第57話 司会進行、日々是勉強伝説
司会進行の練習が始まった。
私はなんかこう、運動会の司会進行みたいなカチカチっとしたのを想像してたんだけど……。
「はい、じゃあ次はですねー。とある配信で委員長とキャプテンがコラボした時のこの映像を御覧ください」
「うわーっ、これかー!!」
「ちょっとちょっと、キャプテンこれ恥ずかしくてトラウマなんですけど!」
ば、バラエティ番組だ!!
私は衝撃を受けた。
私の仕事はバトラさんの補佐で、クイズの内容を読み上げたりする感じなんだけど。
バトラさんみたいに格好良く読めないのだが?
「いいですね、本番はそれで行きましょう」
スタッフさんからOKが出たんだけど!?
下手くそであれってことなのか……!
「はづきちゃんのは味ってことね」
「ええ、そうですね。みんな卒なくこなす上手い人だったら、誰がやっても同じじゃないですか」
「はづきさんはその、わたわたするところが魅力ピョンなー」
「うんうん、かわいい! キャプテンは好きだなー」
肯定されてしまっている!
そうか、冒険配信者界隈は、キャラクタービジネスなんだ。
キャラ付けをきちんとやるのがいいんだな。
じゃあ私は私のまま、必死にこの仕事をするだけである。
私は手加減とか手抜きはできない。
常に全力で、全開でキョドる。
あまりこなれないように……というスタッフの不思議な気遣いとともに、その日のリハーサルが終わった。
後は本番を待つばかり。
ここで私、気付く。
「これ……お三方の動画を勉強しないといけないですよね!」
「はづきちゃん真面目ねえ。偉いわー」
バトラさんにめちゃめちゃ褒められた。
いやあ、今まで勉強しないで、素のままの自分でやってたから……!
きっとここからは努力が物を言う領域なのだ!
帰宅してすぐに、三人のアーカイブを勉強することにした。
一人でもくもくと動画を見る。
……長い!
時間が……時間が足りない……!!
こんな時の切り抜き動画。
だけど、動画の量も多い!
私はPCに張り付いて、必死になって動画をチェックし……。
「あははははははは! ふひひひひひひ! うふふふふふふ!!」
おもしろっ。
アーカイブの見どころがギュッと凝縮されているから、めちゃくちゃ面白い。
これが切り抜き動画……!!
そう言えばたこやきも、わたしのまとめをたくさんアップしてたなあ。
今は私の配信が少ないから、過去のアーカイブから色々な場面を切り抜いてきて特集を作ってるらしい。
今までたこやきの凄さが分かってなかったけど……。
これは勉強になるなあ。
私の動画の振り返りにもなってしまった。
気がつくと、丸一日動画チェックだ。
「うーん、なるほど、なるほど……。私の動きを完全に理解した。……なんだこれ?」
全く分からん。
理解するほど分からなくなる。
なんで私はこの不思議な動きをして、動いたところにモンスターが出てきて勝手に当たって消えるんだろう。
うーんと考えていたら夕食の時間になり、夕飯を食べたら眠くなったので、お風呂に入って歯を磨いて寝た。
起きれば本番の日。
準備は万端!
だって、私の過去動画をめちゃくちゃ勉強したし!
……私の?
過去動画……?
「あっ、委員長さんとピョンパルさんとキャプテンさんの動画の内容を全て忘れた……!!」
愕然とする私だが、時間は待ってはくれないのだ!
そのまま今度はライブダンジョンのスタッフさんが運転する車に詰め込まれ、会場であるダンジョンに向かった……!
挙動不審な私の姿を見て、ハッとするバトラさんとピョンパルさん。
「これははづきちゃん……仕上げてきたわね」
「さすがはづきさんピョンな。プロ意識が高いピョン!」
なんでー!?
舞台になるダンジョンは、かつて劇場だった場所。
経営が傾き、施設も老朽化し、運営会社は夜逃げした。
過去に色々なドラマがあったところらしくて、今も怨霊というか、残留思念がデーモン化したモンスターたちが演劇を繰り広げているとか……。
「じゃあ、サクッとステージを片付けてしまいましょう!」
風紀委員長の掛け声で、デーモン退治が始まった。
ダンジョンと言うか、とにかくだだっ広い空間。
どこにも壁はなくて、無限に続くかと思われるような座席が連なってる。
その中心にある物凄く大きなステージで、デーモンたちが何かお芝居をしていた。
「斉射ーっ!!」
そこに容赦なく、大砲みたいなのをたくさん撃ち込むキャプテン!
あの人の魔法らしい。
ピョンパルさんと委員長が上がって行って、デーモンを蹴散らしている。
配信はもちろん、もう始まっている。
コメントが流れる流れる。
※『はづきっちは観戦モード?』
「司会進行の台本覚えられなくて……!」
※『頭脳労働だったか』『がんばって』『今日も面白いの期待してます』
期待しないでいただきたい!
そのうちに、ステージ上のデーモンはほぼほぼ掃討し終わったみたい。
流石はなうファンタジーとライブダンジョンのトップ配信者。
というか、これだけの面子が集まってダンジョン攻略するのって、この間のダンジョンハザードみたいな大きな事件でもないと、まずありえないんじゃ?
「デーモンを全滅させたらダンジョンがなくなっちゃうからね。ここがベテラン配信者の腕の見せ所だわ。ダンジョンという状況を利用しながら大会を運営する……」
「バトラさん、そ、それってダンジョンを踏破するから同接を集めるんじゃなくて、同接のためにダンジョンを残しておく的な……」
「逆転してるわねー!」
そう言ってバトラさんは笑うのだった。
まあ、こういうイベントをしてファンを増やして繋ぎ止め、同接数になる人を確保するっていう目的でもあるみたいなんだけど。
「それでは始めましょうか、はづきさん獲得クイズ大会!」
委員長が高らかに宣言する!
だけどちょっと待って欲しい!
私を獲得!?
「あひー!」
理解を超えた状況に、いつもの悲鳴をあげ、それがイベント開始の合図になるのだった。
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