第198話 年度末まったり伝説
春休み直前になった。
年度末の期末テストも普通に終わり、シカコ氏やイノッチ氏も私のテスト対策勉強会のお陰で赤点を免れたんだそうだ。
配信やレッスンが忙しくて落第なんて、目も当てられないもんね。
ということで、明日は終業式なので、終わったらお疲れ様会をすることになった。
私は本日フリー。
スマホとAフォンを持って地元をぶらぶらしてみようと思うのだ。
VR空間は、総合ロビーが復旧して今は大盛況。
次々に人が集まってきて、新しいゲームもどんどん開発されている状況らしい。
私はあんま行かないけど。
たまにログインしているたこやきやもんじゃの話だと……。
※たこやき『塔を建てようっていうクラウドファンディングが始まってるんだよね』もんじゃ『キマシの塔か……。サーバを維持する必要もあるから、かなりの経費が掛かると思うが……これもファンの愛だな』
私とカンナちゃんのケーキ入刀を祝して、しっかり真っ白に浄化されたインターネットの海から、ロビーまで伸びる塔を建造、維持しようという話なんだって。
なんだそれは……!
ちなみにカンナちゃんはしばらく、なうファンタジーで私との関係をいじられまくっている。
めちゃくちゃ話題になった彼女は、この半月くらいで十万人も登録者が増えた。
三十万人に手が届きそう……!
私と彼女のコラボキットを作っているシアワセヤさんも嬉しい誤算だったようで、デザイナーさんがザッコで、
『彼女の配信も見ていますが、これはなかなか新たな発見が多いですよ。いや、新しい魅力が次々生まれてきているといいますか……』
すっかりカンナちゃんのお茶会民になってしまったようだ。
「みんな、色々がんばっているのだなあー」
感慨にふけりながら、近くのコンビニでトンポーローまんを買った。
熱々のうちにむしゃむしゃ食べて、移動を開始。
そして配信もスタート。
私の姿はきら星はづきになる。
「こんきらー。すっかり春めいてきた感じで、肉まんシーズンも終わりというところですが」
※『こんきらー』『こんきらー』『珍しく予告配信だと思ったら、のっけから肉まん食べてるw』
「トンポーローまんですー」
二個目なのだ。
※『そこ、こだわりなんだw』『美味しそう』『もうすぐ夕食時だもんな』
「ですねー。なので今日の配信も短めです。門限とかあるし。これからですね、私のルーツに行ってみようと思います」
※『ルーツ!』『はづきっちのルーツって?』『あー、最初の配信のダンジョン!』
そうそう。
同接三人からスタートした、あのちっちゃいダンジョンのこと。
ほんの一年前のことなのに、随分昔みたいだなあ。
しみじみしながら歩いていくと、見えてきた。
取り壊し中の老朽化マンション。
「あー、今まさに無くなるところですねえ」
※『諸行無常じゃん』『ダンジョン化から解放されると、危険じゃなくなるもんな』『いわくつきになるんでしょ?』『古い上にダンジョン化したことあるって、事故物件でございってことだもんな』もんじゃ『取り壊す際は国から補助金が出るから、悪いことばかりでもないようだ』
ほー!
そうなんだ。
私はダンジョンを踏破するたびに、ダンジョンコアを一応回収している。
これが今の時代は燃料になったりするんだそうで、世の中を上手く回す資源でもあるのだ。
で、どうやらダンジョンだった場所を取り壊すと、ダンジョンコアの欠片が壁や床下から見つかることが多いらしく……。
国はこれを回収するので、家主さんとウィンウィンだったりするんだって。
なるほどなあ……。
※『そう言えば今のハイブリッド車って、電気とダンジョンコア動力だもんね』『昔はガソリン使ってたんでしょ?』『ひえー、あんな高いのを』
「ガソリンって石油でしたっけ。ダンジョンが無かった頃は遠くから船で運んできたんですよね」
船がダンジョン化するんで、すぐに石油を運ぶことが困難になってしまった。
その代わり、ダンジョンからとれるダンジョンコアで、燃料もプラスチックなんかも補えるようになった。
ダンジョンは危なくて大変だけど、でも世の中は実は、ダンジョンなしだと立ち行かないんだなあ……。
そんな話をリスナーさんとしながら、どんどん取り壊されていく元ダンジョンを見るのだった。
「ダンジョンコア出てきました!」「回収、回収!」「これ、持って帰ったらどうなるんですかね」「バレたら即逮捕だぞ。欲しかったら配信者からもらうんだな」
なんか会話が聞こえるー。
ダンジョンコアはそれそのものに価値があるのと、バーチャライズアバターのもとにもなるので、配信者がイラストレーターさんに渡すことも多いんだよね。
私の衣装は、エメラクさんにダンジョンコアを渡してデザインしてもらっているのだ……!
※エメラク『ダンジョンコアと言えば、デザイン完成です、着物はづきっち』『おお』『なんだって!』『うおおおおお』
噂をしたら!
エメラクさんからザッコでデータが送られてきたので、展開する。
「うおおおおおお」
※『はづきっちが叫んでるぞ!』『見せてー!!』いももち『みたい!! みたい!!』
「きょ、共有します……!」
お正月の私の姿からインスパイアされて、エメラクさんが仕上げたという着物コスチューム!
それは……。
三つのクビがあるブタさんが意匠化された振り袖だった。
うーん、清々しいほどのピンク!
差し色に白と金色。
派手~!!
※『はづきっちスーパーモードと言った感じだな』『着たら絶対強くなるやつ』『この間の丼ウイングもかっこよかったけどな……』『まさか丼をああ使うとは……』
「あ、早速着れるみたいなんで身につけてみましょう。うりゃ、バーチャライズ!」
ピカピカ~っと光る私。
あっという間に振り袖モードになった。
髪型も変わってくれるから便利~。
結い上げた髪に、なんかキラキラ光るかんざしが付いている。
「どうですかねー。お腹のところが帯でどっしりしていて、食べる時はちょっと制限が掛かりそうですが……」
※『かわいい!』『きれい!』『超似合ってる!』『結局ゲリラ新衣装お披露目配信じゃないか! いいぞもっとやれ!』
飛び交うスパチャ!
暗くなり始めた住宅街で、私の周りだけがピカピカ輝いていた。
そうしたら、帰ろうとしていた解体職人さんたちが私に気付く。
「あっ、はづきっちがいる!!」「えっ、あの噂のきら星はづきか!?」「あ、あのー!」
職人さんたちが寄ってくる。
「一緒に写真、いいっすか……!」
「あっ、は、はい、どうぞどうぞ……」
ということで。
私のファーストダンジョンを背景に、職人さんたちとチェキを撮影してしまったのだった。
ちなみにここから我が家まで三件隣くらいなんで、気付かれないように帰宅するために大回りした。
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