第197話 はづきとカンナのゴボウラブラブ入刀剣伝説

『はづきさんキレてるのだ?』


「めちゃめちゃキレてますよ!!」


 うぉっちチャンネルさんの言葉にムガーっと返す私なのだ。

 そう!

 私はとても怒っていた。


 人生で一番怒っている気がする。

 よりにもよって、カンナちゃんの晴れ舞台でなんということをするんだー!!


 うぉっちチャンネルさんの謎のパワーの手助けを受けて、嫉妬の人の世界みたいなのに飛び込んだ私。

 着地ついでに、真っ黒な海みたいなのを真っ二つに割っておいたのだ。


『ウグワーッ!! わ、私の海がー!!』


 大きいウミヘビみたいなのが、ビタンと地面に落ちる。

 ピチピチしている。


 そのとぐろの中から、カンナちゃんが這い出してきた。


「は、はづきちゃーん!!」


「うおーカンナちゃーん!! 今助けるー!! 嫉妬勢許すまじ!!」


 私は右手に二本のゴボウを上下に構え、左手にゴボウを一本。


 ゴボウツインブレードだ!

 近寄ってくる嫉妬勢のデーモンらしき人たちを、雑にぺちぺち払いながら割りと本気のダッシュで近づく。


『レヴィアタン様、ダメです!! 止まりません! やばい! 近づいただけで祓われる……ウグワーッ!!』


 大きいウミヘビが、ピチピチしながら『な、なぜだ! 対策は万全だったはず!! そもそもVRに来ないのではなかったのー!!』


『大っぴらに嫉妬をツブヤケるのは、相手が大目に見てくれているからなのだ! 調子に乗り過ぎたら自分が羨む能力を持ってる人が叩き潰しにくるとかよくあることなのだ!』


 うぉっちチャンネルさんが何か含蓄のあるコト言っているなー。

 だが私の怒りは収まらないのだ! うおおー!

 と思ってたら、コメント欄が傾いてきて私の頭にカツーンと当たった。


「あいたー!」


※『うおーいはづきっちー』『コメント見ろー』もんじゃ『怒る気持ちは分かるが、憤怒に飲み込まれてしまうぞ』『愛の怒りは強い』たこやき『色欲に加えて憤怒までコンプした? どれもこれも腹八分目で行こう』


 はっ!

 コメント欄の冷静な意見助かる。

 私の頭がスーッと冷えた。


 危うくナカバヤシさんの後継者になるところだったじゃないか。

 走る速度は落とさないまま、私はウミヘビに接近した。


『来るな! 来るなーっ!! ええい、私の能力の大海嘯が働かぬ! インターネットへと権能を広げたというのにどうして!!』


『目の付け所はなかなかシャープだったのだ! しかし、ネットと言えばきら星はづきさんがかなりの規模のミームにもなっていたのだ。彼女はVRは苦手だけど、ネットそのものは大好きなインターネットっ子だったのだ!』


『な、なにぃーっ!!』


 そうです!

 ネットがないとどう生きていけばいいか分かりません!


「うおー、カンナちゃんゴボウに掴まってー!!」


「はづきちゃん!」


 彼女の手が伸びる。

 そしてゴボウをガッチリキャッチ!


 その瞬間、私とカンナちゃんが金色の光に包まれた!

 こ、これはーっ!


※おこのみ『あ……あれは愛の光だ!!』『適当言ってるんじゃないぞw』『憤怒が来たから、色欲の光じゃね?』『アカン』『はづきっちむっつりだからなあ』おこのみ『キマシの光だ!!』『せやな』『同意だ』


 ちちち、違わい!

 私のカンナちゃんチュッチュッという思いはもっと清らかなものでですねえ……。


「はづきちゃん……」


 コメント欄への言い訳を考えている私に、カンナちゃんの声が聞こえた。

 彼女が私のすぐ横に降り立つ。


「私さ、ずっと素直じゃなかった。多分、あなたに嫉妬してたんだと思う。そんな醜い自分が嫌で……正視できなくて……だからあいつに付け込まれたんだと……」


『カンナさん! 配信されてるのだ! キャラ! キャラ!』


「わ、わたくし、自らの感情に向き合えなかったのですわー!!」


 流石プロだなあカンナちゃん。


「ですけど、もう大丈夫!! わたくしは! 自分の気持ちに素直になって、前を向いて行きますわ! どんなマイナス感情だって燃料にして、前に進んで見せます! はづきさんには負けませんわよ!!」


「うんうん! なんか色々あったけどカンナちゃん大好き!」


 その瞬間、私たちを包む金色の光が吹き上がった、

 まるで塔みたいに高く高く、VR空間を貫いていく。


※『うおおおおおおおおお』『キマシ』『見上げるほどのキマシのタワーが……!!』おこのみ『百合営業は! なんぼ! やっても! いいですからね!!』『美しい……世界にはこんな美しいものがまだあったのか……』『物理(演算)でキマシのタワーを本当にやるやつがあるか』


 コメント欄が猛烈な勢いで流れてる。

 みんな好きですなー。


 で、コメントの流れが加速するほどに、私とカンナちゃんを包む金色の光が強くなるのだ。

 こ、これはー!


※もんじゃ『我々の色欲のパワーが強まっている!!』たこやき『受け取れはづきっちー! 丼ウイングは本来は落下してくるスパチャアイコンを受け止める機能があるんだが、多分この分からんパワーも受け止められる。多分』


「お、おう!! みんなのエチチチッパワーをもらうよ!」


※『エチチチッ言うなw』『そんなところまで履修してたのか!』『恐ろしい子!』『さらにむっつりになったな!』


 ううう、うるさーい!


 私たちの眼の前では、大きなウミヘビが鎌首をもたげている。


『大海嘯が使えずとも、嫉妬の冷たい炎で凍てつかせてくれる!! さあ、絶対零度の炎をここに……!!』


 大きい見た目なのに、飛び道具ばっかりじゃない?

 私が疑問に思ったら、カンナちゃんが察してくれた。


「怖いんだと思いますわ。わたくしもそうでしたもの。嫉妬を前に進むエネルギーに変えられればいい。だけど、何もかも嫉妬に塗りつぶされてしまったら、そんな自分を直視できなくなりますもの。だから直接ではなく、何かを使って攻撃してくる!! 負けられませんわー!! 主に、自分に!!」


「な、なるほどー! 凄い迫力だあ」


「はづきさん、お手を拝借ですわ」


 カンナちゃんの手が、私の左手に添えられた。

 二人で一本のゴボウを携える形になる。

 こ、これは!


 ケーキ入刀ー!


「私は法律上まだ結婚できないんですけど!!」


「はづきさんの思考、今めちゃめちゃぶっ飛びましたわね!? そうじゃなくってですね! ええい、もうー!!」


 ヤケクソでカンナちゃんが走り出した。

 私も慌ててついていく。

 光り輝く一本のゴボウが、次々に生まれる絶対零度の炎?とか言う?なんか分からないものを雑に粉砕していく。


『うががががががががが!! め、目の前にキラキラしたものが! やめろ、近づくな! わ、私の姿が反射されて見える……!! ウグワーッ! み、醜い~!! やめろー!』


 ウミヘビの人、めっちゃ苦しんでるんだけど。

 あ、ところで右手のゴボウツインブレードが空いてました。

 私はウミヘビに接敵したので、ツインブレードを投げつけた。サクッと刺さる。


『ウグワーッ!!』


 逃げようとしていたウミヘビが、地面に縫い留められた。


 そこへついに、私とカンナちゃんのゴボウが到達する。

 黄金に輝く茶色いお野菜が、ウミヘビを真っ向から両断した。


『ウグワワワワワワーッ!! そんな! そんなあー!!』


※『スクショスクショ』『ご結婚おめでとうございます』『随分でけえケーキだったなあ』『あっ、真っ黒だったインターネッツの海が浄化されていくぞ』『白くなったな』『俺のツレが今横で光に包まれて浄化されたんだが』『現実の嫉妬勢にも攻撃が来たんかwww』


『珍しくきれいな花火だったのだ! 今回は配信を見に来てくれて、ありがとうなのだー!』


※『自我のある管理人!!』『読み上げソフトで流暢に喋る技術すげえなw』『楽しかったよー!』


 こうして、総合ロビーは一回粉々に壊されたけど、バックアップがあったそうですぐに戻った。

 イベントは大成功なのだ。


 そしてカンナちゃんの登録者が、なんかもりもりっと増えたらしい。

 良かった……!




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