配信についてこれるとは、何をしているんだお前ら。
平日休みの仕事……?
※『はづきっち、前、前~!』
「ひょ?」
前を見たら、物凄い勢いで大きなモンスターが飛びかかってくるところだった。
なんか、手足が異常に伸びてて鉤爪になってる女の人みたいなの。
「あひー!」
私はびっくりして、ぴょんと飛び上がった。
すると手にしたゴボウがちょうど女の人に当たるところに持ち上がり……。
『ウグワーッ!?』
勝手にゴボウに当たった女の人が粉々の光になって消えてしまった。
※『直立不動でジャンプして倒したぞ』『なんという舐めプ』『今膝の力だけでかなり高くジャンプしたな』『謎の身体能力』
「いやいや、偶然ですってば……。あー、油断したらだめだなあ……。あっ、美味しそうな匂いがする……」
※『言ったそばからふらふらと近くの店に入っていった!』『コーヒーチェーン店がダンジョンに巻き込まれたんだな』
中には沢山の人が避難していて、私がふらふら入ってきたらみんな悲鳴をあげた。
でも、すぐに私だと気づいたみたいだ。
「女の子が入ってきたぞ!」
「外は危ないわよ! 中で配信者の人が来るのを待つの!」
年配の人たちは私のことを知らないみたいで、まあ私の知名度なんてこんなもんだよね、とちょっとホッとする。
だがしかし!
「ご存知ないのですか!? 彼女こそ今や世界に名を轟かせる、ゴボウ一本からスターへの道を駆け上がったシンデレラガール! 新世代スーパーヒロイン、きら星はづきですぞ!!」
なんか知ったような語り口がまくしたてられた!
ざわつく店内。
若い人も結構いて、みんな「ほ、本物だ!」「はづきっちだ!」「はづきっちが入ってきた!」と盛り上がる。
戸惑う年配の人たち。
盛り上がる若い人たち。
うーん、このグラデーション!
私はと言うと、美味しそうな匂いにつられてきたとはとても言えず。
「助けに来ました」
※『抜かしおるwww』『カレー食った後でまた食欲に釣られる女』『彼女に何か甘いものをあげてください』
コメント欄を店長さんらしき方が見て、頷いた。
うやうやしく差し出されてくる、テイクアウトのコーラフロート。
「あ、ありがとうございます。じゃあちょっぱやで片付けてきます……!」
私はペコペコ頭を下げてコーラフロートを受け取り、外に出た。
そうしたら、今まさに喫茶店めがけてやって来ようとするモンスターたちが!
というか、人間の服を着たモンスターが多いかも。
これは人がダンジョンで変化したのかな?
世の中に強い怒りを持っているとか、不満を持っている人は生霊とかデーモンにされやすいらしい。
で、怒りの深さとか恨みの強さが深いほど強くて、浅いとただのモンスターになっちゃう……とか?
「ま、いいや」
※『何か難しいことを考えてたな』『おっ、雑に振り回すゴボウでモンスターが溶ける』
『ウグワーッ!!』
『夏休み永遠に続けウグワーッ!!』
あっ、何人かはモンスター化が甘かったみたいで、人間に戻った!
社会への不満がめちゃくちゃ浅かったらしい。
Aフォンがすぐに彼らにモザイクを掛ける。
プライバシーもこれで守られるね。
※『そっか、発生したてのダンジョンなら、モンスター化した人でも助かることがあるのか!』『発生した瞬間にはづきっちが突入したからなw』
「たまたま駅前にいたんで……」
ダンジョン化したばかりなら、まだまだ屋内にある施設も動いている。
占いマシーンでちょっと占ってみたり、チケットショップを覗いたりしつつ、私は探索を進めた。
※『広がりきってないダンジョンって、普通に雑居ビルの一階なのな』『全然狭い』もんじゃ『ダンジョン化した施設はモンスターを生み出す。実はモンスター自体が特異点となっており、彼らがダンジョンを拡大するためのコアとなっていると言われている。だから、発生したてのモンスターを倒すとダンジョンの拡大そのものが起こらなくなるようなのだ』『有識者~』
もんじゃ詳しいなあ!
何者なんだ。
※もんじゃ『だが、これはあくまでダンジョン学会における仮説に過ぎなかったものだ。それが今実証されつつある……』『ほえー、はづきっちやるじゃん』『次々に新事実を明らかにしていく女』『そのうち、ダンジョン化を始めるきっかけみたいなのも暴きそうだな』『持ってるからな、うちの姫』
「そうかなあ……。私はなんとなくノリで生きているんだけど……。あ、多分あれがボスモンスターです」
ダンジョンの奥で、うずくまっている女の人がいた。
私を見つけると、目をらんらんと輝かせながらものすごく大きくなって、『憎い憎い憎い憎い憎い!』とか叫びだした。
だけど叫んだ頃にはもう私は駆け寄っているので、ゴボウでぺちぺちぺちっと叩くだけ。
『ウグワーッ!?』
消えてしまった。
※『ついに相手に何の見せ場も与えなくなった』『絶対強者過ぎるw』
「いやいや、そんなこと……。あ、なんかいた」
※『え?』『何も見えないけど……』
私はゴボウで、横を通り過ぎようとする気配をペチッと叩いた。
『ウグワーッ!? な、なぜーっ!!』
いきなり現れた、コウモリみたいなのが地面に転げ落ちた。
それがのたうち回りながら、消えていく。
『この世界の人間は弱いと聞いたのに! 話が違う! 使徒を認識できる人間がいるなんて! これは、これではまるで勇……』
「あちょっ」
『ウグワーッ』
ピチューン。
消えてしまった。
「ゴボウ一発に耐えたので結構タフでした!」
※『意味ありげなこと言ってたな!』『相変わらず聞かずにボコるはづきっちよ』もんじゃ『これは持ち帰りだな』
「じゃあそろそろ配信は終了です! お疲れ様でしたー」
配信の終わりを告げながら振り返る私。
喫茶店からは、喜びの声をあげて沢山の人が出てくるところだった。
さて、私は正体を知られないように女子トイレに駆け込んでバーチャライズを解かないと……!!
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