第273話 大魔将、東京湾に現る伝説
魔将は太平洋側の沿岸をかすめながら移動。
横須賀で米軍、自衛隊と激戦を繰り広げた後、これを撃破。
一切の現実兵器を受け付けぬその体は、今までに出現したあらゆるモンスターでも、もっとも強度の高い幻想で構成されていることが明らかになった。
怨霊、モンスター、デーモンは虚数元素である元素記号Fzこと幻想(ファンタズム)によって構成されている。
現実に存在する兵器は、この幻想を含有しないが故に彼らに有効打を与えることができないのだ。
それに対して、幻想で構成されたモンスターたちは現実への干渉能力を持つ。
これは彼らが姿を現すことで、観察者である人間たちが恐怖し、これによって現実とのつながりを生むためらしい。
「なんだそうですねえ」
※『いきなり細かい解説を始めたぞw』『どうしたはづきっちw』『誕生日おめでとうw』『誕生日配信をヌルっと告知無しで始めるなw!』
「いやー、実は普通に自宅に帰ってたんですけど、前泊用にホテルが取ってあったらしくてですね、エッチな同人誌は家じゃないと読みづらいからって伝えたんですけど怒られちゃいました」
※『そりゃあねw』『はづきっち昨日コミベで見かけたって話があったけど』『あ、それそれ! 本人だったの?』
「あ、はい。ビクトリアと二人でコミベ行ってました。もちろん私、未成年なので大人向けの本は買ってませんよ。買ったのはビクトリアです。私はたまたまビクトリアの部屋で、私を題材にしたエッチな本を見つけて読んだ……そういうことになっている」
※『な、なるほどーw』『誰にも迷惑がかかってない』『策士はづきっち』『それで昨夜、エッチな本に大量にはづきっちがいいねしてたのか』
「あっ、また流れていた!?」
※『はづきっちのフォロワー何人いると思ってるんだw』『いいねしましたってのが一千万人単位に流れるのよw』『最強の広報』『スイカブックスの在庫が一瞬で全滅したらしい』『だろうな……』『経済が回っておる……』
「大変結構なお点前でした。日付が変わる寸前までに全部読みました。あ、もちろんビクトリアの部屋で」
※『アリバイを付け加えたぞ!』
「で、今は兄の車で向かってるところでー。あ、今日は東京の路線全部止まってるんで、みんな家で大人しく動画を見ててくださいね。危ないので。なんか魔将が本気を出したら関東圏丸ごと飲み込まれる試算が出てるとかでー」
※『やべえやつじゃん!』『だから全部の会社が休みになったのか!』『インフラとインターネットだけ繋がってるんだよな……。維持してくれてる人本当にありがとうございます』『非常事態宣言じゃん』『頑張ってくれはづきっち~!』
「がんばるー。というわけでですね。今日は私の誕生日なので、凸待ち企画をですね」
※『この状況下でもやるのかw!!』『初志貫徹~!』
じゃあですね、最初の凸を待って……。
えっ?
みんな出陣してて凸してくるどころじゃない?
「じゃあ、今回はやり方を変えて逆凸を……。ああ~、緊張するぅ……」
※『はづきっち以外の大手配信者のチャンネル、凄いことになってるんだけど』『東京湾が丸ごとダンジョン化してるって!』『モンスターがどんどん出てきてるってさ!』
「ああー、大変。……あ、ザッコ繋がりました。えー、も、も、もしもーし。声載せていいですか? いい? じゃ、じゃあ自己紹介お願いしまーす!」
『こんパルー! ライブダンジョン所属、ウサギアイドルのピョンパルパル~! はづきちゃんお誕生日おめでとう~!! あれ、はづきちゃんの声が配信に乗った途端に周りのモンスターが弱体化したパルよ~?』
※『ピョンパルだー!!』『久々!』『いや、いつも配信してるんだけど俺らがここにしかいないだけw』
「ピョンパルさんありがとうございますー! お久しぶりです~。本当は凸企画だったんですけど、みんな忙しいから逆凸に……」
『全然いいパルよ~! よっ! ほっ!! は! ちょっと向こうの眷属が多いパルねー。パルが経験したダンジョンでも一番ヤバいやつパルよー! 個人勢の人たち、みんなはづきちゃんのフィギュア装備してるパルよ! そうでなかったらかなりまずかったパルねー。あ、なんか楽しい話できなくてごめんパルね! ちょっと忙しくなってきた……!』
「あ、はーい! じゃあまたよろしくお願いします! コラボしましょう~!」
通話終わり。
用意していた会話デッキ全然使えなかったなあ。
まあ、みんな忙しいもんねえ。
「じゃあ次は……も、もしもーし。どうもー」
『お誕生日おめでとうございます! 生徒諸君、整列! 風紀委員長風花雷火です!』
※『委員長きたー!!』『大物ばっかり逆凸するじゃんw』『企業系の中心人物ばかりだぞw』
「委員長ありがとうございます~! あのあの、この間委員長に教えてもらった銭湯行ったら凄くよくて……」
『整ったでしょう……。でもはづきさんはお若いからまだそこまで体をいたわらなくてもですね。ああ、わたくしもまだまだ若いんですけど。ところで先日のはづきさんの配信で……』
※『普通の会話してるw』『委員長バリバリに戦ってるぞ!』『体と頭が別々に動いてるw』『さすがだなあこのレベルになると……w』
しばらく談笑したあと、5分経過したのでここで終わりになった。
『じゃあまたコラボしましょう! いい感じの公園を見つけたんです。ここで怪しい食品を買い食いするというリアルな配信をですね』
「あ、はい! ぜひぜひ~! 今日はありがとうございました~!」
「はづき。ここで向こうの状況も見ておこう。トップ配信者以外は逆凸すると態勢が崩れる可能性もある」
「あ、なるほどー」
※『斑鳩の的確なアドバイス!』『いや、普通この状況で逆凸とかしないのよw』
それはそうかも知れない。
さて、魔将と戦っている皆さんはどうでしょう……。
「あっあっ、なんかものすごいことになってますねー。空が海の色してますねえ。空を禍々しい感じの魚が舞い踊ってて、次々槍とかみたいになって降ってくる感じで……。これは端的に地獄ですね~」
※『やばい状況を明るい口調で語ってる!』『まあはづきっちは状況がやばくなるほど平常心になるからな……』『はづきっち的に今回の相手はどう?』
「うーんと、多分これ、カメラの一番奥に見えてるあの大きいのが魔将だと思うんですよね。ゆっくり動いてて、手を振り上げると空を飛んでる魚の群れがドバーッと増えてます。これ、アメリカを攻撃してた色欲のマリリーヌよりも多分、遥かに格上だと思いますねー」
※もんじゃ『いつもはのほほんとしてるけど、はづきっちは世界トップクラスにたくさんのデーモンを撃破した配信者だからな。誰よりも知見が深いと見て間違いないぞ』『ドカ食いしてニコニコしてるだけの女の子じゃなかったんだな……』『これ、魔将までたどり着けてない感じ?』
「魔将までなかなか届かないですねえ。あと、どんどんダンジョンの領域が広がってる? 車からも、空がどんどん深海の色に染まっていくのが見えますねー。あ、そろそろこの辺りの道路も飲み込まれそう……」
「好都合だ」
なんか兄が笑ってる。
「この辺りまでダンジョンになってくれるなら、俺の愛車は配信者の武器扱いにできる。配信者はイマジネーションによって自分の思う現実を拡張する……!!」
「えっ、そんな設定が!?」
※『斑鳩の俺設定だぞw!』『騙されるなはづきっちw!!』『やっぱこの兄にしてこの妹ありだな……w』
こうして私たちは強制的にダンジョンに飲み込まれ……。
誕生日配信をしながらの魔将対決がスタートするのだ。
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