第214話 オタクくんこういうの好きでしょ伝説
次の部屋……もとい、ダンジョンに向かう。
今度も狭小住宅なお部屋らしいですねー。
「こ、今度は私ですね! 参ります。えー、皆様、私のスタイルは現代魔法を使ったものなのですが……」
おっ、ぼたんちゃんの番が始まった!
かなり緊張しているけれど、彼女は兄の薫陶(くんとう)を直に受けた弟子なので大丈夫でしょう。
ドアを開けてすぐに、ダッシュで飛び込むぼたんちゃん。
ダッシュで!?
ぼたんちゃん!?
あ、兄の薫陶~~~!!
彼女が通過した直後、ユニットバスからゴブリンたちが飛び出してくる。
『ゴブ!』
『ゴブゴブ!!』
「あっ、あまりにもダンジョンが狭いのでユニットバスにいるしかなかったゴブリンたちが出遅れて……!」
「あー、折りたたみ式引き戸! あれ建付け悪いと開けるの時間掛かるんですよねえ」
はぎゅうちゃんが詳しいぞ。
どうやら彼女の家のお風呂場は、折りたたみ式の引き戸らしい。
ゴブリンは慌ててぼたんちゃんを追いかける。
そこでぼたんちゃんは飛び上がりながら振り返り、
「私の姿を見たモンスターは……死ぬわよ……! 死出の旅に誘いましょう!」とかなんかかっこよさげな口上を述べた。
あ、兄の薫陶~~~!!
ぶわっと広がる、輝く燐粉。
それがゴブリンたちに触れると、次々に着火した。
『ゴ、ゴブ~ッ!!』
燃え上がって倒れていくゴブリン。
あ、ダンジョン化していると炎や雷を使っても、現実の家屋への影響はありません!
※『おかしいな……初めて見るはずなのに、とても懐かしいファイトスタイル……!!』『私たちは知っている……! この戦う前にかっこよく見栄を切って、いちいちアクションが大仰な戦い方を……!』『この娘、斑鳩の弟子じゃね……?』
気付いてしまったか……!!
彼女は民族衣装っぽい清楚なスタイルだから、兄みたいなゴロゴロ回転したりするアクションはしない。
その代わり……。
※『扇だ!』『金色と銀色の扇……扇二刀流だ!』『私たちは知っている……! 色違いの得物二つ持ったこのファイトスタイルを……!!』
まんまじゃないか!?
扇は金属製らしくて、奥の部屋から襲いかかってくるモンスターの攻撃を広げたこれを盾代わりにして受け止めている。
相手の勢いを利用して、羽根の揚力も使ってふわっと後ろに浮かび……。
「そこ……死地ですよ……!」
いつの間にか燐粉がモンスターたちの足元に。
で、それが氷の柱に変化してモンスターたちを貫くのだ。
※『トラップだ!』『テクニカルな戦いもできるタイプかあ』『イカルガ初の搦め手スタイルじゃないか』『いや、もみじちゃんももみじちゃんで訳の分からんスタイルだけど』
回を重ねるごとに異質さが浮き彫りになるもみじちゃん。
バーサーカーパワーと多彩な現代魔法と惣菜パンの比較だもんな。
さて、ぼたんちゃんは順調にその力を見せつけていた。
本人は着実な感じでカチッと敵を罠にはめていく。
やるなあー。
そしてこのダンジョン……。
ダンジョンとしてはかなり狭めの、二十畳くらいの広さ。
これってもしかして、元の部屋に戻ったら三畳くらいの広さしかないんじゃない?
せ、狭い……!!
私の部屋の半分未満の広さしかない賃貸ってコト……!?
私が別の意味で衝撃を受けていたら、ぼたんちゃんが燐粉を部屋中に充満させていた。
なんだなんだ。
ま、まさかこれは……!
モンスターたちは構わず、ぼたんちゃんに襲いかかろうとしている。
「皆さん、私が何をしようとしているがお分かりですか?」
ぼたんちゃんの問いかけに、コメント欄がざわつく。
※『オイオイオイ』『まさかこれ……』『燐粉が部屋中に満ちて……』『ここに、着火を……!?』『えっ、これってつまり……』『俺たちの大好きな……』
「皆さん……いいえ、オタクくん、こういうの好きでしょ……? 粉・塵・爆・発!」
※『きたーーーーーーーっ!!』『うおおおおおお』『マジかあああああああああ』
盛り上がるコメント欄!
「オタクの人は粉塵爆発って聞くとテンション上がるらしいね」
「そうなんすか!?」
私の説明に驚くはぎゅうちゃん。
この場で最もオタクから遠い子……!
かくいう私もアニメとかラノベの粉塵爆発は嫌いじゃない。
ぼたんちゃんが、燐粉に向かって魔法を使う。
すると……部屋中を覆っていた燐粉が次々と連鎖爆発を起こした。
ここで爆発魔法を使う辺りが分かってるなあ……!
もちろん、モンスターたちは巻き込まれ『ウグワーッ!?』と全滅。
派手な絵面と、なかなかダンジョン配信では見られない粉塵爆発に大喜びするコメント欄。
現実で起きたら悲劇だけど、ダンジョン配信でなら娯楽だもんね。
これはぼたんちゃん、掴みはバッチリだなあ。
自己演出していくタイプの配信者。頭のいい彼女にピッタリだと思う。
地の可愛さで勝負するもみじちゃん、地の天然さで勝負するはぎゅうちゃん、地頭の良さで勝負するぼたんちゃん。
三者三様ではないか。
「どうでしたか、新しくデビューする二人の配信。チャンネル登録は動画の詳細欄にありますから、皆さんよろしくお願いします~!」
私が説明しながら、次の部屋にいたダンジョンボスをゴボウで叩くと、『ウグワーッ!!』と消滅した。
ダンジョンがマンションに戻っていく……!
そして部屋も狭くなっていく……!
「あっあっ、狭い狭い」
「師匠! 思った以上に狭いですよここ!!」
「あー、狭くて思わず密着しちゃう……」
「いやいやぼたんちゃん、そんなに狭くない、狭くないから!」
※おこのみ『やはりここにも粘度の高い百合の香りが……!!』『これは素晴らしいですよ。百合営業でもこういう素が見える瞬間でガチ度が分かりますからね』『新人さんの配信も楽しみですねえ……』
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