第330話 二人になっても変わらない?伝説

「先輩」


「なあに」


「先輩、二人になれるようになったのに、全然配信頻度増やしてないですよね。いえ、先輩くらいの規模の配信者でこの配信頻度は多い方なんですけど、最近はサポートに回ってて回数減らしてるし……」


 一緒に下校してたら、もみじちゃんが何やら疑義を呈してきた。

 なるほどー。

 そういう考えもあるよね。


「確かに私は二人に分かれられるようになったけど、片方が配信して片方が学校に……みたいな生活はしてないなあ」


「なんでなんです?」


「だって私は学校に行きたいし、ベルゼブブも学校に行きたいんだもん」


『そうそう』


 私の胸元から、すいーっとベルゼブブが顔を出した。


「うーわー」


「あひー」


 もみじちゃんが驚き、私だって驚く。


『ごめんごめん。そのまま出てきたら目立っちゃうでしょ』


 またすうーっと私の胸の中に吸い込まれるベルゼブブ。

 今度は小さいベルゼブブが現れて、私の肩の上に乗った。


『私たちはわがままなの。せっかくはづきが好きになった学校を楽しみたいし、たまの休日の解放感を楽しみたいし、制限がある中で時間を作って行う配信を楽しみたいし』


「うんうん、分かる~」


『私たちは同じ人格から分かれた存在で、はづきが光で私が闇という点以外では性格も好みも一緒だからねー。あ、呪詛や式神は私の権能です。でも、大魔将を叩き切った光のゴボウははづきの権能です』


「な、なるほど~! 先輩、前々から光と闇が交わったスタイルだなーっと思ってたら……」


『もみじちゃんは闇である私の影響を受けているスタイルで、ビクトリアは光であるはづきの影響を受けているスタイルなのよ。はづきが表で友達と付き合っている間に色々分析した!』


 むふーっと鼻息も荒く、得意げなベルゼブブ。

 おお、私のドヤ顔だあ。


 でも確かに、もみじちゃんはベルゼブブ側だよね。

 戦い方がファンタジー寄りすぎだもん。


「う、うちが闇! はひー」


 なんかショック受けてるショック受けてる。


「闇って言ってもベルゼブブは私なのでこんな感じだから」


「あ、言われてみると……。こんな善良さが全身から溢れてくる闇は初めてかも」


『ふふふふふ……』


 なんか得意げなベルゼブブなのだった。

 こうして帰宅した私。


 今日は雑談配信で、夕食の後にやろうかなーなんて考えていたのだが。


『ねえはづき』


 玄関口で分離したベルゼブブが、私に囁きかけた。

 悪魔の囁き!


『私が普段はづきの中に溶け込んでいられるなら、はづきが私の中に溶け込んで、私の羽で移動することもできそうじゃない?』


「あ、確かに~」


 思いもかけぬ提案に頷く私。

 そこへ母が、「おかえり~」と声を掛けてきたので、私たちは「『ただいま~』」と返事をした。


 部屋に戻って普段着になり、一階のリビングで二人並んでおやつを食べる。

 量的には前と変わってないけど、胃袋が1人分なので問題なし!


「詳しく」


『ひょっろまっれ』


 もぐもぐ食べているベルゼブブ。

 きちんと噛んでから飲み込んで、それからお茶を口にした。


 エッチな格好をした配信時の私が、(今は上着つけてるけど)こうやって眼の前で喋っているのは不思議な気分だなあ。


『つまりね』


 ベルゼブブの目が鋭くなった。

 ニヤリと笑う。


『今度の休みに空を飛んで与那国島まで行って、カナンさんと遊ぼう』


「あ、あひー! 悪魔的誘惑! やろうやろう」


 私は悪魔の誘惑に堕ちたのだった。

 絶対楽しいやつ。


「あら、与那国島に行くの? お土産期待しちゃうわ」


「まっかせて」


『向こうの名産ってなんなんだろう……』


 そう言えば、ということになり、母と私とベルゼブブでスマホの検索画面を覗き込む。


『泡盛……』


「お父さんが喜びそうだね」


「うん。買ったらバングラッドさんも呼びましょ」


『与那国織』


「人数分欲しいわね! 私とお父さんと、それに二人のあなたのぶん!」


『クバ餅、カジキマグロのお刺身とか……』


「ふむふむ……」


 三人で、このお土産がいい、どれがいい、と相談する。

 長命草茶とかいう体に良さそうなお茶もあるし。


「一通り買ってこよう!」


 そういうことで落ち着いた。

 では、次は私とベルゼブブの融合練習だ。


 せっかくなのでこのリビングで行う。


「一つになれー」


 私の掛け声で、ベルゼブブがスパーンと私に重なり合い、一つになった。

 通常の姿は私なんだよね。

 これを反転させる……。


「ベルゼブブを表に!」


『はづき、これで行こう』


 むっ、かっこいい掛け声のアイデアが送られてきた!


「よーし、ゆーはぶこんとろーる!」


『あいはぶあこんとろーる!』


「真ん中のあ、はいらないんじゃない?」


『そうだった』


 締まらない感じの掛け声だったけど、ちゃんと効果があったみたい。

 私の視界がくるんと変化した。

 体がふわふわする。


『あ、入れ替わった』


 ベルゼブブの声が聞こえる。


「なんだかふわふわするー」


『普通に自由に外に出られるよ。私がそうだもん。私とはづきは同位体なので』


「どれどれー?」


 外に出ようとしたら、スポン、と出られた。

 また、私とベルゼブブが並ぶ。


「おおー」


『成功成功!』


「新しいことができるようになったのねえ。お母さんを乗せて飛べるようになりそう?」


『多分もう、お姫様抱っこして飛べるんじゃないかな』


「今度やってー!」


 キャッキャする母にしがみつかれるベルゼブブなのだった。


 よしよし、一人ならどこにでも行けそうな移動手段をゲットしてしまった。

 カナンさんたちに会いに行こう!


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