第92話 歌みたプレミアム配信伝説

 やべえよやべえよ……!

 私は焦っていた。

 風雷ラジオが終わって、そこに表示された無慈悲なリンク。


 私のチャンネルに、見知らぬプレミアム配信が……!!


【きら星はづきさんと視聴者のみなさんが参加しました!】


※『はづきっちようこそ!』『夏の終わりにこんな凄いのを見られるなんてなあ!』『ずっと楽しみだったー』いももち『鬼リピするね』


 やめてえー。


※きら星はづき🔧『勘弁して下さい(ヽ´ω`)』『草』『草』『草』『本人が一番聞いてなかったみたいな顔してるw』


 本当に不意打ちだったんだけど!!

 兄は別に悪気はなくて、リスナーへの最大限のサービスのつもりなんだろう。

 根が真面目でエンターティナーなんだ。


 人の心があまりわからないけど。


 さて、プレミアム配信前のカウントダウンが始まった。

 画面がぐにゃあ~っとなりながら、大変大きな待機音楽が流れるのだ。


※『クソデカ待機音』『まさかはづきっちのチャンネルでこれを聞くことになるとはなあ』『今までプレミア公開してなかったもんね』『無言で動画がアップされるからさ』


※きら星はづき🔧『あんま勿体ぶるのも良くないかなって……』『だから常に不意打ちアップw』『常に急過ぎるのよw』


 チャットでリスナーさんとお喋りしているのはちょっと楽しいなあ。

 そしてここで私、ハッと気づく。


※きら星はづき『さっきのチャンネルもまた開いて! 気は進まないけど同時視聴する』『うほー!』『了解』『まだ終わってなかったんか』『あっ、カチャカチャ音だけする配信になってる』


 私はAフォンを再び起動させた。

 アワチューブは二窓。


 私の顔が見えて、みんながワーッと歓声を書き込んできた。


「うぐぐぐぐ、自分のドヤ顔で歌ってるところを見たら死ぬかも知れないけど、やっぱりエンタメとしては同時視聴しておきたい……」


※『我が身を削って俺たちのために頑張ってくれる!』『エンターティナーやなあ』『えらい』『成長している』


 ううっ、嬉しくはない!

 いや、嬉しい!

 なんか感情がぐちゃぐちゃだ!


 そんな私の眼の前で、カウントダウンは無情に残り1秒となり……。

 ついに始まってしまった。


 ボイトレの先生が流してくれた音源に乗せて、ネットで有名な名曲、『カムイっぽいな』を歌い始める私!

 ひい!

 もじもじしながら歌ってたのが、先生からガンガン褒められて、表情が明るくなっていく!


※『うひょお』『どんどんやる気になるはづきっち可愛い!』『声も可愛いー』『声がころころしてる』


 なんだその表現!?


※『同時視聴のはづきっちがどんどん表情変わってて草』『椅子に腰掛けながらのたうち回ってる』『これと歌みた動画同時に視聴できるの最高なのよ』


 画面の中ではついにサビに差し掛かり、私が精一杯声を張り上げて歌っている。

 うわーっ、音が外れてる!

 ひい、なんか頬を赤くして一生懸命歌ってる!


 恥ずかしい恥ずかしい!!


※『かわいい』『かわいい』『なんかホッとする歌声だよな』たこやき『はづきっちの魅力である身近さが存分に感じられる』いももち『良き配信です……』


 みんな褒めてくれるが、見ている私は堪ったものではないのだ。

 この間見返した時は、直視できずにのたうち回れた!


 だけど今回は同時視聴配信なので、逃げることが許されない!


「ひいー、生き地獄」


※『草』『難しい言葉知ってるなw』『これはよい苦しみ』『はづきっちの苦しみで飯がうまい』


 鬼ー!

 いや、自分で選んだ配信なのだ。

 つまり、お前らを鬼に変えたのは私……!


 およそ4分間の動画の間、私は十回くらい死にたくなった。

 24秒に一回のペースは史上最多かも知れない!


 終わった後、私は背もたれに体を預けて、白目を剥いていた。


※『はづきっちの魂が抜けておられるぞー!』『苦痛に耐えてよく頑張ったなあ』『感動した』『こんな見ごたえのある同時視聴なかなかないわw』『人間の喜怒哀楽のうち、怒りと哀しみとあひーが詰まってた』


 リスナーは大満足らしい……。

 よかった……よかった……。


「わ、私はもうだめだあ……」


 しかもこれ、アーカイブで残るんでしょ?

 け、消したーい!!

 だけどめっちゃ喜ばれてる!


※風花雷火『ブラボー! 素晴らしい歌みたでした。今度はPVを作って本格的にやりませんか?』


 げえ、風花委員長!!


※美玉(メイユー)『这太棒了(素晴らしかった)! 这是一首好歌,是你的典型(あなたらしい、いい歌だったわ)』


 メイユーまでいる!

 めっちゃ褒めてくれているのは分かる。

 そ、そんなに言ってくれるなら、残しちゃおうかな……。


※『ニヤニヤし始めた』『本当に褒められるとチョロい』『自己肯定感もっと高めろw』


「いや、私はかなり前向きになれた方だとは思うので……! これからも生暖かい目でゆっくり見守ってもらえると……!」


※『言われてみれば確かに』『陰キャから明るい陰キャになりつつある』『リアルタイムではづきっちの成長を見守れる良コンテンツ』


 お前らのほとんどは、私より年上の大人ばかりだもんなあ。

 兄、姉、親目線を感じる……。


※『私は中学生なんですけど、はづきちゃん凄いって思います!』『俺、はづきのこと好きだよ!』


 あっ、明らかに私より若い人のコメント!!


「ありがとうねえ~」


※『はづきっちが姉目線に立ったぞ』『レアだ!』『いや、なんか口調とかおばあちゃんっぽいな……』


 そんなやり取りをしつつ、初の歌ってみた動画のプレミアム配信は終わったのだった。

 スパチャがめちゃくちゃもらえてしまった。

 お前ら、どこからそんなにお金出てくるの……!?


 というか私の素人丸出しな歌にどうしてそんなにスパチャが……!!


 わからん。


 わからないものは、わからないままにしておくのが私だ。

 寝て起きたら全く気にならなくなっていた。


 それよりも問題は……。

 あと二日で夏休みが終わってしまうことなのだった。


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