第93話 終わる夏休み、足掻くはづき伝説
うおおおお!
夏休みが終わる! 終わってしまうううう。
夏休み最終日前日。
私はツブヤキックスでフォロワーに業務連絡した。
『夏休みくんが虫の息なんです!! 私はこのちょっぴり残った夏休みを楽しまなくてはいけないので、今日と明日の配信はお休みします!!』
いつもは、身勝手かな? とか、もっと謙虚にしたほうがいいかな、とかそんな気持ちが働くんだけれど。
今日はそんなことを考える余裕もない。
夏休みはあと48時間も無いのだ!!
幸い、お前らはとても懐が深い。
『はづきっち高校一年生の夏休み終わりか』『あっという間に終わっちゃうもんなあ』『存分に楽しんで来て!』『報告できてえらい』
親目線~!
中には、『俺もこれから宿題! はづきっち一緒にがんばろ!』とか『陰の者としては最終日だからこそ家でクーラーきかせて動画見て過ごしたい……』などなどがあった。
うんうん。
私は宿題を一瞬で終わらせてあるし、夏休みの後半は陽の者に擬態して活動することに決めているのだよ……!!
ということで!
「まだ今年の夏はそうめんを食べてなかった!」
大変なことに気づいた私は、まずそうめんを茹でることにしたのだった。
「あなたずっと配信で忙しくて、お昼はいなかったものねえ。それから冷やし中華大好きでしょ? 家にいる時はずーっと冷やし中華だったわね」
「言われてみればそうでした」
母の言葉に納得する私。
だが、それはそうとそうめんを食べたい。
「今日のお昼は私が作るから!」
「あら本当!? ありがとう! 楽しみだわー」
こうして、マイバッグをぶら下げてスーパーに自転車を走らせる私なのだった。
中級、上級、特級、ブランドもの。
そうめんはランクが上がるとめちゃくちゃ味が良くなる。
やはり記念にはブランドものを……。
私は緊張に震える手で、そうめんを掴んだ。
上級を。
「くう、貧乏性……」
お金はあるが、高いものを買おうと思うと躊躇してしまうのだ!
配信中はそうでもないのに。
リアルな私は小市民。
そうめんと具材を買って外に出ると、近くの家電量販店で夏の電化製品売りつくしみたいなセールをしてた。
あ、わ、私の等身大POPがある……!
エアコンフェアかあ……!
覚えがあり過ぎる。
兄がバリバリと企業コラボ案件を受注してるみたいなのだ。
私にもちゃんと連絡は来るし、合間を縫って素材を撮影したりしてるんだけど……。
こうして実物を見ると気恥ずかしい……。
ジャージ姿の女がエアコンを地面において仁王立ちしているPOP……。
どこにニーズがあるんだ。
「あっ、はづきっちだ!」
「等身大POP超かわいくない?」
「かーわーいーいー!」
なんか陽の者オーラを放つ女子高生グループが通りかかり、私の等身大POPと一緒に自撮りを始めてしまった。
ニ、ニーズがある!!
はー、世の中の流行りは分かりませんわ……。
女子高生たちが立ち去った後、私も一応自分とPOPで自撮りしてから帰った。
後で加工してアップしよう……。
さて、帰宅したら既に茹でるためのお湯が沸いており、バッチリな環境が整っていた。
「仕事の気晴らしに準備しちゃった。あなたが道草しながら帰ってくる時間を逆算たけどバッチリだったわね」
「私の行動が読まれてる……! でもありがたいー」
さっと手洗いなどをして、お料理に取り掛かった。
そうめんを、茹でる!!
お野菜と卵焼きを細かく切る!
私のそうめんは、基本的に冷やし中華と具材が一緒なのだ。
ハム、きゅうり、玉子焼き、これだけは冷やし中華に使わないネギ。
完璧じゃないか……。
山盛りのそうめんが完成した。
母と二人で、お昼のバラエティなどを垂れ流しながらひたすら食べる。
美味しい美味しい。
どんどん入る。
母が4割、私が6割食べた。
親戚からもよく食べる親子と言われています。
ご飯を食べたら眠くなったので、ソファにもたれてぐうぐうと寝た。
後片付けは母にやってもらってしまったので大変申し訳無い。
夕飯の後片付けはやるから……。
むにゃむにゃ。
目覚めたら午後三時である。
「あひー」と私は発した。
「い、い、一日が終わる、終わってしまうぅ」
そうめん買いに行って、等身大POPと自撮りして、そうめん食べて昼寝しただけ!!
貴重な最後の二日間が!
「恐ろしい恐ろしい……。時間が一瞬で溶けていく……。夏休みは儚い……」
震えながら、自撮りを加工してアバターを被せ、きら星はづきにしてツブヤキックスに流した。
ワーッとコメントが集まってくる。
※『ダブルはづきっちじゃん!』『私もPOP撮りにいこ!』『うちの電気店でも見つけたよー!!』
みんなに話題を提供できたみたいだ。
よしよし。
コメントを確認していいねを押していたら、気づくと午後四時半である。
「あひー」と私は発した。
「い、いち、一日が終わる、終わるところだ!」
外からはひぐらしの鳴き声も聞こえてきて、夏の終わりを感じさせてくれる。
これでまた焦るんだ。
「そ、外に出なくちゃ」
「ランニング? もう少し日が傾いてからの方がいいわよ」
「あ、それもそうか」
母に言われて納得し、仕事をする母の横でスマホをポチポチした。
そろそろ夕方だろう。
午後五時半。
「あひー、一日が終わるぅ」
「そうやって一日が終わる終わるって嘆いているから、時間が経つのが早く感じられるのよ? もっとどーんと構えてたほうがいいわ。案外時間がゆっくり過ぎるかも」
「な、なるほど……」
母の含蓄ある言葉に、私はふんふん頷いたのだった。
そして、やや涼しめになった頃合いで外に出る。
完全に日が落ちるまで、近所を走るのだ。
日々の元気な配信活動は、こういう体作りから始まる……。
同じ時間にランニングしてるおじさんやおばさんに挨拶され、会釈を返す。
一時間くらい近所や公園を走り回り、スポーツドリンクを買って水分補給をし、帰宅してシャワーで汗を流し、母が用意してくれた夕食を食べて、歯を磨いてまったりしていたら……。
──朝だった。
な、何が起こったのか私にも分からない。
時間が……時間が飛ばされた!?
何らかの攻撃を受けている!?
「あらおはよう。今日は早いのね。夏休み最終日でしょう? でも、あなたは宿題全部終わっているから安心よね」
い、一日経過している!
ただただ、健康的に過ごして早い時間に爆睡しただけだった!
私の夏休み、残り一日……!!
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