第251話 はづきの闘技場チャンピオン伝説

『ええい、行け、次なる戦士よ! 異世界の配信者などに敗れているのではない! 見ろ! ケンタウロスの肩に顎を乗せてだらけた姿勢で休んでいるあの女が強そうに見えるか!?』


※『これはぐうの音も出ない正論w』『魔将に一本取られちゃったなあ』『事実陳列罪だぞやめて差し上げろ』


「こ、こらー! 私を援護しなさいお前らー!」


※いももち『そもそも異種族とは言え男性の肩に顎を乗せるのは炎上案件では』


 いももちが真面目なこと言ってる!!


「これはですね、ブリッツさん割とムキムキじゃないですか。前が見えないんですよねー。なのでこういう姿勢に……」


「でかくて済まん……」


「いやいや、ブリッツさんが謝る必要ないからー! みんなを守るためにたくさん鍛えたんでしょ? これはとてもいいムキムキなのです」


「ありがとう……! お前は優しいなハヅキ……」


※『なんか乙女ゲーでヒーローを落とす展開みたいなやつじゃない?』『的確な選択肢を選んで好感度をあげたわ! 恐ろしい子……!!』


「や、やめろー」


 ええい、コメント欄は敵か!

 炎上しても弾丸が増えるだけとは言え、私は純粋なお前らの心にダメージを負わせる気はないのだ……。


「ハヅキ! 次なる敵だ! くそっ、なんという長さの槍だ! 一方的に攻撃を仕掛けるつもりだな! くっ、闘技場が狭まって、避けられなくなった……!!」


「ほうほう」


 私はブリッツさんの背中に立膝で乗りながら、バーチャルゴボウの先端を緩めた。

 これで固定が解けて……。


『ブルアアアアアア!!』


 襲いかかる悪ケンタウロス!


「あちょっ」


 バネで思いっきりビヨーンと前方に伸びるバーチャルゴボウの先端。

 これが槍を雑に払って、そのまま伸びて悪ケンタウロスに当たった。


『ウグワーッ!?』


 吹っ飛ぶ悪ケンタウロスたち。

 これをたくさん繰り返す。

 悪ケンタウロスがどんどん吹っ飛ぶ。


 敵の槍が長いなら、こっちも長く持って、バネも長めに伸ばして叩けばいいのだ!


『おのれおのれおのれ!! もう闘技場などという遊びは終わりだ! 全方位から攻め立てろ戦士たちよ!! あの女をひねりつぶせーっ!!』


 いきなり闘技場がめちゃくちゃ広くなった。

 円形のコロシアムっていう感じね。


「まずい! 俺たちケンタウロスは小回りが利かないんだ……! くそっ、まずい状況になった……!」


「なるほどー」


「どうするハヅキ……!?」


「私が全方位攻撃をするしかないね。お任せください……。えーと、ブリッツさんはなんか適当に走って」


「適当に!?」


※『なんというアバウトな指示!!』『だが的確だ……』『ブリッツ! 走れ走れ! まず走りやすいまっすぐとか!』『お前が背負ってるのは、アドリブで様々な地獄を粉砕してきた女だぞ!!』


「! 分かった!」


 指示厨もいいことをする。

 真っ直ぐ駆け出すブリッツさん。

 で、私はAフォンを展開する。


 日々集まってくるたくさんのアンチ発言。

 倒されても倒されても、次々に立ち上がって襲いかかってくる不屈のアンチだ。


 いい蠱毒ができた。


「えー、むにゃむにゃ、せつ!」


 せつ、というのは切と書くのね。

 印を切るという意味があるんだって。


 私の頭上に浮かんだAフォンから、アンチ式神がどんどん出てくる。

 私はこれをちょっと工夫して……。


「発射!!」


『ああああやめてええええ』『しんじゃううううう』『体が勝手にいいいいい』


 そう!

 式神にプログラムで勝手に敵に向かって加速するよう仕向けたのだ!

 これ、式神を作る過程で色々やれるんだよね。


 宇宙さんと「君は呪詛を扱う術式に恐ろしいほどの適性があるな。もともとの根が陰のものだったからではないか」「ちくちく言葉やめてください」というやり取りをしたのだった!


『な、なんだこれは!?』『使い魔を使い捨てにして放ったのか!?』『これはまるで、たちの悪い死霊術師……ウグワーッ!?』『使い魔を自壊させながらその力で爆発を!?』『ウグワーッ!!』


※『はづきっちのアンチ蠱毒アタック、マジでたちが悪くなってて草なんだ』『なんか集団の鍵垢とか捨て垢から攻撃食らってただろ?』『そうそう! だけど一日でピタッと止まって』『何をやったんだはづきっち……』


 私たちを囲んでいた悪ケンタウロスたちが、次々に吹き飛んでいく。

 でも、これは全部Aフォン任せなので私の両手はフリー。


「バーチャルゴボウ二刀流……いや、二槍流! あちょちょー!」


 前からくる悪ケンタウロスは、槍でぺちぺちと払う。

 闘技場にいた悪いケンタウロスは、全員地に伏した。


『なんということだ』


 場内アナウンスになってる魔将の声が響き渡る。


『俺の魔法結界に誘い込んだと言うのに、貴様の力を削ぐ事が叶わんとは……! ここは、貴様ら人族が持つ正の力、魔力や聖なる力を削ぎ落とす結界! だというのに、貴様は強いままだ!』


※『はづきっちが使ってるのは呪詛返しだろ』『呪詛そのものだよなw』『それから大罪勢の力でしょ。存在的には敵側なんよw』


「確かに、あまり私も胸を張って光の使者、みたいに言えない気がしてきたなあ……」


 ここで私、ブリッツさんの背中からよっこらしょ、と降りる。


「一人で戦うのか、ハヅキ!」


「うん、魔将が出てきたらほら、バーチャルゴボウだとちょっと弱いので! ここは……ゴボウで……」


 ポーチからゴボウを取り出す。

 すると、なんかマイフェイバリットお野菜がキラキラと輝いているではないか。


※『このピンク色の輝き、今までは色欲の光とか食欲の光とか言ってたけど』『敵側の力を高める結界で強くなってるってことは……そうなんでしょうなあ』もんじゃ『はづきっちが纏う力は、魔王に類するものだったと言うのか……!?』『なんか納得した』『そうよねー』


 人聞きが悪いなあ!

 コメントとやり取りする私の眼の前に、ゆっくりと魔将が現れる。


 八本足で灰色の物凄く大きなケンタウロス。

 赤いたてがみが風になびいている。

 この間逃がした馬の魔将だ。


「ス……スレイプニル……!!」


 ブリッツさんが叫んだ。


「と、とんでもない強さになってる……!! あいつ、準備を整えてやがった! この間とは桁違いの力を感じる……!」


『はははははははは!! その通りだ! やはり俺が出てこなければ始まらないようだな! この間とは違うぞ! 謎の力を使う女よ! 俺は圧倒的につよ』


「えー、じゃあ倒していきますね」


『なっ!? ぬるりと間合いに!?』


「なんかですね、ここだと小走りがめちゃくちゃ早くなるんですよ。あちょっ」


『ぬうーっ!!』


 私がつん、と突き出したゴボウを、跳ね上げた槍でそらす魔将。

 おお!

 このつん、を防がれたのは初めてかも知れない。


 強い!


※『こいつ、めちゃくちゃ強いぞ!』『はづきっちの必殺の初撃を防いだ!』『大口叩くだけのことはある』


「じゃあ連続で行ってみましょう。あちょちょちょちょ!」


『ぬおおおおおおおおおおおおおお!!』


※『うおおおー!! はづきっちの怒涛のつんつんゴボウ!』『スレイプニル、これを槍を回転させて防ぐ!』『すげえええええ』『はづきっちの攻撃をここまで凌ぐのは流石だなあ』


「お前らどっちの味方だー!」


 コメント欄、私のリスナーでしょー!

 で、まあ、私の手数が加速していって普通に魔将の人が防ぎきれなくなった。


 防御の槍を抜けたゴボウが、ぺちぺちぺちっと当たる。


『ウッ、ウグワーッ!! おのれ! おのれーっ!!』


 魔将の人は叫びながら、猛烈な勢いでバックダッシュした。

 はやい!

 なんかこう、新幹線くらい速い。


 で、私の周りを走り出した。

 これは追いつくのはちょっと厳しいなあ。


 ぐるぐる回りながら、私を攻撃するチャンスを伺ってるみたい。

 私はゴボウを両手で構えると……。

 バッティングフォームを取った。


『どこから攻めてくるか分かるまい! 俺は! 目にも止まらぬほどの高速でお前を攻撃……!』


※『はづきっちの目、普通にスレイプニルを追ってね?』『この人の動体視力おかしいからな……』『出るぞ、バッティングセンター仕込みの……』


『串刺しだぁぁぁぁぁぁ!!』


「絶好球! あちょー!」


 私は一本足打法のままくるっと振り返り、大きく踏み込んでゴボウを振るった。

 ちょうどそこに突き出されてきた、凄く大きな槍が、ポキーンとへし折れ、ついでに振り切ったゴボウは魔将を思いっきり叩いていた。


 カキーンッという清々しい音がする。


『ウグワーッ!!』


 魔将の人は吹き飛んだ。

 で、くるくる回りながら空高くまで飛んだと思ったら……。

 なにもないはずのところに当たって、空にヒビが入った。

 パリーン!

 空が割れる!


『こんな……こんな馬鹿な……!! 俺は、俺は万全の用意をして……なのに、どうしてこんな……!! ウグワーッ!!』


 あっ、魔将の人が粉みたいになって消えた。


「ま……魔将スレイプニル撃破!! 魔王に下った邪悪なるケンタウロスの始祖がついに滅ぼされた!!」


 なんかブリッツさんが興奮して叫び、観客のみなさんがウワーッと盛り上がった。


「ナイバッチ!」「見事な打球だったねえ」「ホームランだあ!」


 大歓声の中、ダンジョンは消滅していくのだった。


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