第349話 試食会!全員集合伝説

 イカルガのコラボメニューが出揃った……。

 ということで。


 本日はイカルガエンタビルに、所属配信者全員が集まっております。

 なんと、カナンさんもギリギリ間に合った。


「本当は箱根で一泊して美術館に行きたかったんだが」


「すっかり観光地とかに詳しくなってる……」


「カナン! 無事で良かったわ! とても心配していたの! 本懐を果たせたのね、おめでとう」


 ファティマさんがパタパタやって来て、カナンさんを力強くハグした。

 同期だもんねー。


「むぎゅう。ああ、お陰様でだ。私は自由となり、エルフの同志たちを縛り付けていた宿命の鎖は解き放たれ……。新たな時代が始まろうとしている。そう、温泉とか観光の時代だ」


「あれえ?」


 カナンさんがとんちんかんな事をおっしゃるので、首を傾げるファティマさんなのだった。


「カナンさん、すっかり観光案内配信者として開眼してしまった」


「ああ。この国にはたくさんの名所がある。まだまだ精霊の愛子たちに紹介できていない場所も多いのだ。むしろ、私がたどった道などそのほんの一握り……砂浜で手のひらに収まる程度の砂を握ったに過ぎない。やるべきことはまだたくさんあるのだ!!」


 うおおおお、と燃えるカナンさん。

 それはそうと、改築が終わり次第我が家に戻ってくるそうです。

 両親も喜ぶぞー。


 ワイワイと席に並ぶイカルガエンタの配信者たち。

 なぜか私がお誕生日席。まあ、横にベルっちも実体化して座ってるんだけど。


 そして右手側に、ビクトリア、カナンさん、ファティマさん、トリットさん、バングラッド氏。

 左手側に、もみじちゃん、はぎゅうちゃん、ぼたんちゃん、カモちゃん。

 対面のお誕生日席に兄が座っている。


「では、試食を開始する。諸君が考案してくれたコラボメニューはどれも素晴らしいものだった。今後はこのメニューの宣伝を行うため、全ての味を知っておくべきだろう。なお、たくさん味わうために全て少量のサイズとしてある。もっと量が食べたいなと思ったら外部スタッフに伝えて欲しい」


 厳かな感じで、試食会の開催を宣言する兄なのだった。

 なお。

 この模様は斑鳩エンターテイメント公式チャンネルで生放送されています!!

 ガッチリしてるなー。


「凄い。試食会なのに同接が十万人を超えたわ」


 もみじちゃんとビクトリアを担当する、元祖マネさんが驚きの声をあげている。

 彼女はもう、押しも押されぬトップマネージャーなのだ。

 そして、なんかシンプルな感じの女性のアバターを被って普通にもみじちゃんの配信に出てきてたりもする。


「そんなにですか」


「凄いことですよこれ……! 確かにメンバー勢揃いですけど……あっ、十五万人を超えた!」


「やっぱりみんながわちゃわちゃしてるのが受けてるんじゃないですかね」


※『マネAさんが映ってる!』『Aさんかわいい』


「マネさんが受けてるみたいですけど」


「そ、そんな馬鹿な」


 元祖マネさん、もみじちゃんとビクトリアの仕事は完璧にマネジメントするのに、自分のこととなるとさっぱり分からないようです。


「私はいい年ですし、夫と子供もいますし」


※『マネAさんからママみを感じる……』『このお淑やかさと包容力よ』


「リスナーの性癖は多様ですし、元祖マネさんは絶対受けるタイプなんで」


「な、なんですって」


 マネージャーさんだと、元祖マネさん以外ではカナンさんの娘であるルンテさんも人気だ。

 二人で一緒に温泉入った配信は物凄い反響だったらしいし。

 美人姉妹ということになっている。


 まあ、ルンテさんが配信の端々でママって言ってるから、付き合いの長くなってきたリスナーにはバレバレらしいんだけど。


「つまり今イカルガではママが人気なのでは?」


※『はづきっちどうしたw』『いきなり何を言ってるw』『たまに真実の一端を突くよな彼女』


 そんな事をしてたら、カメラが別の人たちを撮り始めた。

 私ばっかりだとずっと与太話してるからね……。


「もみちゃん先輩のパン、外側は甘くしたんだ?」


「そうなんだー。やっぱり餡に届く前が甘いほうが食べ進めるの楽だと思うし。中身はちょっとしょっぱくした」


「ああー、甘さとしょっぱさが合わさって、餡の中のひき肉が美味しい……。もみちゃん先輩は天才だねえ」


「そうかなー。ありがとうー」


 もみじちゃんがカモちゃんに料理を褒められている。

 うんうん、彼女のパンは一級品ですからね。


 コメ欄は、この二人の絡みで衝撃を受けるガチ恋勢がわあわあ言っている。

 うーん衝撃的展開!

 遠くでコメント欄を眺めている受付さんが、ハラハラしているような。

 経験者~。


「あら、コメント欄の皆さんは随分と純粋でらっしゃるのね? 同じ社内のスタッフで恋愛沙汰になったら、それがブレイクしたら人間関係最悪でしょ? オタクくん、こういうのは匂わせじゃなくて自然体なやりとりなの。恋愛沙汰になりそうになったら、私がスパッと断ち切ってみせるわ」


 おっと、ぼたんちゃんがリスナーを煽りながらコメ欄の仲裁に出た。

 すると、彼女に教育されているリスナーたちがワーッと沸く。


※『なんて説得力だ、また分からせられちまったぜ……』『さすがお嬢だ……』『そもそもお嬢がはづきっちにガチ恋だからな』『あれえ? 言葉の説得力が失せたぞお』


 この他、カナンさんのところには各地の観光地からリスナーさんの書き込みが。

 カナンさんは彼らに答えつつ、パクパクと試食を進めていく。


 さすがの手並み。

 観光配信を通して、カナンさんは本当に配信者として成長したなあ。


 横ではファティマさんが、一つ一つに丁寧な食レポをしている。


※『ふぁちまはこう、真面目にやってるのに全部えっちだよね……』『ふぁちま、仕草の一つ一つがねっとりしてるからね……!』『でも食レポが上手くて本当に美味しいのが分かるー』


 うんうん、醸し出すセンシティブパワーは隠せないよね。

 というところで、同接が二十万人を超えました。


 試食するだけの配信なのに!!


 うちの推しを映してくれー! という要望が出始めたので、ここからは配信者を順番に追っていくみたい。

 じゃあその間に、私はたくさん食べちゃおうかな……。


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