第368話 新年振り袖参拝伝説

 年越しそばをズルズル食べながら、テレビの機能でライブダンジョンとなうファンタジーとイカルガエンターテイメントの年越し番組を三窓する。

 両親もすっかり配信を見るのに慣れていて、この状況でも馴染んでいるようだ。


「今年も色々あったなあ……。本当に色々あった。おっ! 出てる出てる」


 父がしみじみ呟き、画面に私が出てきたので注目した。

 この人はおそばを食べるのは早いので、器はもう空っぽだ。

 血圧管理のためにつゆは残してあるけど。


「そうねえ。でも、みんな元気だし、我が家の新しい娘二人も揃ってていいことばかりじゃない?」


「それもそうだね。賑やかになって、本当に毎日が楽しいよ」


 おっ、両親がニコニコしている。

 ちなみにおそばはたくさん茹でたので、希望があればお代わりできる。

 替え玉というやつですね……!


 茹で上がったのを一玉ずつ分けてあって、これを湯通ししてほぐしてつゆに放り込む……。

 つゆが薄くなるけど、量を求める私と母はこれでいいのだ!


 母が一回、私が二回お代わりした。


 ビクトリアはそばを手繰るのが凄く上手くなっていて、お箸を巧みに使ってつるつる食べる。

 カナンさんも箸使いが猛烈に上手い。

 それから、ずずずーっと啜るのが様になっている。


 日本人よりも日本人みたいになってきてる。


「食べたわ! あんまりいっぱいになると、振り袖で初詣いけないもの。これくらいにしておこうかな」


「ああ。夕食の後でさらにそばを食べる習慣は面白いものだ。量はもう少し少なくても良かったかも知れないが」


 二人でお喋りしながら、蕎麦湯を飲んでらっしゃる。

 分かってる~。


 そして、いよいよ時間は今年と来年の境目にやってきた。

 配信の中でカウントダウンが行われ、ついに……!


「「「「「あけましておめでとうございます」」」」」


 新年になったので、五人で挨拶をした。


「バングラッドさんとも挨拶したかったな」


 なんか父がそんな事を言うので、私はバングラッド氏にザッコで連絡をしておいたのだった。

 多分今日中に顔出しに来るから一緒にお酒を飲むといいよ!


 さて、着付けだ……!


 私は分離した。


「頼むぞベルっち!」


『まかせろー!!』


 ビクトリアとカナンさんは母がお手伝いし、私はベルっちとともに独力でやる!

 ちょこちょこ和服を着る機会が多かったので、分離したのを機会に自分だけでやれるように学んだのだ。


 お陰で……。


「リーダーがすごい速度で着ていくわ」


「見事なものだ……」


「どっちも自分だからできる速さだからね。普通はあれ、できないから」


 母からの注釈が入った。

 私はサクッと着付けが終わる。

 今年の私はなんか梅の花に……ブタさんが乗ってるんですけど。


「それ、オリジナルの着物だから」


「なんですってー!!」


 きら星はづき仕様に作ってもらったものらしい。

 税金対策の一貫らしいんだけど、聞いたらなかなか凄いお値段だった。

 レ、レンタルではなかったのか!!


 ビクトリアとカナンさんのがレンタルでした!


「私、ゴシックな黒い着物が良かったけど……ハッピーニューイヤーに黒い着物はね……」


 少し大人になったビクトリアが、濃紺に花の描かれた着物でなんか頷いてる。

 カナンさんは緑の着物なのね。

 金髪を結い上げてかんざししてるのが大変映える。


「ふーむ、私以外はシュッとした体型……」


「うちの子が唯一日本人なのに、一番着物向けではない体型なのよね」


「面目ない」


 胸はタオルで潰して、押し込んである……!

 ちょっとパワーを解放したら弾け飛びそうではあるが。


 じゃあ、着物が保っている間に初詣に行こう、ということになった。


 両親も連れて、五人で向かう。

 カナンさんはとにかく目立った。

 外国人のスラッとした美人さんで着物を着てるからね!

 で、ビクトリアは黒髪だから目立ちにくいけど、よくよく見るとやっぱり外国の人なので注目を集めやすい。


 私の梅の花にブタさんの着物はあまり目立たなくて良かった良かった。


「美女三人じゃん」「映える~」「うちの街にあんな可愛い子いたんだ……」「芸能人かな」


 目立っている!!

 配信者です!!


 だけど、普段はアバターを被ってるもんね。

 カナンさんは今アバター被って人間の振りしてるけど。


 神社に並ぶたくさんの人の中に交じり、わいわいとお喋りなどする。

 周りからも、今年はいいことあるといいね、みたいな話がたくさん漏れ聞こえてくる。


 これこれ、この雰囲気ですよ。

 一昨年までは出不精だった私だけど、この二年ですっかり、こういう季節のイベントが好きになってしまった。

 この心境の変化はなんでしょうねえ。


「自分に自信ができたからじゃない?」


 母が囁いてきて、なるほどたしかにー! と思うなどした。


 のんびり並んでいると、私たちが拝む順番が回ってくる。

 今はお賽銭が電子マネーなのね……!

 QRコードをスキャンして、お賽銭を入金する。


 で、ガランガランと鈴を鳴らして拝むわけだ。

 何を拝んだかと言うと……。

 無ですよ、無。


 特に祈るような内容はない!

 計画とか目標とか、バンバン実現していってるところだからね。


 まあ神様見ててくださいよ、くらいの感じだった。


『こちらこそよろしくお願いします』


 あれ? ベルっち今何か言った?


 なお、カナンさんは神様に問答を仕掛けていたらしく、返答が無いことに不満げだった。

 ビクトリアは普通に自分の神様にお祈りしてたね。彼女はゆるめのカトリックなので!


 そして甘酒を飲み……。

 カナンさんがすっかり気に入ってお代わりし。


 おみくじを引き……。


「ほう大吉ですか、今年もですねえ」


「リーダーならそうなると思ってたわ。私は中吉」


「私もだ」


 全体的に運が良い私たちなのだった。


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