第434話 オーディションを計画しよう伝説

「勇者パーティ……?」


 カナンさんが訝しげな顔をして首を傾げた。

 おや、ファンタジー世界出身の方がご存じない……?


 ここは我が家の食卓。

 母と私とカナンさんで夕食を頂いているところなのだ!

 父は帰りが遅いし、ビクトリアは仕事の関係で泊まり。


「いや、勇者というものは知っている。勇気ある者だ。自ら名乗り出て、脅威に挑むものをそう呼ぶ。それくらいの単語はある」


「ほうほう。それって称号みたいな感じだよね。こっちだとね、ゲームで勇者という職業があって」


「職業!?」


「それそのものであるユーシャちゃんという配信者ともお知り合いになれたし」


「ああ、彼女は才能がある。はづきがサポートに付けば、半年で超一流になれるだろう」


「そうそう。そういうね、運命に選ばれた才能ある人を集めて魔王に対抗するチームにしよう! っていうのが勇者パーティなの」


「なるほど」


 お喋りが続いたので、ここからは食事に集中。

 無言になってもぐもぐ食べた。

 母の料理はわかりやすい。唐揚げの山とポテトサラダの山がある。

 あとはじゃがいものお味噌汁。


 カナンさんは唐揚げにギューッとレモンを絞って食べてる。

 私はマヨネーズ。

 母は色々。


 ほどよくお代わりしてお腹も膨れ、食器を片付けたところで会話続行なのだ。


「ということで、お兄ちゃんをザッコでお招きしてるんだけど」


『うむ。こんな面白そう……いや、人類の命運を賭けた企画に俺が立ち会わぬわけがない。ただ一つだけ言わせてくれ。メンバーに八咫烏を入れるのはやめろ。新しいメンバーが全員存在感を食われる』


「はーい」


 なうファンタジー時代に兄の相棒だった人。

 そこまで強烈な人なのね。


「はづきは最初の一人目は決めているのだろう? その、さっき言っていた」


「ああ、うん! もちろん! この企画を立てた時に、絶対この人は入れるって決めてたんだよね! 欠かすことができない最初の一人!」


 私はAフォンで『彼』を呼び出した。

 時差なんかなんのその。

 元気いっぱいで姿を現したのは……。


「お願いね、カイワレ!」


『オーケーリーダー! 任せてくれよ!』


 HAHAHAHAHA!と快活な笑いをあげるアメリカンなヒョロっとした若い人。

 キャプテン・カイワレ!

 私がアメリカを色欲のマリリーヌから救う戦いで、色々手助けしてもらった人なのだ!


 当時は登録者一桁とか二桁前半とかだったけど、今や十万人近いもんね。

 十万行ったんだっけ?


「えっ、ユーシャとかいう娘ではないの!?」


『いきなり見栄えしないのを連れてきたな!!』


 カナンさんと兄から突っ込まれてしまった!


「いやいや、だってさ、魔王相手に耐えきれるタフネスがまず大事でしょ。私が知る限り、魔王と戦って立っていられるの、私の他にはカイワレしかいないし」


『オー、キョウエツシゴク! とても高く評価してもらえて嬉しいよリーダー!』


 あっちでは、まだ一度もまともなダメージを受けたことがなく、アイアンボディ・カイワレとか、不沈艦(ボート)カイワレとか言われてるそうだもんね。

 どう見てもヒョロリとしたギークとかナードみたいな青年が、異常を超えて超常的な打たれ強さを誇る!

 理由は不明。


「これでパーティでダメージを受け止める役目は決まったから、あとは誰が入ってもいいよー。伸び盛りの配信者の人がいいけど、でもこっちが選んでもあれだから、公開オーディションにしようかと……」


『なるほど、素晴らしい企画じゃないか。その件、イカルガが噛もう。他の配信者企業にも連絡を入れ、協賛を募るとしよう』


 話が大きくなってきた。

 兄の後ろでは受付さんの声が聞こえ始めている。

 これ、もう連絡を開始したな。


「いいの? はづき。あなたが仲良くしているユーシャが、落ちてしまうかも知れないでしょ」


「本物なら絶対通ってくるから。イカルガの採用だってそうやって決めてるでしょ? 実力があるのは当然。運を味方につけてない人だとこの先大変だもん」


『僕は割とアンラッキーボーイだけどね!』


「カイワレは運をねじ伏せる頑丈さがあるからなあ」


 一点突破の凄い力があればオーケー。

 基準は私が見て凄いと思うこと!


 基本的に謙遜気味の私ですが、魔王とやり合ったところで冷静に自分のレベルを判断してですね。

 そこから見て凄いレベルを選ぶわけだ。


 この世界を守り、私の将来を守るためなので謙遜などしていられない!


 こうして、勇者パーティオーディションが開催されることになる。

 私が食後に話してから、即座に日本のあちこちに話が伝わり……。

 ついには世界を巻き込み、ほんの三日で開催日程が発表されるまでに至ったのだ!


 あひー!

 は、話の広がり方が急過ぎる!!


 だが転がり始めてしまったものは止まらない。

 開催は一週間後。

 審査員は各界の名だたる人たち。


 で、審査委員長、私。


 私!?

 本当にいいのか!?


 しかも審査委員長には、他の審査員の決定を覆す絶対的権限があるとか。

 うーむ、圧倒的権力に魂を支配される~。


 いやいや、正気になれきら星はづき。

 私が力に魅入られてどうするのだ。

 だけど、どんな人がオーディションに来てくれるのか楽しみではある!


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