第107話 盛況!学祭メイド喫茶伝説2

 メイドの制服が完成した。

 黒ベースに白いフリルがあちこちにあしらわれた、思ったよりもクラシックな感じ……。


 ……なぜか私とあと二人くらいだけちょっとデザイン違うんだけど。


「こ、これは……。胸元だけ別パーツで構成されてる……」


「エース専用衣装ってやつねー」


 シカコという人がなんか言ってきた!


「エ、エースと言うと」


「多分クラスで一番アップダウン差が大きいー。普通の制服だとこう、こう布地が張り出して太ってるみたいになるー」


 彼女もメイド服を纏う役割だ。

 空気抵抗が少なそうな体型なので、逆にオーソドックスなメイド服がバッチリ似合ってる気がする。


「うちみたいなのはこうだけど、あなたはねー。だから気合を入れて専門の制服を作ったってー」


「ひい、特別扱いは勘弁してほしい……!」


 ちなみに着てみると、バッチリと体にフィットした。

 最近食べすぎないようにしているから、体のサイズ感も変化してないし……。


「むむむ……配信衣装なみにしっくりくる……」


「配信ー?」


「ななな、なんでもない」


 厳正なるくじ引きで、メイドのシフトは決定される。

 チョーコ氏が私と一緒になれなかったと大変嘆いていた。

 そ、そんなに私がメイド服であたふたする姿が見たいのだろうか……!


 私と同じ当番はシカコ氏だ。

 この人はなんだかんだで対応がサラッとしていて、大変やりやすい。


「おっぱいすごいねー。半分分けてー」


「で、で、できませーん!」


「うちなんかこれだよこれー。ぺたーん」


「う、うう、反応に困ります~」


「触っていいー? なんなら揉むー」


「あひー、勘弁してくださーい!」


 サラッとしてるけどグイグイ触ってくるぞ!!

 た、たすけてー!


 結局、冷静コーンポタージュ缶一本と引き換えに一回触らせることになった。

 まあ、コンポタ缶を奢ってもらえるなら……。


「うおーっ」


 シカコ氏が吠えた。

 教室内にいた研修中のスタッフが一斉に振り向く。


 彼女たちが見たのは、私の胸元を制服越しに持ち上げているシカコ氏である。


「おっもー!! で、でかー。何を食べたらこんなことに……あっ、察しましたー」


「何でも食べたからです……!!」


 教室内にどよめきと、理解を示す声が溢れた。

 そう。

 うちのクラスにも、食べたものがお腹周りにあまりつかない人がそれなりにいるのだ。


 彼女たちはみな、胸元とかお尻や太もも周りに栄養を蓄えており、大半は学外に彼氏がいる。


「シカコ、痩せるのは女受けはいいけど、男受けはね……」


 活発な感じで胸元のボタンを外してとても中には収まりきれないよ! みたいな感じの女子が、なんか訳知り顔で話に加わってきた。

 ガーンとするシカコ氏。


「う、腕組みした上に胸が乗ってるー!! 異次元ー。う、うちも食べればいけるかー? いや、無理、食えないー」


「シ、シカコさんはニーズありますから」


 私が慌ててフォローしたら、シカコ氏はハッとして顔を上げた。


「うんうん、小さいのが好きな男子もいるよねー。気を落とすのはまだ早いー。ってことで学祭頑張ろうねー」


 すぐに気を取り直した。

 復活も早い……。

 チョーコ氏とはまた全然違う陽キャだ……!


 ちなみに私も腕組みしたらずっしり乗った。

 うーむ、これはこれで姿勢に負担が掛かって、全然いいものではないのだが……?


 配信にて、学祭でメイド喫茶をするなんて話をしたら身バレ一直線なのだ。

 だから、縁があってメイド服を着ることになった、みたいな話をした。


 すると盛り上がるコメント欄。


※『はづきっちのメイド服!?』『ちょっと前に流行った蛍光カラーみたいな?』


「クラシックなやつだったよー。私のは専門であつらえてて胸の入る部分があるの」


※おこのみ『乳袋!!』『うおおおおおおおお』『うおああああああ』


「コメントで乳言うなー!」


 でも凄まじい盛り上がりようだ。


※エメラク『了解しました』


 なにを!?


※斑鳩『では発注の準備を……』


 仕事が早いよ!


 そして裏では、私の持っている学祭チケットがエメラクさんまで届いたらしい。

 現物を見てイメージをふくらませるんだとか。


 ついに……やってくる学園祭当日。

 私の指導を経て、調理のレベルはかなり上がった。

 そのせいか、クラスでの私の地位がすごく上がった。


「弁当作ってやったらクッソ引かれてー。手作りとかありえねーとか言うから振った! フリーになった!」


 こないだのボタン外して腕組みに胸が乗ってた系の女子の人!!


「あ、あはははは……」


 なんで私にそういう話を振ってくるの。


「つーか、料理できるようになったら超楽しいの! クックバッドとか超分かるし! 最近は塩とかお砂糖少々が掴めてきたんだわ!」


「そ、それは良かったです……」


「ありがとね師匠!」


 また師匠と呼ばれている!

 とりあえず、うちのクラスの半分は調理能力が向上したみたいだ。


 これで私も安心してフロアに……。

 いやいやいや、なんで調理の指導してる私がフロアなの。

 当日だけどまだ納得してないよ!


 そうだ、あまり接客をしないで、調理場とフロアの間に立っていれば……。


「ちょりーっす! あっ! ほんとにメイド服着てる! かっわいー!!」


 チャラい声が聞こえてきた!

 このチャラい喋りは……。


「チャ……チャラウェイさん!?」


 かつて大いにお世話になった、ヒャッハー系個人勢冒険配信者のチャラウェイさんだ。

 今日はラッパーみたいな一段とチャラい格好をしている。

 横には、ビシッと紫色のカジュアルなスーツで決めた八咫烏さんがいた。


「嘘、誰かな!?」「ホストじゃね!?」「えっ、あの子、ホストと知り合いなの!?」「っていうかホストが貢ぎに来てるんだけど!?」


 うわーっ!!

 私の平穏な学生生活が崩れていく音がするーっ!!


「あの、あの、ご注文は……」


「それよりも先に……。いらっしゃいませ、ご主人さまって言ってくれないかな?」


「それそれ! いっちょ、オナシャス!」


 ひいーっ!

 メイド喫茶っぽい超お約束!


 私はひきつった笑顔を浮かべつつ、スカートの裾をつまんで二人に会釈した。


「い、い、いらっしゃいませ、ご主人さま……!」


「いい……」


「サイコー!」


 二人が満面の笑みで拍手してくる。

 受けてる受けてる!

 なんで受けてるんだ!?


 こうして、混乱のうちに私の学園祭が始まってしまったのだった。

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