第103話 湿原公園散策伝説
湿原公園についたら、大歓迎された。
「公園の一部がダンジョンになってしまって、誰も入れなくなってしまったんです。このままでは公園内の生き物たちも心配です! どうにか解決を……!」
風街さんにすがりつくようにお願いしていたおじさん、私を見てキョトンとした。
「……あれ? 子ども……?」
うんうん、まだ私は高校一年生だからね……。
ちなみにもう配信は始まっていて、これを見たうちのお前らたちがウワーッと騒ぎ出した。
※おこのみ『ご存知ないのですか!?』『彼女こそ!』『今をときめく冒険配信界にて』『無敵で究極のあひードル系配信者!』おこのみとその他大勢『きら星はづきちゃんですよ!!』
お、お前らー!!
練習してたのか! 練習してたんだな!!
ちょっと感動してしまった。
そしてつまりこの芸が生きるということは、私を知らない人が私をちょっと侮るような展開があるのを期待してたことになる。
そこには目を瞑ろう……。
愛しか感じない芸当だったし! 何度も言うけど正直感動した。
後でアーカイブも見返そう……。
この間もうちの駅前のダンジョンで、ご存知ないのですか!?が出たし、一般的な物言いなのかな。
※『同志おこのみがこの間リアルはづきっちを見たらしいしな』『聖地巡礼の帰りに? それで俺たちを集めたのか』『いいなー』『今度聖地でオフしよう』おこのみ『地の利を得たぞ! 案内しよう』『『『『うおー!』』』』
「私のコメント欄でオフ会の相談しないでくださーい!」
この様子を、湿原公園の管理者らしきおじさんがポカーンとして眺めていた。
どうやらインターネットをあんまりしない人らしい。
最近、どこに行っても名前を知られてたので、こういう私に無関心な人がいるとホッとする。
「彼女は年若いですが、超一流の冒険配信者です。ご安心下さい」
風街さんに言われて、おじさんはカクカクと頷いた。
やってくる情報量が多すぎて、頭の中がオーバーヒートしたんじゃないか。
こうして私たちは、普段なら480円とか入場料が掛かる公園にフリーに入って行った。
早く公園を元に戻さないと、運営もできないもんね。
「はづきさんは250円だと思うけど」
「あ、未成年だから……! あっと、えーと、釧路湿原国立公園は……」
私がウィッキーペディアで調べた情報を読み上げる。
思ったよりも情報が薄い!!
公式ホームページを見つけたので、ここを読み上げることにする。
※『観光案内みたい』『案件かよw!』『生真面目にそっちの仕事をしなくてもええんやで』
そ、そうだったのか!
せっかく観光地に来るから、色々調べてしまっていた!
とりあえず、カヌーとか遊歩道とか色々楽しそうなのがあるみたいだけど……。
「今回は状況の解決を優先するから、アクティビティを堪能するのはまた今度ということで」
湿原公園の一部がダンジョンになったと言うけど、あまりにこの公園が広いので、ダンジョンもひよって最初の展望台辺りにとどまっているらしい。
「ダンジョンがひよるってあるんだ……」
「多分、野生動物がデーモン化したことが元凶ね。思ってたより湿原公園が広かったんで、まずは狭い範囲をダンジョン化したのだと思う」
風街さんの説明を受けながら、湿原公園を見て回る。
雄大な景色に、様々な濃淡の緑。
ちょいちょい水場もある。
「うーん、心洗われるような……」
※『観光配信になってる』
「しばらくのんびり歩くからねー。あ、じゃあこの間のスパチャを読みます」
※『ダンジョンに向かう途中がスパチャ読み配信とは』『新しい』
一つ一つスパチャを読みながら、湿原を歩いていく。
しかし……広い。
異常に広い。
ひたすらスパチャを読みながら歩く、歩く。
すると、視界の端をキョロキョロしながら走っていくゴブリンが見えた。
「あ、迷いゴブリン」
「ダンジョンの外に出たはいいものの、公園が広すぎて帰れなくなったのね」
「モンスターでも迷っちゃうかあ」
「ダンジョンはそこそこ広いけれど、それでも閉鎖空間だものね。退治しておくね」
風街さんが歌声に乗せた魔法で、ゴブリンを撃破した。
『ウグワーッ!』
ゴブリンは湿原公園を汚すことなく、光になって消えていく。
モンスターはエコ。
こうして歩いていく間に、迷いモンスターがちらほらいるくらい。
そんなに危険ではないのでは……?
と思いながら、目的地である展望台に到着です。
「かなり歩いたー。すっかりお腹が減っちゃった」
※『はづきっちのエネルギーないなった』『大丈夫?』『このスパチャで食べ物買ってもろて』
「あっ、スパチャありがとうございます! エネルギーゼリー買います!」
10秒チャージするやつを早速購入し、にゅるっと飲んだ。
ゴミはAフォンのストレージに収納。
「じゃ、じゃあ行きましょう!」
「ええ。でも、はづきさんが憤怒のナカバヤシを倒してから、モンスターやデーモンが全国的に弱体化しているというのは本当だったようね。上位モンスターの目撃例もほとんど無くなったし」
「あー、あのなんか強かったモンスターですか」
「ええ、そう。デーモン化した怨霊くらいしか警戒する相手はいないと思う。少なくとも、私たちクラスはね」
そんな雑談をしながらダンジョンに踏み込んでいく。
なるほど、なんか空気が変わった。
展望台と湿原が混じり合ったみたいな不思議な空間。
だけど、広さはそんなでもない。
「壁が見えるー。狭いー」
「デーモンも縄張りを持つ動物だし、広すぎると落ち着かないんだねえ」
「展望台をダンジョン化して引きこもってるくらいですもんねえ」
※『広すぎるとダメ、わかる』『六畳一間くらいの広さでいい』『モンスターですら迷う広さだもんな』
みんなでワイワイ言っていたら、どうやらこれが癇に障ったらしい。
『好き勝手言いやがってー!!』
なんかデーモンが出てきた。
く、熊だーっ!?
熊が喋ってる!
いや、全然ファンシーな感じじゃなくて、あちこち棘が生えたり角が生えたりしたどす黒いヒグマなんだけど!
『でかいことをやろうとしたらクッソ広かったんだよ!! こんな広いなんて思わねえよ! どうすりゃこの公園がダンジョンにできるんだよ!』
「ぎゃ、逆ギレ!」
※『デーモン涙目で草』『早くラクにしてやって……』
「はーい」
コメントに後押しされて、私はデーモンのところにテコテコと駆け寄っていった。
『い、いや、だが、待っていた甲斐はあった! お前のような弱そうな配信者を倒し、俺は有名になって力を得て……待て。そ、そのゴボウ、ゴボウはまさか……』
※おこのみ『ご存知ですね!!』
「めっちゃ嬉しそう」
おこのみのコメントを読みながら、私はゴボウをピュッと振った。
デーモンにペコンと当たり……。
『ウグワーッ!? よりによって来たのが……き、きら星はづき~!!』
なんか叫びながら消滅していった。
あっという間に解けてしまうダンジョン。
「ひえー、デーモンにまで名前を知られてるんですけど」
「彼、はづきさんが活動を始めてから怨霊化したタイプだったみたい。最近の熊ってネット見てるのね。それにあなたの名前って、向こうからすると悪夢の代名詞みたいなものになってない?」
「ええ……。そ、そこまでのことはしてないつもりなんですけど……!!」
※『自覚のない無双系かな?』『俺たちの姫は謙虚だからな……』『そのうちデーモンにもはづきっち推しが現れそうだぜ』
こうして、初の遠征はサクッと終わるのだった。
これ、アメリカ行きの予行になるのかなあ……?
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