第108話 来々!学祭メイド喫茶伝説3

「うわおオムライス本格派じゃん!」


「これは美味しそうだね! 厚めの平たい玉子焼きでチキンライスを覆う方式か」


 チャラウェイさんと八咫烏さんが出てきたお料理に感心している。

 そう、きちんとオムライスを作れるようにするには時間が足りなかった!


 私も配信があるし、いつも学校に詰めてるわけにいかないし。

 ということで、薄くて大きな玉子焼きを作ってもらい、崩れない程度に焼いて上に被せるようにしたのだ。

 半熟オムレツは彼女たちにはまだ早い……。


「ご、ごゆっくり~」


「あ、そうだ! ハートマークとチャラウェイさんへ、って書いてよ!」


「ひいー、そ、そういう個人への営業みたいな行為は禁止されてるので……」


「そうだぞチャラウェイ。彼女は今は普通の女子高生なんだ」


「ウェイ! そうだった! いやあ、はづ……ゴホンゴホン! 君の色々な顔が見られて嬉しいよ!」


 なんかチャラウェイさんが口説き文句っぽいことを言ったので、近くにいた女子たちが「キャーッ」と盛り上がった。

 や、やめろーっ。

 そんなんじゃないから注目するのはやめろーっ。


 この二人がいると大変な誤解を受けるので、食べ終わった後の彼らを、私はぎゅうぎゅうと外に押し出したのだった。


「また来るぜ! それから今度うちにも来て一緒にセッションしようぜぇー!」


「美味しかったよ。今度は君の手料理を食べたいなあ。そうだ、うちの事務所に今度顔を出して……」


「や、やめろーっそういう物言いはーっ」


 私、必死。

 戻ってきた私を見るクラスの目が違う!


 うわーっ、キラキラと嫉妬が入り交じる視線!!

 注目するのはやめてくれえええ。


 一客対応しただけで、かなりカロリーを消費した気がする。

 私は裏に駆け込んで。


「ちょっとガムシロ入れたコーヒーをいただきます……」


「ねえねえさっきの人たちホスト!?」


「まさか彼氏!?」


「二人と同時に付き合ってんの!?」


「すっご……!! どっちもイケてるじゃん」


「ち、ち、ちが、ちが」


 慌てながらガムシロを3つ入れたアイスコーヒーを飲み干したら、すぐ私にお呼びが掛かった。

 女性四人が私の接客を待っているではないか。


「ふーん、ここがあの女のハウス……もといショップですね」


 委員長!!


「いいなあー。若い頃を思い出しちゃうなあ。おっと、バーチャライズしている間は十代ですけど」


 バトラさん!!


「ふっふっふ、ここで彼女の接客の腕前を見極めてやるピョン……おほん、見極めるとしようかしら」


 ピョンパルさん!!


「いやあ、ここの準備をしながら配信活動もしていたわけでしょ? 本当にエネルギッシュだよね。感動しちゃうなあ」


 か、かか、風街さん!!


 今、この卓だけで登録者数1000万人に届くんじゃないのか……?


 日本の冒険配信者の頂点に立つ女性四人が、なんで学園祭の模擬店、しかもメイド喫茶に集まってるんだ……。

 私がやってくると、四人がおーい、と手を振ってきた。


 配信外の彼女たちはオーラを自由自在に出し入れするので、今回は普通人モード。

 さっきほどは教室の注目を浴びない。

 いやいやいや、今のこのテーブルの方がヤバいから。


 この四人でこの間のダンジョンハザードを無傷で鎮圧できるレベルだから。


「ごごごごご、ご注文は」


「君、ピョン」


 ピョンパルさんがふざけたら、風街さんの肘が炸裂した。


「うッ」


「人数分のパンケーキと……私はアイスコーヒー。委員長さんとバトラさんは?」


「わたくしはアイスティですね。この秘密フレーバーというのをお願いしますね。変わったものは味わっておかないと……」


「挑戦的ー! 私はそうだなあ。玄米茶ラテ」


 次々に注文をもらい、私は奥に引っ込む。

 そして彼女たちに早く帰ってもらうために、猛烈な勢いでドリンクを作った。


「す、凄い手際」


「フロアに出しておくのが惜しい……」


「流石だわ師匠」


 私だってこんな手際よく動きたくはない……!

 ひいー、早く、早く帰ってくれー!


 その後の彼女たち超大物配信者四人は、私と散々お喋りした後、学園祭を一回りするとかで出ていった。

 なんということだ。

 また私のカロリーが大いに消費された気がする。


「接客を一回する度に、ダンジョン攻略したくらい疲れてるんじゃないか……」


 恐るべし配信者。

 その後できた、カンナちゃんと水無月さんには癒やされた。


「カンナちゃーん、水無月さーん、ようこそ~」


「おかえりなさいませじゃないの?」


 突っ込まれたけど。

 ちなみにカンナちゃんはハグで出迎えた。

 二人の相手をしていたら、私ご指名のもう一組が到着。


 男性三人組で、こっちは一人だけ顔を知ってる。


「すっごいイケメンが来たんだけど」


「なんでまた師匠指名なの!?」


「男を侍らせる魔性の……」


 あらぬ噂がクラスに!!


「ちち、違います、兄ですぅ」


「「「兄ぃ!?」」」


 クラスに衝撃走る──!

 走らなくていい!!


「頑張っているようだな。あ、こちらはエメラクさん。それからいつもショート動画で協力してもらってるたこやきやいた氏」


「どうもどうも、生はづきさん嬉しいですね……!」


「どうもこんにちは。素顔はこんなんです」


「あ、どうもどうも」


 三人でペコペコ頭を下げ合うことになってしまった。

 エメラクさんは趣味でロードをやってるそうで、日焼けした精悍な感じの人だった。

 たこやきはなんか穏やかそうなメガネの人。妙に親近感を覚える。陰の気配だ。


「いやあ……実際に見に来て本当に良かった……。それに本物も本当に可愛らしい……。あ、すみませんセクハラでしたね。でもこのパッションを活かして帰ったらすぐにデザインに取り掛かります」


 ちなみにエメラクさん、ファンアートで私の絵をツブヤキックスとかにガンガンアップしている。

 最近エゴサすると、エメラクさんを始めとした絵描きさんたちのイラストがどんどん出てきて、嬉しいやら気恥ずかしいやらなんだよね……!


「今度のメイド服は革命ですよ革命。はづきさんらしさを出していきます!」


「いいですねー。一ファンとして楽しみです」


 もうこの人たち、私の配信者ネームをガンガンに出しちゃってるし。

 そんな時、私の背後に気配が!


 振り返ったら、


「あひー!?」


「うわーっ、ご、ごめんね! 交代の時間だったから……」


 チョーコ氏だ。

 なんか妙に慌てている。


 そうか、私の勤務時間も終わりか……。

 恐ろしく濃厚な接客ばかりだった。


「なんか痩せた?」


「痩せました……」


「模擬店でたっぷり食べてきなね」


 チョーコ氏に労われつつ、私の接客は終了なのだった。

 濃い人しか来なかった。


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