第500話 コンサート後の諸々伝説
二時間くらいの休憩とリハーサルを挟んで、夜の部がスタートした。
こっちは分かりやすい歌番組っぽい作りですねー。
全員で組んだりソロだったりで、入れ代わり立ち代わり。
二時間たっぷり歌った。
で、アンコールでなんか歌って終わり!
いやあ、充実のクリスマスでしたねー。
コメント欄も終始大盛りあがり。
スパチャも凄い額が来たのではないか。
「お前が稼ぐ案件の金額に比べれば全然可愛いがな。全世界で売れるから笑うしか無い額になる。だが、これもリスナーの気持ちだ。無駄なく使わせてもらおう」
兄がやって来てそんなことを言うのだ。
「何に使うの?」
「イカルガを象徴する共通の歌がなかっただろう? あれをお前の引退までに作る。そして引退でお披露目する」
「ほえー、印象的~! やっぱり商売上手いなー」
「始めた頃は手探りだったが、今は先人に教えを請いながらどんどん先に突き進んでいるぞ」
兄が先人の教えを!
ああいや、人が見てないところで努力するタイプだった。
ガン=カタとか、子供の頃からやってたもんね。
「さてさて、私は自宅に帰る……」
「ああ、お疲れ」
気を付けてな、とは言わない兄だった。
「魔王を倒した女に何かできる存在がいると思うか? いないぞ」なんだそうで失敬なー。
ちなみに駅に向かう帰り、後ろから駆け寄ってくるのがいて私にドンッと当たったんだけど、何か尖ったものが背中のあたりでくにゃんと曲がって持ってる人の手に刺さったようで。
「ウグワーッ!!」
「あっ、女の人が手から血を流して苦しんでいる!」
私は驚愕したのだった。
「何があったのかな?」
『うしろからはづきの事を刺そうとしたんじゃない? 最後のアンチかも知れない』
「アンチは大体養分にしたもんねー」
『ナイフ一本で何ができるの、アホくさって無視してたら自爆しててアホくさ』
ベルっちの物言いが辛辣~!
私は彼女に声を掛けた。
「あの、大丈夫じゃないと思いますけど大丈夫ですか? ってかなんで変身前の私を知ってるのか」
「ひい、化け物!」
「いやいや、通り魔やった人が化け物って」
すぐに警察の人が駆けつけてきて、交番に行くことに!
で、ちょっと照合したら、上の方から連絡が来て、電話口でも分かるくらいわあわあ言われてた。
警察の人たちの顔色が変わった。
私に敬礼して、「お疲れ様です!!」とかビシッとやってくる。
ば、バレたのでは!!
ちなみに通り魔の女の人は、なんやかんやあって私のアンチになったけど、周りのアンチ仲間は次々ダンジョンのデーモンになって消滅し、怖くなってスマホから離れてたらしい。
だけどちょっといいなと思った男性が私の熱狂的なファンだったので、アンチパワーが蘇ってクリスマスに強行に及んだと!
こんなおめでたい日に!
アホなことしてないでチキンを食べなさい。
こうして私は自由になるのだった。
いやあ、世の中色々な人がいますねー。
彼女が私の素顔を知ってたのは、好きな人がイカルガの社員だったからで。
で、その社員さんが私と話してるときに、はづきっち、と呼んだから分かったとか。
ストーカーじゃないですかー。
「ベルっち、これはあれだね。プライバシーを守るために式神防衛網を作っておいた方がいいね」
『そりゃそうでしょ。救世主ってことはそれだけ敵も多いんだし、人間でも変な逆恨みしてる人絶対多いから』
「そっかあー。世の中ままなりませんねえ。むにゃむにゃ……せつ!」
電車の待ち時間に、呪文を唱えて空を切った。
隣にいたお兄さんが不思議そうな顔で見てたけど、すぐに正面に向き直った。
なんかぶつぶつ言ってる。
『やっべ、ちょう可愛いって言ってる。はづき、口説かれるかもよー』
「あひー、そ、それは勘弁~!」
アンチよりも恐ろしい敵、陽キャだ!
私は気配を必死に消した。
なお、私の周囲には見えない式神がぶんぶんと飛び回っている。
とりあえず88体生み出したよ。
「いやあ、しかし魔王をやっつけたけど、なかなか解決しないもんですね」
『そんなの、人類が人類である間は絶対解決しないでしょ。外側から来た超でかい脅威をやっつけただけだし。あの凄い量の同接も、地球側から参加しなかったのが何億かいたらしいし』
「人の心は一つになれない~」
『お約束~』
二人でそんなオリジナルソングを心の中で歌いつつ、私は家まで運ばれていくことに……。
「ねえねえ君、クリスマス一人なんだ? 彼氏と別れた?」
「あひ~」
陽キャを忘れてた!!
恐るべき敵!
敵意が全く無いので式神で弾けないのが恐ろしいところですねー。
私は今、最大の危機的状況に陥っている!
電車の中!
割と混んでる!前に座席、左に人、後ろに人、右に陽キャ!
たすけて~。
『人類の救世主が陽キャに話しかけられて絶体絶命になってる。ウケる』
「ウケるなー!?」
結果的に、私はカンナちゃんラブである事を盾にし、その場を切り抜けることに成功した。
「そっか……。女の子同士仲がいいのはいいことだよな……」
理解ある陽キャで良かったー!
『こうね、世界には絶対分かり会えないお互いをモンスターと思ってる人間もいれば、陽キャだけど話が通じる人もいるわけよ。ってかはづき、陽キャをモンスター扱いし過ぎ』
「ベルっちは私の分身のはずなのに妙に冷静だな……。やはり自意識を持った魔王……!」
『まあまあな感じ、はづきの理性部分も担当してるからね』
「食欲と理性を担当されたら私に何が残ってるのよ」
『食欲と野生じゃない?』
「むきー!」
私の中で、ちびはづきがちびベルっちとポカポカ殴り合いを始めた。
おりゃー、人魔大戦争じゃー!!
駅から降りたら、ヨレヨレっとしたおじさんがなんか「ウグワーッ!」と言って倒れたりした。
『アンチアンチ。はづきのことを認識してないけど、たまたまいたアンチ』
「なるほどー。石を投げればアンチに当たる」
『人気者の宿命だねー。こりゃ、人類は当分、争いとかダンジョンとか克服できませんわ』
ダンジョンは人の悪意に反応しなくなったんじゃなかったっけ?
それともするのかしら?
そんな事を考えていたら、空から白いものがチラチラ降ってきた。
東京で珍しい!!
「ホワイトクリスマスじゃないですかー」
これは、降り積もるのがちょっと楽しみだけど、そうしたら交通機関が麻痺するなー。
私はそんな事を考えながら、家路を行くのだった。
母が用意してくれたケーキが楽しみー。
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