第225話 敢闘、決着! ツイスター伝説

 ついに始まってしまった決勝……!!


 私、熾天使バトラさん、カンナちゃん!

 この三人が向かい合う。


 バトラさんが口を開いた。


「ASMRを宣伝するつもりできたら、なんか勝ってしまったんだけど、ここから特に目的はないわ! だけど勝つわよせっかくだから!!」


 な、なんたることー!

 この人はツイスターしながら相手の耳元でASMRしたかっただけなのだ!


 たまたまそれがすっごい威力を発揮して決勝まで来てしまった。


「ふふふ、私の直弟子であるはづきちゃん、あなたのASMRの実力がどれだけ高くなったか、見せてもらうわよ……」


「うっ、すごい迫力だ……!!」


 それにASMRで相手を無力化して叩き潰してきたので、かなり元気。

 対するカンナちゃんは、割りと疲れていた。


「早く帰って寝たいです! あ、その前にお風呂……」


「ビルの地下にシャワールームがあるので、汗くらいは流せます……」


「えっ、ほんと!? 嬉しい!」


 これを聞いて、お弁当を食べ終わっていた他の配信者さんたちがざわついた。

 これは大会が終わったら、みんなでシャワー順番待ちだぞ……!!


「それでは決勝戦スタート!」


 兄が巻いてきた!

 配信者の皆さんにもまだまだ仕事とかやることあるもんね。

 それに私の腹ペコも限界だ。


 かなりパワーダウンしているぞ……!!


「きら星はづき、右手赤」


「ほいほい」


「カンナ・アーデルハイド、右足、青」


「はーい」


「熾天使バトラ、左手、緑」


「いいわよー」


 こうしてつつがなく進行していくツイスター。

 ついに四肢の全てがゲームマットの上に乗る!

 ここからが地獄のスタートなのだ。


「あーっ、既に無理な態勢ではづきちゃんの上に乗っちゃってる……」


「あっあっ、カンナちゃんの感触と体温が……。このままでいてもよい……」


※おこのみ『いいですねえ!!』『カンナ、はづきっちに体重預けて休んでるじゃんw』『預けられてるはづきっちがまんざらでもなさそうなのが……』


「隙を見せたわねはづきちゃん!! ねえ、そんな態勢で苦しくない? 楽になってしまいましょうよ……」


 うわーっ、Aフォンによってパワーアップした、バトラさんのASMR攻撃!!

 耳と脳が溶けるぅ。


※『はづきっちがぐらつく!』『凄まじい威力だな……』『下手な大罪勢よりもはづきっちを追い詰めているぞ!』


「精神攻撃というか脳を直接さすってくる攻撃なのでゴボウでは防げないですねー」


 私は解説しながら、精神の均衡を保つ……!

 こ、これは配信者人生で最大のピンチかも知れない……!!


 カンナちゃんを上に乗せながら、バトラさんのASMR攻撃を耐え凌ぐ。

 長くは持たないぞ……!!


「カンナ・アーデルハイド、左足赤」


「はいはい」


「あっ、カンナちゃんが上から移動してしまった!」


 私のモチベーションがぎゅーんと下降する。

 なんたることだあ。


※『はづきっちの顔から覇気が消えた!』『まずいぞ、ここはいつものダンジョンじゃないんだ!』『覇気を失ったはづきっちではツイスターゲームを勝ち抜けない!』


 いつもダンジョンで覇気がないみたいな言い方をされてません!?

 いや、まあ、否定はできないところです。


 とりあえず次の移動で、私はぎゅうぎゅうとバトラさんを押した。


「あーっ、凄いパワー! 純粋なフィジカルでははづきちゃんとは分が悪いわね。やはりASMRを……」


「熾天使バトラ、左手緑」


「あひー」


※『バトラがあひった!』『仰向けになってるw』『ASMR破れたりw!!』


 そこにカンナちゃんがムギュッと被さる形になり、ついにバトラさんはぺちゃっと潰れた。


「む、無念~」


 そして次の次の指示でカンナちゃんのお尻が私の顔をポーンと弾いて、私は「あひー」と転がった。


※『はづきっちが呆気なくやられた!』『画面外でみんなが弁当食ってたらしいからな……それを見て空腹に負けたくさいぞ』『カンナ相手だと実力を発揮できないだろうしなw』


 情報分析が的確だ……!

 こうして、カンナちゃんが優勝したのだった。


 予選落ちの水無月さんと卯月さんが駆け寄り、きゃあきゃあ喜び合っている。

 いやあ、いいものですねえ……。


 兄がやって来て、三人にマイクを向けた。


「では、優勝者の特権、三分間の広報タイムです。どうぞ」


「あ、は、はい!」


 あの斑鳩を前にしているということで、三人ともめちゃくちゃ緊張した。

 だけどマイクを受け取ると流石プロ。


「トライシグナルのミニアルバムが出ます! 特別PV特典付きで……」


 買います。


 私は負けてしまったが、心は実に晴れやかだった。

 いやあ、ツイスターゲーム、なかなかいいものですねえ……。


 お前らも大変満足したようで、なんか感想とスパチャがバンバン飛んでいる。


※『いいもの拝ませてもらいました……』『先が読めない波乱の展開だった』『ASMRがあんなに強いとはなあ……』たこやき『近日中に公式まとめがアップされます』『うおおおおおお』『うおおおおお』


 たこやき、既に作業に取り掛かってる!

 プロだなー。


 そして番組は全てのプログラムを終了し、全配信者が画面にワーッと集まってきて、みんなで手を振って終わった。

 うんうん、いい配信だった。


 プロデューサーを担当した企画の人が、凄くいい笑顔で頷いている。

 同接数が50万人超えだったらしい。

 大きい地方都市なみじゃないか。


 その後、イベントに参加した配信者さんたちは、みんなちょこちょこと登録者が増えたらしい。

 ウィンウィンの大会になったわけだ。


 私も美味しいお弁当が食べられ、カンナちゃんと隣同士でお喋りしながらシャワーを浴びたり。


「くううううう、悔しぃぃぃぃぃぃ! はづきちゃんとツイスターできなかったあああああ」


 ぼたんちゃんがめちゃくちゃに悔しがっていたのは印象的だった。

 この敗北はきっと彼女を強くするに違いない。


 そしてカンナちゃん、大会優勝者として王冠型のオプションをプレゼントされ、しばらくは頭に王冠を付けて配信していたのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る