第509話 リアイベ準備!伝説

 三月が見えて参りました。

 引退のリアルイベント……リアイベの準備は着々と進んでおります。

 業界的には、これは卒業と言ったりもするんです?


 配信者の箱を抜けて、新たなアバターを纏って別人としてデビューするのを転生と言うそうなんだけど、私は本格的に引退だからなあ。

 引退リアイベでいいでしょう!


 ツブヤキックスでエゴサすると、もう追い切れないくらい私に関するツブヤキがある。

 私の引退を嘆いている人が結構多いのだ!


『ああ、もう一ヶ月ではづきっちが引退してしまう』『どこかで転生するんじゃない?』『身一つでイカルガ立ち上げてそこをビッグにした、イカルガエンタそのものみたいな人だぞ。転生する意味がない!』『あああ何を生きる糧にすればいいのー』


 残念がってくれていてとても嬉しい。

 私も少しはみんなの心に残ることができたのだなあ。


 引退したら普通の女子に戻りますね……。

 ダンジョン学の研究とかやって普通に暮らしていくつもりなのだ。


「えー、では一通りやっていきましょー。ゲストの方もわざわざリハーサルに時間を割いてくださってありがとうございます」


 私は振り返って、深々と頭を下げた。

 そこに並ぶゲストの面々!


 イカルガの全メンバーと、なうファンタジーはトライシグナルの三人。

 フォーガイズの四人に、勇者パーティ。


 本番では、なうファンタジーから風花委員長が来るし、ジェーン・ドゥから熾天使バトラさんも来るし、ライブダンジョンからは風街さんとDizさんが来る。

 大変な騒ぎだ……!!

 他にも私と関わりのある配信者の皆さんが駆けつけてくれるんだそうで。


 またぎちゃんとゆくいちゃんも来る?

 ありがたい~!


「凄い大規模イベントになってしまった! 二時間なのに」


「それだけはづきちゃんが色々な人と繋がって、人と人をつなげて……あなたの存在が配信者界で大きくなってたってことだもの」


 カンナちゃんにそんな事を言われて、私は「はえー」と感心してしまった。

 私はいつの間にか凄い状況の中心にいたのだなあ!


「本人、全然意識してない」


「はづきちゃんらしいんじゃない?」


 水無月さんと卯月さんがわははと笑った。

 トライシグナルの三人も、なうファンタジーではもう中堅ですもんねえ。

 私と同時期にデビューしたというのに……!


 はー、時の流れは早い!

 私もあっという間に高校を卒業してしまうはずだ。


 私はリハーサルをもりもりこなしながら物思いにふけるのだった。


 思い返したら、あっという間の三年間だった……。

 いやいや、ものすごく盛りだくさんで、ぎゅうぎゅうに中身が詰まった三年間だったな!?

 どこを切り抜いても凄く濃い思い出があるぞ。


 三年目は魔王対策であたふたしちゃいましたが、こうして後半戦はまったりできて何より。

 この間やって来たオーバーロードは、新しい世代の配信者にお任せしちゃいましょう……。


 もっと低コストかつ安全に宇宙まで上がれるアバターロケットみたいなのも開発中らしいし。


 そうこうしていたらリハーサルが終わった。

 ああー、二時間が一瞬。


 これは本当だ。

 やる度に色々な事を思い出すなあ。

 下手をすると、配信者になる前の人生全部よりも、配信者になってからの三年間のほうが全然思い出が多かった気がする。


「はづきちゃんの配信は最初から見てるけど」


 アフームたんを引き連れたユーシャちゃん。

 帰り際に私とちょっとお喋りした。


「はづきちゃんの歴史は、配信者界が怒涛の大発展をする歴史の転換点そのものだもん。三年前は、高専のサークルがアバター作って配信なんか考えられなかったんだから」


「そうだったんだー。そしてアフームたんが生まれた」


『そうなのです!!』


『師匠、こやつ、いけすかないんじゃが』


 あっ、スファトリーさんがマスコットモードのまま、アフームたんに因縁をつけてる!

 最近、スファトリーさんが大魔将の血族だというカミングアウトをしてくれたので、素性が分かった私です。


 つまり、地の大魔将の血族たるスファトリーさんは、火の大魔将の力を受け継いだアフームたんに本能的なライバル心を抱いていると。

 これは今後の関係性が期待できますね……。


「私の予想によると、アフームたんは受肉してそのものが配信者になると思うよ。もう秒読み」


「ええーっ!! わ、私のドローンなのに!」


『逆らえない運命なのです!』


 アフームたん本人もこう言っております。

 同じような例で、ベルっちとかメカはづきとかもいるわけですし。


 なお、アメリカではメカはづきを中心にした配信者ヒーローチームが生まれつつあるらしく。

 さらに、中国で新たなメカはづきの建造が始まっているそうです。


 ど、どうなってしまうんだ、世界はー!


「はづきちゃーん」


「あっ、スパイスちゃん、今帰り?」


 勇者パーティでもあり、フォーガイズの一人でもあるスパイスちゃん。

 見た目はちょっと露出度高めのゴスロリっぽいちっちゃい女の子なんだけど、中身はおじさんなのだ。

 彼女?がパタパタ走ってきて、話しかけてきた。


「本番でも言うと思うけどー、イギリスでも頑張ってね!」


「ありがとー! スパイスちゃんも頑張って!」


「うん! もうね、スパイスがいれば日本の平和は約束されたようなもんですからねー、あはははー」


 屈託なく笑うスパイスちゃんなのだった。

 よし、私が引退した後は任せました!


 なんとなく気持ちがスッキリした私は……。

 いよいよ始まる、引退リアイベに備えるのだった。


 さらば、配信者界!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る