第325話 分離私の色々お試し伝説

 せっかく分離したので、色々試してみようということになった。

 対外的な発表は考え中。

 ただでさえ私は物議を醸しだす事が多いらしいので、あの兄がちょっと控えようか的な話をしてきたくらいだ。


「じゃあどうしようか」


『二人で変装して外にご飯食べに行くのは?』


「賛成!」


 私とベルゼブブがキャッキャッと盛り上がっていると、もみじちゃんがウワーッと頭を抱えた。


「先輩が二人いるだけだから、意見がバッチリ合っちゃう! これ、どんどん先輩の欲望の向く方向に突き進んでいきますよ!」


「わ、私はそれで一向に構わないかも」


 ぼたんちゃんはなぜだか嬉しそう。

 そして近づいてきて、ベルゼブブに「ちょっと触っても?」とか聞いている。

 向こうも私なんで、『どうぞどうぞ』とか答えて。

 ぼたんちゃんはベルゼブブに抱きついたり、髪とか首筋とかお腹とか太もも触ってですね、ベルゼブブが『あひー、終了終了!』と宣言した。


「師匠が二人に増えただけじゃん。魔王化してもなんにも変わらないもんなんだねえ……」


「リーダーのオモテウラが無いからじゃない? 隠し持った物がもう無いから、闇が実体化しても光と全く同じだという」


「こういうパターンは、片方に触れるともう片方も何か感じるものですが。どうですかはづきさん」


 ファティマさんの冷静な質問に、私とベルゼブブが左右に首を傾げた。


「なんにも」


『伝わらなかった? じゃあ私とはづきは繋がってるようで繋がっていないんじゃない?』


 なかなか不思議な状況のようだ!

 でも、お腹の容量は二人ではんぶんこになっているし。


 その後、たこやきがニコニコしながら体重計を運んできた。


「『あひー』」と逃げようとする私とベルゼブブ。

 しかし、はぎゅうちゃんとファティマさんにガッチリ捕まり、体重を計測されてしまった。


「二人いるのに体重はそれぞれ師匠1人分!!」


「これは不思議ですねえ……」


「またちょっと増えてしまった……」


『パンツルックはお尻がきついからスカートばっかりになるう』


 私とベルゼブブで同じ嘆きを口にする。


「よし! ダイエットしましょう先輩!!」


「あたしも一緒に運動するからさ、師匠!」


「『あひー!?』」


 とんでもないことになってしまった!


 ということで……。

 私とベルゼブブは運動用のジャージを着せられた。

 ベルゼブブの露出度高い衣装、普通に脱げるのね。


『多分、きら星はづきのジャージと似たようなものじゃない? でも私の普通の姿が、はづきの姿なんだけど』


「なるほどー。それじゃあ目立っちゃうよね」


『私にアバターを被せればいいと思う』


「名案~」


「はづきちゃん二人だから、サクサク話が進んでいくなあ……。提案役と承認役が同一人物だから、もう滞りない議論が行われてる……」


 ぼたんちゃんが感心してるのか、呆れているのか。


 とりあえず、イカルガエンタの女子みんなで走ろうということになった。

 ベルゼブブは、私の普段の外見をちょっと変えたアバターを乗せて……。


『あっ、茶髪にピアス! ちょっとお化粧してるアバター!』


「ギャルはづきだ!」


 ノーマル私と、ギャル私で並んでポテポテとランニングする。

 ちょっと移動すると皇居が見えてくるので、その周りをみんなで走った。


 イカルガエンタの女子たちは全員体力があるので、一周してもまだまだ余裕。

 談笑しながらランニングだ。


「なんか皇居ランナー、異種族の人も増えてるねえ」


『普通にエルフもドワーフもいるし』


「ケンタウロスの人は軽車両扱いだから大変らしいよ」


『うんうん、ブリッツさんたち大丈夫かなー』


「二人の先輩がいる状況になんだか慣れてきた……」


「いつまではづきちゃん分離してるのかしら」


「これはこれで賑やかでいいけど」


 イノシカチョウの三人の言うことも確かに。

 皇居周りを二周して、軽く汗をかいたところで。


「私とベルゼブブは一人に戻れたりするかな?」


『戻れるでしょ。問題は私の衣装がイカルガにあるから、もしかすると戻ったら裸になったりするかも知れない』


「あひー、それは困る!」


 何があるか分からないのだ!

 では、戻るチャレンジはイカルガに戻ってからにしようということで落ち着いた。


 さて、ランニングで消費したカロリーを補給……。


「先輩! ここで食べ物屋さんに入ったらダイエットの意味がないですよ!! お砂糖入りでいいのでドリンクだけにしましょう」


 スパルタコーチもみじちゃんに言われて、私たちが「『あひー』」と悲鳴をあげた。

 結局、コーヒーショップでジュースを飲むことに。


「そっか、小腹が空いた時にジュースで血糖値だけ上げれば」


『今まで、普通にラーメン食べてたもんね』


 これは改める価値がある、と頷き合う私二人なのだった。


「暴食の大罪がダイエットしているっていうのはなんだか不思議ですね」


「リーダーだから何をやってもそれっぽい気はしてくるけどね」


 そうかなあ……!?

 あとは、分離してジュースを飲んでいると、いつもより満足感が高い。

 それに、ダイエット効果も二倍になっているのでは?


「もみじちゃん、私たちの目指すところは?」


「もうちょっとお尻とふとももを引き締めます! 穿けるものが増えるくらいに!」


『き、厳しいけど確かにそっちのほうが助かる』


 ベルゼブブも賛成のようです。

 今回のジャージ、大きめサイズだからヒザ下とかお腹周りとかだぶだぶだもんね。


 ちょうどいいサイズのを身に付けられるように……。

 そう誓って、イカルガビルへ戻っていく私たちなのだった。


 その後、陣を作らずに戻る実験。


『戻るよー』


 ベルゼブブがそう継げたら、私と彼女が急速に近づいて、ポンッと音がした。

 ベルゼブブが着ていたジャージが横に落ちていて、彼女の魔法風衣装も消えている。


 私は一人に戻っていた。


「不思議ー」


「それはこっちのセリフだなあ」


 今回の計画を指揮していた宇宙さんは、ずーっと首をひねりっぱなしなのだった。


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